第18話 火狼と氷狼
私が今いるところは、日本ではなかった。
どこの国かは分からないが、どこか遠く離れた異国の地にいるようだった。
どことなく、西欧の雰囲気が漂っている。
私は、静かな通りを一人で歩いていた。
石畳の道は、なんとなくお洒落で、教会や博物館など、歴史的な建築物が建ち並んでいた。
そんな中、ひと際目立っていた建物があった。
大きな塔のような建物で、結構な高さがあった。
その建物は、石造りで、お洒落な彫刻が施されていた。
中に入ることができたので、入ってみると、中は外から見ていたよりも広くて、中央が上の階まで吹き抜けになっていた。
階段は、壁伝いに上までずっと続いていた。
結構な高さの建物なので、階段の一番上から下を見ると圧巻だろうなと思った。
私はこの階段を上ってみたくなった。
一番上までは、上れないかもしれないが、限界まで上って、吹き抜けになっている階段の真下を自分の目で見てみたかった。
そして、一段ずつ階段を上っていく。
最初は軽快に、いいペースで上っていく。
壁伝いに上っていくので、クルクルとまわりながら上っていく感じだ。
結構上ったつもりで、下を覗いてみると、まだ五分の一ほどのところだった。
また階段を上っていく。
自分では、まだまだ上れるつもりだったが、すでに息が切れてきた。
休憩して、下を覗いてみると、それでも、まだ五分の二ほどだった。
これじゃあ、半分の高さに行けるか行けないかくらいだなと思う。
休憩した後、また階段を上りだす。
だけど、すぐに疲れてしまい、そろそろ限界かなと思い始めた。
それでも、半分の高さまでは頑張ろうと、必死に階段を上る。
疲れた・・・。
限界だと思い、そこで足が止まる。
階段から、吹き抜けの上と下を見比べると、大体建物の半分くらいの高さだった。
しかし、半分くらいの高さといっても、この高さでも十分高かった。
私は、半分とはいえ、頑張って上れたと思い、満足した。
そろそろ階段を下りようかと思って、一段下りると、下の方が何やら騒がしい。
階段から下を覗いてみると、私は目を疑った。
そこには、二頭の狼のような動物が建物の入り口から入ってきていた。
私がいる高さからは、遠いためよく見えなかったが、どうやら二頭で争っているように見えた。
そして、その二頭が階段に足の爪をひっかけて、器用に吹き抜け内をジャンプしながら上へと上がってきた。
私が相当時間をかけて上ってきた高さを、いとも簡単に数秒で上がってきた。
だんだん距離が近づいてくると、その狼の大きさがとても大きいことが分かった。
全長四メートルほどはある。
普通では考えられない大きさである。
しかも、よく見ると大きさ以外にも、普通の狼とは見た目が全然違った。
一頭は、体が炎のように燃えており、もう一頭は、氷のように冷たい冷気で覆われていたのである。
二頭は、威嚇しあいながら、どんどんと上がってくる。
このままだと危ないと感じた私は、取り合えず巻き込まれないように、壁側によることにした。
そこへ、二頭が争いながら、吹き抜け内をジャンプして、物凄い勢いで上がっていった。
階段の上を覗いてみると、すでにかなり上の方まで上がっていた。
二頭は、階段や壁を使って、自由にジャンプしながら、どんどん上に上がっていき、お互いを攻撃しあうことを止めなかった。
かなりの距離が空いて、遠くから二頭の狼を見ていると、少しかっこいいなと思う余裕が出てきた。
しかし、それも束の間、建物の最上階までたどり着いた二頭は、そこでも争いを止めないため、建物の上の方がだんだんと崩れてきた。
このままだと建物が崩れてしまう。
そう思った私は、必死で階段を下りだした。
階段を上った時に、体力を結構使ってしまったため、かなりしんどかったが、休憩している暇はなかった。
必死に一番下まで下りて、建物の外に出て、その場から離れた。
そして、離れたところから、建物が崩れないか心配で見ていると、出口から二頭の狼が出てきて、争いながら向こうの方へ走り去っていった。
どうやら、建物は崩れずに済んだようだ。
ほっとして目の前を見ると、何やらお洒落な洋館がそこに建っていた。
周りの街並みには、少々似つかわしくない雰囲気の建物だったが、何故か惹かれたため、中に入ってみた。
すると、そこにタキシードを着た紳士な男性が立っており、私に話しかけてきた。
「ようこそ、お待ちしておりました。あなたが来るのをずっと待っていたんですよ。」
そう言われて、一通の手紙を渡された。
とある人からの手紙だということだったが、手紙には、私がここに来ることをずっと楽しみにしていたのだという内容が書かれていた。
私は誰のことだか、全く覚えがなかったが、誰かが私を待ってくれていたことに少し嬉しく思った。
そして、タキシードの男性に、今入ってきた扉と正反対の位置にある扉へ案内された。
「さあ、次の世界へようこそ。」
そう言われて、扉から出ると、そこには先ほどまでの西欧の雰囲気とはまた違った、どこかの国の賑やかな街並みがあった。
私は、手紙を大事に手に持ち、その街並みを歩き出した。
また、おどろくような出来事に出会えそうな気がした。
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