第17話 塾
今は夏休みの真っただ中。
暑いなと思いながらも、午前中から家の中でゴロゴロとする私。
夏休みも後半になったため、学校の宿題もやらなければいけないと思いつつも、全然やる気が出ない。
まだ、もうちょっと日にちがあるから、やらなくていいか。
そう思って、またゴロゴロとする。
そういや、塾の夏期講習も始まっているのに、夏休みが始まってから、まだ一度も行っていなかった。
ちゃんと行かないと、怒られるな・・・。
今日は、真面目に塾へ行ってみよう。
私はそう思って、夏期講習の案内プリントをカバンから取り出して確認しようとした。
カバンの中に手を入れ、ガサガサと手で探る。
・・・あれ。案内プリントがない。
確かに、カバンに入れておいたのにな。
カバンの中の教科書や筆箱などを全部出してみて、中を覗き込む。
やっぱりない。
どこへやってしまったのだろうか。
案内プリントがないと、時間や教室の場所が分からない。
困ったな。
案内プリントに何が書いてあったか、必死に思い出そうとする。
確か、講習の時間は午後からだったような気がする。
だけど、教室の場所までは覚えていなかった。
仕方ない。
昼過ぎに、塾に直接行ってみよう。
そう思って、昼食を食べた後、私はカバンを持って自転車で塾へ向かうことにした。
塾に着くと、沢山の生徒が建物の中でウロウロとしていた。
どうやら、だいたいの時間はあっていたようだ。
しかし、どの教室に入ったらいいのか分からない。
同じ教室の人がいたら、その人にさりげなく着いていけば分かるんだけど・・・。
周りを見渡してみても、顔を知っている人は一人もいなかった。
そうこうしているうちにも、みんな各自の教室に入っていくため、廊下にいる人の数がどんどんと減ってきた。
どうしよう。
このままじゃ、授業が受けられない。
とうとう、廊下に私一人だけになった。
私は、いくつかある教室のドアを適当に開けて中を確かめてみようと試みた。
とはいっても、塾は二階建てだったので、教室の数はかなり多い。
廊下をウロウロしながら、ドアから漏れてくる授業内容の声を聞きながら、ここかなと思う教室のドアを静かに開けてみた。
すると、全く別の学年の人たちが、中で授業を受けており、ドアを開けたことで、全員の視線が私に集中した。
物凄く恥ずかしかった。
私は、「間違えました。」と小さな声で言って、静かにドアを閉めた。
さすがに、恥ずかしすぎて、もう違う教室のドアを、適当には開けられなかった。
そうだ、職員室にいって、自分の教室の場所を確かめよう。
思えば、それが一番手っ取り早い方法だ。
こんな恥ずかしい思いをする前に思いつけばよかった。
そして、職員室に行く。
そこには、誰もいなかった。
授業が始まってしまったせいか、先生たちも教室に行ってしまったようだ。
これじゃあ、教室の場所が聞けないな・・・。
そう思ったが、よく考えてみると、夏期講習中なのだから、職員室の壁かどこかに、夏期講習の案内プリントか予定表くらい貼ってあるのではないかと思った。
そして、必死に、夏期講習に関連する資料がないか、室内を見渡して探してみる。
しかし、全くといっていいほど、資料がない。
諦めかけていたその時、先生が一人、職員室に入ってきた。
私は、助かったと思い、その先生に自分の教室の場所を尋ねてみた。
すると、先生は、机から用紙を取り出して、私の教室番号を教えてくれた。
どうやら、私の教室は二階らしかった。
私は、先生にお礼を言って、すぐに二階へと階段を上った。
先生が教えてくれた教室番号を探しながら、廊下を進んでいく。
しかし、その教室が見つからない。
番号はあっているはずなのに、何度探しても同じ番号の教室がないのだ。
どれだけ探しても教室が見つからない私は、探すことに疲れてしまった。
そして、階段に座り込んだ。
授業が始まってから、大分時間も経ってしまったし、今日はもう無理かもしれない。
そう思っていたのだが、その時ふと思った。
私って、こんなに塾の教室の位置が分からなくなるほど、この塾に来ていなかったかな。
ちょっとの期間だけ、塾に来ていなかったはずなのだが、これより前に塾に来た日が大分昔だったような気がした。
そして、その時気付いた。
私は学生じゃない。
学生だったのは、もう随分と昔のことだ。
塾になんて、もう何年も行っていないのだから、建物の中のことが分からなくて当然なのである。
そう、これは夢なのである。
どうりで、おかしなことが続くわけだ。
夢であることに気付いた私は、教室を探さなくてよくなったことに安心した。
そして、気持ちに余裕ができた私は、再び廊下をウロウロし始める。
だけど、このままここにいても、授業を受ける必要がない。
私は家に帰ることにした。
夢の中とはいえ、やはり勉強するよりかは、家に帰ってゴロゴロしたいものだ。
そう思って、迷わず塾から出て、家に向かって自転車をこいだ。
あのまま、真剣に教室を探すことにならなくて、本当に良かった。
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