第26話 洞窟
私は、今、部下と二人で洞穴の調査に来ている。
洞穴は、入り口が直径十メートルほどで、奥行きが七メートルほどの、岩で自然にできたくぼみのように見えた。
この洞穴のある街から、今回調査してほしいとの要望があったため、ここに来たわけだが、見た感じは単なるくぼみにしか見えない。
それでも、何か分かるかもしれないと思い、部下と注意を払って、調べることにした。
洞穴の中は、かなりごつごつとしており、非常に歩きにくく、奥に進むのにも一苦労だった。
普段は、立ち入り禁止になっているせいか、自然がそのまま残っている雰囲気があった。
少しずつ奥の方に行ってみると、盛り上がっている部分や、少し凹んでいる部分があり、もしかしたら、もっと奥まで続いているのではないかと思えるような感じもしたが、くまなく調査してみても、この洞穴はここで行き止まりだった。
洞穴の岩の硬さを調べようと、持ってきていたピッケルで、壁を少し叩いてみた。
壁は、とても硬く、少し叩いたくらいでは、砕ける様子もなかった。
それでも、念のため、洞穴全体の硬さを調査しようと思い、部下と一緒に調べ始めた。
しかし、何処を叩いてみても、かなり硬い。
頑丈な洞穴なのだということが、この調査で分かった。
一番奥の壁を叩いて調べ終わり、部下と一緒に、そろそろ引き上げようかと思ったその時、大きな地震が起きた。
私は、立っていられなくなり、その場に倒れてしまった。
すぐに、地震は収まったが、倒れた足元を見てみると、岩が砕けていた。
壁の岩は、あれほど叩いても砕けなかったのに、足元の岩は簡単に砕けていたのである。
私は、引き上げるのをやめて、部下と足元の岩の硬さを調査することにした。
すると、足元の岩は、驚くほどに脆く、少しの力でも形を変えた。
そして、どんどん調べていき、少し凹んでいる部分の足元をピッケルで叩いてみると、驚くべき発見をした。
叩いた部分に穴があいたのだ。
穴があるということは、下が空洞になっている可能性がある。
私と部下は、その部分を必死にピッケルで崩していった。
穴はどんどんと広がっていき、最終的に直径二メートルくらいまでの大きさになった。
穴の下には空洞が出来ていて、まだ先が続いていた。
これは大発見である。
この洞穴は、洞穴ではなく洞窟だったのだ。
私たちは、この穴からさらに奥に進んでいくことにした。
ここからは、太陽の光が入ってこなくなるため、懐中電灯を使う。
狭い通路のようになっている自然の空洞を、どんどん奥に向かって歩く。
数十メートル進むと、開けた場所に出てきた。
そこは、最初にあった洞穴のくぼみと同じくらいの広さだった。
しかし、真っ暗だったため、作業しようとしても思うようにいかないため、ピッケルを使うのはやめて、目で周囲を観察することにした。
すると、奥の方に、また直径二メートルほどの穴を発見した。
一体、この洞窟はどこまで続いているんだろう。
そう思いながら、私はさらに奥まで進むことにした。
部下には、この先何かあっては危険なため、ここで待機するようにお願いした。
そして、一人で空洞を進んでいく。
進んでいくうちに、私は不自然なことに気が付いた。
歩いている空洞だが、気が付けば、壁も床もまっすぐになっており、きれいな通路のようになっていた。
まるで人工的に作られたかのような、そんな感じがした。
しかし、ここは洞窟の奥なのだから、そんなはずはない。
そう思いながら進んでいくと、一本道のその先が、きれいに右と左に分かれていた。
私は左に曲がってみると、驚くことに、そこには部屋の入口のような長方形の穴がいくつかあり、中は本当に正方形にくり抜かれた部屋のようになっていた。
しかも、部屋と思われる室内には、壺や二段ベッドのようなものが置かれており、明らかに誰かが住んでいた形跡があった。
昔、ここで誰かが住んでいたのだろうか。
そう思って驚いていると、反対側の通路から誰かの声がした。
部下は、さっきの場所で待機しているはずだから、ここにいるはずがない。
だとしたら、この声は一体誰なのだろうか。
戸惑っている間にも、その声がこちらに近づいてくる。
私は慌てて、二段ベッドの下の隙間に隠れた。
そこへ、声の主がやってきた。
私は、一体誰なのだろうと思い、ベッドの下から覗いてみて、びっくりした。
体は人間なのに、顔が馬の人物がそこに立っていたのだ。
上半身は何も着ておらず、明らかに現代人ではなさそうだった。
何か話しているのだが、言語が違うようで理解できない。
しばらく、ベッドの下でじっとしていると、馬のような人はどこかに行ってしまった。
私は、ここにいては危険だと感じ、部下の待機する場所まで戻ることにした。
通ってきたきれいな通路を引き返していると、後ろから、あの馬の人が追いかけてきた。
私は、部下のいるところまで、必死に走った。
入ってきた穴を出ると、私のあまりの必死さに部下は驚いていた。
しかし、部下に説明している場合ではない。
早くここから出ないと、馬の人に捕まってしまう。
私は、部下に「ここを出るわよ。」とだけ言って、必死に、歩いてきた真っ暗な空洞を、部下と一緒に走って戻った。
そして、太陽の光が届く穴の入口まで、二人で抜け出した。
すると、また大きな地震が起こった。
私たちがピッケルであけた大きな穴が、どんどん崩れてふさがれていく。
地震が収まったころには、穴は完全にふさがれていた。
助かった・・・。
街に提出する洞穴の調査書には、問題なしと記入することに決めた。
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