第15話 入院

 最近何だか体調が悪かった。

 といっても、生活に支障が出るわけでもないし、なんとなく体がだるいだけだったので、軽い風邪かなにかだと思っていた。

 しかし、何日経ってもなんとなくだるい。

 私は、医者に診てもらった方がいいかもしれないと思い、自宅からすぐ近くの病院へ行くことにした。


 診てもらっても、風邪薬かなにか処方されて帰るだけだろう。

 そう思って、病院に行ったわけだが、医者に診てもらうと、何やら深刻そうな顔をしている。

 もしかして、なにか大変な病気なのだろうか。

 私は、医者の表情をうかがった。

 医者が私にこう言った。

「重い病気ではないけれど、この症状はここでは治せないから、大きな病院で手術を受ける必要がある。」

 それから、紹介状を渡すので、そこの総合病院に行くように言われた。

 正直、ただの風邪か疲れだと思っていたので、びっくりした。


 自分の体が心配だった私は、紹介状を渡されて、すぐに総合病院へ向かった。

 すると、そこの総合病院で、すぐに入院しましょうと言われた。

 私は家に帰り、入院に必要なものをカバンに色々と詰めて、翌日、また総合病院へ向かった。

 入院手続きを済ませて、いくつかある椅子の一つに座って待っていると、案内の人が来て、自分が入院する階まで案内してくれた。

 自分が入院する階まで到着すると、次はその階の人が部屋まで案内してくれた。

 部屋は、六人が入室できる大部屋だった。

 大部屋といってもカーテンで仕切りがしてあるので、プライベートはしっかり保たれている。


 手術なんて、一体私の今後はどうなるのだろう。

 そう思うと、ドキドキして緊張してきたため、なるべく手術のことは考えないようにした。

 そこへ、お昼の食事が運ばれてきた。

 運ばれたトレーからとてもいい匂いがする。

 蓋を開けてみると、とても病院食とは思えないほど美味しそうで、ボリュームたっぷりの料理だった。

 食べてみても、レストランの食事並みに美味しい。

 あまりの美味しさに、私は手術のことなどすっかり忘れていた。


 そうこうしているうちに、手術が全くされないまま、毎日がどんどんと過ぎていった。


 そして、ある日ふと思った。

 そういや、手術っていつやるんだろう。

 入院してから、結構日が経っているような気がした。

 そろそろ、なにか言われてもおかしくないと思うんだけど・・・。

 そうは思っても、手術のことを考えると怖くなってきたので、なかなか自分から看護師さんには言い出せなかった。

 そのうち、また手術の日を教えてくれるのだろう。

 そう思って、深く考えないことにした。


 それからも、日にちはどんどん過ぎていく。


 ある日、看護師さんが私のところへ来た。

「部屋を変更しましょう。」

 そう言われて、荷物をまとめて大部屋を去り、看護師さんについていくと、とても広い個室に案内された。

 自分の家の部屋でも、こんなに広くはない。

 それに、お風呂やトイレもついている。

 こんなに、広い部屋を自分一人で使ってもいいのだろうか。

 そうは思ったが、案内されたので、気にせずこの広い個室を使うことにする。

 

 それからも、毎日美味しい病院食が一日三食決まった時間に運ばれる。

 そして、広い個室に一人。

 私は、病気や体調のことなど、もはや気にすることもなく、病院で毎日を送っていた。


 それからも、また日にちはどんどんと過ぎていく。


 そのうち、入院生活は快適ではあったが、さすがに手術されないままの生活に、私は疑問を抱かずにはいられなくなってきた。

 本当は怖くて聞きたくなかったけど、ある日看護師さんに勇気を出して、手術のことについて聞いてみた。

 手術はいつ行われるのかと。

 すると、看護師さんは、はっと思い出したかのようにして慌てだした。

 ・・・まさか、この反応。

 忘れていたのではないか。


「ちょっと待っててくださいね。」


 看護師さんにそう言われて、部屋で待つことにした。

 しばらく待っていると、看護師さんが慌てて入ってきた。


「手術の日程が決まりましたよ。明日の午前中になります。」

 

 そう告げられた。


 いや、次はさすがに急すぎないだろうか。

 いくらなんでも心の準備が出来ていない。

 そうは思ったが、今までずっと入院しすぎていたこともあって、拒否は出来なかった。

 私は、一気に緊張して、不安な気持ちになった。

 明日が手術ということで、食事も抜かなければいけなくなった。


 どうしよう。

 手術は痛くないのだろうか。

 手術室はどんなところなのだろうか。

 何時間ほどで終わるのだろうか。

 術後は何日ほどで退院できるのだろうか。


 手術が翌日に決まった途端、色んな疑問が頭の中に溢れてきた。

 夜になっても、手術のことばかり考えてしまい、目が冴えて全然眠れない。

 

 そして、眠れないまま、手術当日の朝を迎えた。

 手術のための準備をして、看護師さんに手術室へ案内される。

 あまりの緊張で手が震えた。

 正直、逃げ出したかった。

 看護師さんは、私の気持ちを察してくれながら、笑顔で案内してくれる。

 手術室に案内されると、そこにはよくドラマで見るような、台のようなベッドがあった。

 そこに寝るように促される。


 ここまで来たら、手術を受けるしかない。


 体に麻酔が入ったのか、どんどん意識が遠ざかっていく。


 ・・・。


 ・・・手術が終わったのだろうか。

 いや、違った。

 現実の世界で、目が覚めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る