第16話 カギが閉まらない

 私は友達と二人でグランピングに来ていた。

 グランピングとはなにか、知らない人も多いかもしれないので、少し説明しておくと、グランピングとは、グラマラスとキャンピングを掛け合わせた言葉で、普通のキャンプよりも豪華さが増したキャンプのことをいう。

 グランピングは、普通のキャンプと違って、キャンプ用品や食事などが用意されているため、初心者でも手軽に楽しめるのだ。


 今回来ているところは、山の中の自然に囲まれたところであり、近くに川も流れていた。

 さっそく現地に着くと、私たちは、緑に囲まれた敷地内を散策しながら、自然

 の景色を満喫した。

 そして、満喫した後、夕食の時間になり、施設が用意してくれた豪華なアウトドア料理を心ゆくまで味わった。

 自然に囲まれながらの食事は、夜空の星も眺めることができて、最高だった。


 そして、今回宿泊するのは、テントではなく、コテージだった。

 コテージはコテージでも、白色のドーム型のコテージで、とてもお洒落な形状をしていた。

 コテージは、敷地内に、いくつか並んで建てられており、夜になって、日が落ちると、窓から漏れるいくつもの部屋の光が、とても幻想的に見えた。

 私は、このコテージに泊るのをとても楽しみにしていた。


 夕食を食べ終わって、さっそくコテージの中に入ってみると、中は思っていたよりも広く、きれいだった。

 天井を見上げると、ドーム状になっているため、なんだかとても可愛らしくて、心が和んだ。

 その後、友達とベッドで横になりながら、色々と語り合っていると、気が付けば夜も遅い時間になっていた。


「そろそろ、寝ようか。」


 そう言って、寝る準備をして、私たちは寝ることにした。


 そうだ、寝る前にコテージのカギを閉めておかないと。

 そう思って、私は、ドアのところまでいって、カギを閉めようとした。


 カチャ・・・。


 ・・・あれ。


 カギは閉まったものの、何だかグラグラとしていて頼りない。

 これで、ちゃんと閉まっているのかな。

 不安に思った私は、ドアをぐっと押してみた。

 すると、頼りなく閉まっていたカギが外れて、すぐにドアが開いてしまった。

 これじゃあ、カギの意味がない。

 

 もう一度、カギを閉め直す。

 ドアを押して、確認すると、やっぱり開いてしまう。

 どうしよう、施設の人に連絡しようか・・・。

 でも、時間はもう真夜中。

 友達にも相談して、施設の人に連絡を取ってみたが、真夜中のためか誰も電話に出なかった。


 結局、その後、何回かカギを閉め直してみたが、結果は同じできちんと閉まることはなかった。

 このまま、寝るしかないのか・・・。

 そう思って、考え込んでいると、突然場所が変わった。


 あれ?


 周りをみると、確かに建物の中にいるのだが、コテージの中ではない。

 どうやら、色んなものが置かれてある物置小屋のような建物の中に、私と友達はいた。

 窓から外を見てみると、真夜中だったはずが、とても眩しかった。


 こんなところにいても仕方がないと思い、友達と外に出ようとすると、「見つかったかー。」と外から騒がしい声がした。

 なんだろうと思ったが、気にせず外へ出ようとすると、物置小屋の外から窓を覗きこんだ人が、「ここにいたぞー。捕まえろ。」と叫んだ。

 何やら、怪しい状況だ。

 どうやら、私と友達は、外の人達に追われているようだった。

 何故、追われているのかなど、全く分からない。

 それでも、追われている以上、なんとなく捕まりたくはない。

 私は、とっさに、出ようとしたドアのカギを閉めた。

 だが、このドアのカギもしっかりと閉まってくれない。

 グラグラしているのだ。


 そこに、駆け付けた人たちが、私たちを捕まえようと、必死にドアを開けようと押してきた。

 私と友達は、ドアが開かないように、自分たちの力で必死にカギとドアを押さえた。

 頼りないカギだったが、手で押さえるとなんとか閉めておくことができ、ドアが開くことはなかった。

 すると、私たちを追いかけていた人たちは、諦めてどこかへ行ってしまった。


 助かった。


 私たちは、クタクタだった。

 何故、きちんと閉まらないカギのために、ここまで苦労しないといけないのだ。

 カギがしっかり付いていれば、ここまで頑張って押さえ込まなくても、一度閉めてしまえば、それで終わりなのに。

 そう思ったが、きちんと付いていないものは仕方がない。

 カギのことはそれ以上考えないようにした。


 それよりも、ずっとここにいては、またさっきの人たちが、ここへやってくるかもしれない。

 そう思って、友達とこの物置小屋を出て、逃げることにした。

 しっかり閉まっていないカギを、今度は開けて、そっと外の様子をうかがい、大丈夫だと判断してから、逃げ出した。

 逃げるといっても、ここがどこか分からない以上、どこへ逃げたらいいのか分からない。

 それでも、私たちは、人気のない方へ、必死に逃げた。

 そして、逃げながら思った。


 もう一度、あの豪華なグランピングのコテージに戻りたい。

 次は、カギのしっかり閉まるコテージに・・・。

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