第36話 マグマ
今日は、とても天気がいい。
布団を干すには、最高の日だった。
私は、ベランダまで布団を持ってきて、何枚か干した。
普段と何も変わらない日常の作業の一つなのだが、何かに違和感を覚えた。
一体、何が、いつもと違うのだろう。
私は、周りを注意深く観察してみた。
布団に、特に問題はない。
ベランダの外の景色を見て、私は、はっとした。
いつもと、若干景色が違う。
いつもなら、目の前には、ずっと向こうまで家が建ち並んでいるはずなのだが、今日は、数キロメートル先に大きな山がそびえたっていた。
あんなに大きな山が、今まであそこにあっただろうか。
あったなら、確実に気付いているはずだろう。
あの大きな山は、おそらく、いきなり現れたのだ。
しかし、何故、現れたのかは、分からない。
いきなり大きな山が現れたとはいえ、距離は離れているし、特に問題なさそうだったので、私は気にしないことにした。
ベランダに布団を干し終わって、部屋の中へ入り、少しの間くつろごうと思い、私は、パソコンの前に座った。
すると、なんとなく地鳴りのような音が聞こえたような気がした。
だが、耳を澄ましてみても、もう音は聞こえない。
気のせいだったのかと思い、私はパソコンを使いだした。
しばらく、パソコンの画面を見ていると、また地鳴りのような音が響きだした。
次は、耳を澄ましてみても、確実に聞こえる。
地震が来るのかと思ったのだが、その後地面が揺れることはなく、地鳴りは止んだ。
山が現れたり、地鳴りがしたり、今日は、珍しいことが続く日だなと思いながらも、私は、そこまで気にすることなく、パソコンを使い続けた。
それから、数時間、地鳴りが再び起こることもなく、私は、干していた布団を、そろそろ部屋へ取り込もうと思い、ベランダへ行った。
ベランダから向こうを見ると、大きな山は、まだそこにあった。
周りの人たちは、この状況になんとも思っていないのだろうかと、疑問に思ったが、山が現れたことで、特に何か行動することもないため、そのまま眺めるだけにして、布団を部屋へ取り込んだ。
天気がいいので、取り込んだ布団は、とてもふかふかになっていた。
満足しながら、布団を片付けていると、突然大きな音がして、地面が揺れた。
私は、地震が来たのかと思い、とっさに、机の下に隠れた。
しかし、なかなか収まる気配がない。
ずっと、大きな音と揺れが続いている。
これは、地震ではないのだろうか。
一体、何が原因で、こうなっているのだろうか。
パニックになりながら、色々、頭の中で考えていると、ふと、あの大きな山のことを思い出した。
もしかしたら、この状況は、あの大きな山と関係があるのかもしれない。
そう思って、私は、ベランダへ行き、あの大きな山を見た。
すると、驚くことに、数キロメートル離れた、あの大きな山が、噴火していたのだ。
そして、噴火した山から、マグマがゆっくりしたスピードで、どんどん、こちらに迫ってきていた。
ここにいては、そのうち、マグマに巻き込まれるかもしれない。
私は、そう思うと同時に家を飛び出し、マグマとは正反対の方向へと走って、逃げ出した。
マグマのスピードは、それほど速くなかったのだが、確実に、こちら側へと近づいていた。
他の人たちも、みんな色んな方向へ逃げて行く。
外は、噴火したせいか、空気が熱くなっていて、息苦しかった。
私は、必死に逃げているのだが、マグマの方がスピードが速いらしく、どんどん距離が縮まってきた。
ふと、後ろを振り返ると、マグマはすぐそこまで迫っていた。
しかし、逃げ疲れて、これ以上速く走れない。
どろどろとしたマグマは、ゆっくりと、こちらに向かってくる。
マグマとの距離が、数メートルから数十センチに縮まっていく。
このままだと、確実に巻き込まれてしまう。
どこか、全く違う場所に、移ることができたら・・・。
そう思っていると、ふと、周りの景色が変わった。
周りは、白い建物が建ち並んでおり、まるでギリシャの街並みのような風景だった。
無事、マグマから逃げることができたのかと思い、後ろを振り向くと、なんと、マグマまで一緒に、ついてきてしまっていた。
しかし、移った先の街並みが、急な斜面になっていたので、私より下側にあるマグマの速度は、遅くなっていた。
それでも、マグマが近すぎて危険なため、私は、上の方にある真っ白い塔のような建物を目指して、逃げることにした。
必死に、斜面を駆け上がって、塔にたどり着く。
見上げると、とても高い塔で、一番上まで登ると、白い街並みが見渡せそうなほどだった。
この塔を登れば、マグマも来ないだろうと思い、私は、塔の中へ入って、最上階まで登ることにした。
何段もある階段を上がっていき、やっと最上階へたどり着くと、そこはとても高くて、見晴らしがよかった。
ここから、下のマグマを見てみると、急な斜面に負けて、塔までは到達していなかった。
私は、マグマから逃げることができたのだと思うと、ほっとした。
そして、この塔から見える白い街並みを、しばらく眺めていた。
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