第13話 パラレルワールド

 今日もいい天気だった。

 暑すぎず、寒いわけでもない。

 外に出るにはいい気温だったので、普段散歩などしない私だったが、今日は、そこら辺を散歩してみることにした。

 ポカポカ陽気に誘われて、見慣れた家の周りを歩いてみる。


 たまには、のんびりするのもいいな。

 

 そう思って、歩いていると目の前を、一匹の猫も散歩していた。

 どうやら、人間も猫も散歩したくなる気温らしい。

 

 そのまま道行くままに歩いていると、少し家から離れた場所にやってきた。

 あまり知らないところまで行ってしまうと、迷ってしまって帰り道が分からなくなるなと思いながらも、時間もまだまだあるし、もうちょっと先まで行ってみようと思った。

 帰り道が分からなくならないように、進んだ道を覚えながら、先の方へ歩いていく。

 見慣れない景色を見ながら、散歩するのもいいものだなと思いながら、普段とは違う場所に新鮮さを感じながら、どんどん進んでいく。

 

 ふと気が付くと、もう全く分からない場所まで来ていた。

 ただ、なんとなく逆の方向へ行けば帰れるだろうと、楽観的に思っており、不安などは全然なかった。


 そろそろ引き返そうかなと思って横を振り向くと、見たこともない暗いトンネルのようなものがあった。

 しかし、そのトンネルのようなものは少し奇妙だった。

 空に向かって斜め上に伸びているのだが、壁のような仕切りがなく、十メートルほどで切れていた。

 虹とかそういった類の光の反射や陰なのかなと思って、近づいてみる。

 すると、中は空洞であり本当にトンネルになっていた。

 私は、このトンネルに興味を覚えて、中を通って上へ登ってみようと思った。

 十メートルほどなので、トンネルの出口にはすぐに着いた。


 出口から外を見渡してみると、私はびっくりした。

 今トンネルと通ってくる前に私が歩いてきた街と、同じ風景の街がそこにはあったのだ。

 ただ、なんとなく雰囲気がちょっと違う。

 上手くはいえないが、建物や道はそのまま同じなのに、大気の色というか全体的な明るさがこっちの世界の方が、少し暗かった。

 暗いからといって、いつもいる世界よりも時間が進んでいるとか、そういう感じではなさそうだった。

 私がいつもいる世界の真上に、もう一つそっくりそのままの世界が広がっていたなんて、とても信じられなかった。

 

 最初はとても驚いて呆然としていたが、時間が経つにつれて、少しずつ冷静になっていった。

 そして、せっかくだからこっちの世界も少し散歩してみようと思った。

 単なる散歩のつもりが、ここまでスケールの大きい散歩になろうとは、思ってもみなかった。


 違う世界とはいえ、建物や道の配置は同じだったので、今度は、違う世界の自分の家に向かって歩き出そうと思った。

 自分の家に帰るといっていいのか、違う世界なので、それもまた違うような気もしつつ、今まで歩いてきた道を引き返すようにして歩き出す。

 さっき通ってきた風景と同じなのに、何かが違う。

 そう思いながらも、のんびりと歩いて、迷うことなく自分の家に到着することができた。


 到着はしたものの、自分の家に入っていいものか迷った。

 何せここは自分が存在する世界とは違う世界なのだから。

 そう思って、玄関の前で立って迷っていると、いきなり声をかけられた。

 誰かと思って振り向くと、自分のいる世界でもよく話をするご近所のおばさんだった。

「こんなところにずっと立って、どうしたの。」と気軽に話してくれる。

 仲のいいおばさんということもあって、私は今までのいきさつを全て話した。

 すると、おばさんは驚くことなく、「まあ、そうだったのね。よく来たわね。」といってくれた。

 私の話に全く驚かなかったおばさんに、私は驚いた。

 そして、「自分の家なんだから入りましょう。」といってくれて、違う世界の私の家族に、私がおばさんに話した事情を話してくれた。

 すると、家族のみんなも、「よく来たね。」といって喜んでくれた。

 どうやら、こっちの世界では、違う世界に対する認識があるようで、それは驚くことでもなんでもないようだった。


 家族は、せっかく来てくれたんだから、今日はみんなでお祝いしようといってくれて、自分の家に近所の人たちを大勢呼んでの食事会を開いてくれた。

 自分の知っている家族や近所の人たちのはずなのに、違う世界の人たちなので、何かが違う違和感を感じながらも、私はその場を楽しむことができた。


 ふいに時計に目をやると、もうすぐ夜中の零時を過ぎようとしていた。

 私は、自分の存在する元の世界に帰らないといけないと思った。

 元の世界では、今頃同じ世界の家族が、帰ってこない私を心配しているはずだ。

 そう思って、こっちの世界の家族と近所の人たちに、そのことを話し、お礼をいって帰ることにした。

 みんな、温かく玄関で見送ってくれた。


 日中とは違う真っ暗な暗闇の中、私はトンネルまでの道のりを早歩きで歩き出した。

 暗かったが、トンネルまでは迷うことなく到着することができた。

 不思議な体験だったなと思いながら、私はトンネルを今度は十メートルほど下っていく。


 トンネルを出た先は、やはり先ほどまでいた街と変わらない景色だった。

 だけどこっちの世界のほうが、なんだかしっくりときた。

 私のいるべき世界はここなんだと思った。

 そして、そこから本当の自分の家に向かって歩き出した。


 そういえば、向こうの世界で自分自身に会わなかったな・・・。

 そう、ふと思いながら家路についた。

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