第37話 私はここにいる
今日も、いつもと変わらない休日だった。
家族はみんな、家の中でのんびりと過ごす。
日によっては、家族で外へ出かけたりもするのだが、今日は、みんながなんとなく、家でのんびりしたい気分らしい。
私は、自分の部屋で、パソコンを使いながらくつろいでいたが、なんとなく暇だったため、家の中をうろうろと歩いてみた。
父は、趣味の雑誌を横になりながら読んでおり、母は、何やら手の込んだ料理を作っていた。
兄弟たちはというと、テレビを見ていたり、マンガを読んだりしている。
みんな、自分たちの方法でくつろいでいたので、私の話し相手になってくれそうな家族はいなかった。
私は、もう一度、自分の部屋に戻り、何か楽しめることはないかと探し出す。
だが、これといって楽しめそうなものはなく、もう一度パソコンを使いだす。
パソコンでニュース記事を読んだり、音楽を聴いたり、ゲームをやったりしながら、くつろいではみるが、なんとなく物足りない。
他に何かやることはないかと思いながら、部屋に寝転がってみた。
寝転がりながら、窓から空を眺めると、雲一つない、いい天気だった。
私は、外に出てみようと思い、部屋を出た。
家でくつろぐ家族に、外に出ることを伝えたが、みんなの返事はなかった。
よほど、みんな、くつろいでいるらしい。
私は、家族の返事がないことを特に気にもせず、家を出て、近所を歩いてみた。
誰かに出会うかと思ったが、今日は誰も歩いていなかった。
公園にも、人は一人もいない。
今日は、家でくつろぐ人が多いのだろうか。
そう思いながら、のんびりと歩いていく。
結局、近所の周りを一周してみたが、特に何事もなく、短い時間に散歩をしただけになった。
家に帰ると、家族はまだ自分のしたいことをして、くつろいでいる。
私が、散歩に行って、帰ってきたことも、おそらく気づいていないくらい、のんびりしていた。
ずっと家にいて、暇にならないのかと思ってしまうが、みんな、それなりに上手に時間を使っているのだろう。
私は、料理を作っている母に近寄って、何を作っているのか聞いてみた。
しかし、母は、私の方を振り向きもせず、もくもくと料理を作っている。
それを見て、あまり邪魔しないほうがいいのかと思って、私はその場を離れた。
そして、部屋に戻り、少し休憩することにした。
こんなにも、時間が経つのが、ゆっくりな一日も珍しいなと思いながら、次は何をしようかと考えだす。
だが、したいことがある時には、なかなか時間がないものだが、逆に何かやりたいことを探そうとすると、見つからない。
どうしようかと思っていると、外の部屋から、家族の話す声が聞こえてきた。
さっきまで、みんな自分たちのやりたいことをやっていたようだが、今は何やらみんなで会話しているらしい。
私も、何もやることがないので、会話に混ざろうと思い、自分の部屋を出た。
そして、家族の会話の中に混ざってみると、みんなは、母がさっきまで真剣に作っていた料理の話をしていた。
ロールキャベツを作っていたらしく、その出来栄えについて話している。
今日の晩ごはんは、ロールキャベツということで、私も大好きなため、晩ごはんが楽しみになった。
すると、今度は私の話になった。
だが、会話を聞いていると、何かがおかしい。
みんな、ここにいる私の話をしているのに、何故か過去形で話している。
母が、「ロールキャベツが大好きだったのにね。」と言うので、私は、「今も大好きだよ。」と答えたのだが、それに対して、誰も返事してくれない。
家族の反応におかしいと思い、みんなに話しかけてみるが、誰も私の声掛けに反応してくれない。
まるで、家族のみんなが、私が同じ場所にいることに気づいていないかのような雰囲気なのだ。
私は、もう一度、みんなに話しかけてみる。
しかし、やはり何の反応もない。
わざと、みんなの前に立ってみたが、それでも、私の存在に誰も気づいていないようだった。
一体どうしてしまったのだろう。
そういえば、今さらながら気づいたが、私は、家族みんなを少し上から見下ろしていた。
身長が高くなったというわけではなさそうだ。
ふと、足元を見ると、なんと私の体は、床から数十センチ浮いていた。
しかも、よく見ると、体が透けている。
私は、何故こんなことになっているのか、理解ができず、呆然とした。
いつから、こんなことになってしまったのか。
さっきまでは、普通に散歩もしていたはずなのに・・・。
でも、よく考えてみれば、散歩に行くときも、帰ってから母に料理のことで聞いた時も、みんなの反応はなかった。
あの時から、すでに私は、ここにいないことになっていたのだろうか。
私が、色々と考えている間にも、家族は私のことを話しながら、悲しそうにしている。
私は、必死に、ここにいることを伝えようと、声を出したり、動いてみたが、やはり誰も気づいてくれない。
家族のすぐそばにいるのに、誰にも気づいてもらえず、私は、その後もただ、家族を見守ることしかできなかった。
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