第31話 商店街
ここは、私がよく行き慣れた、地元のアーケード商店街だ。
この商店街は、とても長く、おそらく数百メートルはあるだろうと思う。
端から端まで、普通に見ながら歩くだけでも数十分はかかるし、もっとゆっくりしようと思えば、この商店街だけで半日はつぶせるくらいの長さだ。
今日は、この商店街に特に用があったわけではないのだが、ゆっくりする時間があったため、半日ほど時間をつぶそうと思って、やってきた。
この商店街は、本当に店の数が多い。
実際に店舗数を数えたことはないのだが、おそらく数百店を超えるお店が並んでいるのではないかと思う。
お肉屋さんに八百屋さんに、総菜屋さんに食べ物屋さんや洋服屋さんまで、色んな種類のお店が、何件も並んでいた。
ここは、平日でも人の多い商店街で、いつ来ても活気にあふれている。
色んなお店からいい匂いが漂っていて、私はとりあえず、何処かでお昼ごはんを食べようかと思った。
色んなお店を見て回っていると、どのお店も美味しそうで迷ってしまった。
そして、私は迷った末、パスタを食べることにした。
お店に入ると、ここは本当に商店街の中なのかと思うくらいに、お洒落な店内で、おちついた雰囲気のゆったり出来そうな空間が広がっていた。
私は、ここで、ドリンクとデザートがついた、お得なランチメニューをチョイスした。
もはや、商店街のお店とは思えないほどの味の美味しさに、私は一人満足しながら、ランチを堪能していた。
残すことなく、ランチを食べ終えた私は、しばらく余韻に浸りながら、また商店街を歩き出した。
食べ終わったばかりなので、食欲はわいてはいないのだが、それでも、お肉屋さんや八百屋さんや総菜屋さんなどの、活気のあるお店を歩きながら見ていると、今日の晩ごはんには何を買って帰ろうかという考えになっていた。
その後も、まったりしながら、商店街を歩いていると、何やら先の方で人ががやがやとしており、騒がしそうに見えた。
何だろうと思って、歩いて近づいてみると、知らないおじさんに止められた。
「これ以上、近づいたら危ないから、下がって。」
そう言われて、止められたその先を見てみると、なんとお店で火事が起きていた。
火は見る見るうちに、燃え広がっていく。
商店街は、お店とお店の間隔が狭く、上はアーケードだったので、隣のお店も天井もどんどん燃えていった。
このスピードだと、私がいる所まで火が届くのは、時間の問題だと思い、すぐさま歩いてきた道を戻りだした。
結構、走りながら戻っていたつもりなのだが、それでも火の広がるスピードは速く、油断していると巻き込まれそうな勢いだった。
そこへ、消防車が到着して、消火活動が始まったのだが、火の勢いが凄すぎて、全く収まる気配がなかった。
火は、まだまだ燃え広がり、近くにいた人たちは、必死に逃げだしていた。
私も、巻き込まれないように必死で逃げていたが、商店街の入り口までは、まだ百メートル以上はあったため、このまままっすぐに逃げるよりかは、横の道へ逸れたほうが安全だろうと考えた。
それで、火の広がり方を注意深く見ながら、横の道へ曲がることにした。
私は、曲がった後も、火への恐怖から、しばらくは必至に走っていた。
そして、一生懸命に走って、気が付くと、全く知らない場所まで来ていた。
よく見ると、知らない場所は場所でも、誰かの大きな家の庭の中にいた。
庭には、大きな池があり、私はその池のすぐそばに立っていた。
周りを見ても、火は見えなかったので、火事からは無事に逃げられたのは分かった。
しかし、どうやって、個人宅の庭の中に入ってしまったのかは、いくら考えても分からなかった。
塀を乗り越えたわけでもないし、ドアから入ったわけでもない。
私は、この家の人に出くわしたら、ここへ入ったことをどう説明しようか困惑した。
もし、このまま出くわさなかったら、黙ってここを出ていいものなのだろうか。
そう考えていると、庭に、家の人と思われる男性が現れた。
私は、驚いてしまったが、男性はもっと驚いていた。
私は、怪しまれないように、申し訳なく挨拶をした後、正直にここへ入ってしまった理由を話した。
すると、男性は納得してくれて、私は何とか怪しまれずに済んだ。
それから、男性といろいろ話をしていて、分かったことは、この家が火事のあった商店街から数百メートルほど離れているということだった。
必死に逃げてきた私は、そんなに長い距離を走ってきたのかと驚いた。
その後、この家の男性に、自分の家に戻るため、商店街がある方向を教えてもらうと、お礼を言って、引き返すことにした。
とはいっても、商店街の火事が収まったのかは分からないから、商店街へ直接行くのは危ないので、回り道をして自分の家に戻ることにした。
商店街で半日をゆっくり過ごすつもりが、とんだハプニングに巻き込まれたが、自分の身を守れてよかったと思うのであった。
しかし、どうやって個人宅に入ってしまったのかは、未だに謎である。
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