第27話 都市開発

 私が住んでいるところは、閑静な住宅街といった感じで、いつも静かだった。

 緑も多く、家の前にも何本か木が生えていた。


 ある日、部屋の窓から外を見ると、静かなはずの住宅街に移動販売車が止まっていた。

 しかも、私の家のすぐ目の前だった。

 周りは静かで、住宅以外は何もないので、この販売車がとても目立って見えた。

 こんなところで移動販売車なんて、珍しいなと思いながら、窓から眺めていると、店員に「よろしければ、どうぞ。」と声をかけられた。


 私は、すぐ目の前だったので、家から出て、販売車に近寄ってみることにした。

 一体、こんなところで何を販売しているんだろう。

 そう思って見てみると、どうやらこの販売車では、ドリンクやファストフード、それにスイーツも販売しており、移動カフェを行っているようだった。


 普段は、静かな街に、いきなりこんなお洒落な移動カフェがやってきて、私はテンションが上がってしまった。

 メニューを見ていると、たくさんの種類があって、つい何か食べたくなってしまった。

 そこで、私は、ホットドッグとアイスココアを注文することにした。

 家はすぐ目の前だったが、せっかくなので、販売車の手前に置かれてあるテーブルと椅子で食べることにした。


 見慣れた景色であっても、そこに移動カフェがあるだけでとても新鮮で、味が物凄く美味しく感じた。

 一人で、味わいながら食べていると、母がそれに気付いたのか、家から出てきた。

 母も、「こんなところに販売車なんて珍しいわね。」と言いながら、メニューと私が食べている姿を見て、食べたくなったのか、パンケーキとアイスコーヒーを注文した。


 そして、親子で、楽しく会話しながら食べ、何故こんなところに移動カフェが来たのか、店員に聞いてみた。

 すると、店員は、最近この街が都市開発で開けてきたので、ここで販売してみようと思ったと答えた。


 私たち親子からすると、都市開発なんて言葉は、初耳だった。

 ここは、いつもと変わらない住宅街のはずなのだが・・・。

 

 そう思って、辺りを見回すと、見慣れたはずの景色が、少し違う。

 家の少し離れたところに、直径2メートルくらいの大きな木があったはずなのだが、それがばっさりと切られており、木のテーブルみたいな形になっていた。


 いつの間に、切られたんだろう。

 こんな大きい木なら、切られてもすぐ気付くはずなのに、今になって気付いた。


 移動カフェで食べ終わると、私たち親子は、木のところまで歩いて行ってみた。

 やはり、木は以前の姿を残しておらず、よく見ると周りの風景も変わっていた。

 住宅街しかなかったはずなのに、切られた木のあるところから左に、一本の道が延びている。


 母と二人で、その道を五十メートルほど歩いていくと、なんとそこには可愛らしい時計屋があった。

 こんな近所に、いつ建ったのだろうと思いながら、中に入ってみると、お洒落な時計がたくさん壁に掛けられていた。

 アンティークなものから、ポップなものまで実にさまざまで、どれだけ見ていても飽きなかった。


 しばらく、母と一緒に時計を見た後、外に出ると、その先の街並みもいつもと違うことに気が付いた。

 私たちは、その先がどうなっているのか知りたくなり、もう少し歩いてみることにした。


 すると、先に進むにつれて、どんどん人が多くなってきた。

 そこは、もはや閑静な住宅街の雰囲気とは程遠く、都市部といっていいほど賑やかだった。


 そのまま歩いていくと、私たちは、やがて地下街のようなところにたどり着いた。

 近くにあったフロアマップを見てみると、どうやら、新しく駅ができたようで、その駅と地下街がつながっているようだった。

 しかも、地下街からは駅のほかに、ショッピングモールにもつながっていて、地下街の中には、スーパーもあった。


 家から徒歩数十分で行ける距離に、駅やショッピングモールやスーパーができたことを知り、あまりの便利さに私と母は喜んだ。

 色んな場所に行ってみたかったが、フロアマップを見ると、かなり広そうだったので、一番興味のあるスーパーに行ってみようと二人で話し合った。


 スーパーは、今まで家から車で行っていたところとは違い、かなり広くて品数も多かった。

 しかも、徒歩で来れる距離にあるのだから、言うことなしである。

 私と母は、今日の晩御飯のおかずの材料を、このスーパーで買うことにした。

 普段、行っていたスーパーでは売っていないような、珍しい野菜や調味料などをついつい選び、広い店内を楽しみながら買い物をした。


 そして、レジで精算を終えて、いっぱいになった買い物袋を手に提げて、母と二人で家に帰ることにした。

 次に、ここに来た時はショッピングモールに遊びに行こうと母と話しながら、来た道を家に向かって歩いた。


 家に着くと、移動カフェの車はすでになくなっていた。

 しかし、その車のおかげで都市開発に気付くことができて、本当に良かったと思う。


 今日は、新しい発見があって、とても楽しい一日だったな。

 振り返りながら、そう思うのであった。

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