第12話 合宿で寝言
それは、高校生のとある夏の日。
私は隣の県まで、バスで学校が行う勉強合宿に二泊三日で来ていた。
もちろん、やる気などは全くない。
ほぼ強制の勉強合宿である。
旅館の研修室のようなところで、勉強を一日中やらされるわけであるが、これがまた勉強ぎっしりのスケジュールなのである。
個人的には、勉強なら場所がどこだってできるのではないかと思ってしまうのだが、違う環境で一日中勉強をやることで集中力が上がるのだろうか。
それはともかく、今日は二日目なのだが、本当に一日中、勉強ばかりで、勉強以外の時間があるといえば、朝の散歩と朝昼夕の食事の時間と、入浴の時間くらいであった。
先生が学校の授業と同じように、ずんずんと内容を進めていくのだが、さすがに合宿とあって、いつも授業でやっている内容よりかは難しいような気がした。
それがきちんと自分の頭に入っているのかどうかは、さほど気にしなかった。
気になると言えば、朝昼夕の食事のことで、その時間が来ることだけが唯一の楽しみだった。
食事の時間が来れば、友達と真っ先に食堂へ行った。
息抜きできる時間や場所といえば、夜寝るとき以外はここくらいだったので、食事の時間がいつもよりも楽しく感じた。
一日中勉強をやっていると、脳が完全に疲れてしまうためか午後からの勉強はあまり頭に入らなかった。
夕食を食べて、入浴した後にも、一日で最後の勉強時間があるのだが、その時間になると、とてつもなく眠くなって、半分以上意識がなくなっていた。
やっと一日の勉強時間が全部終わると、部屋に戻ってゆっくりできる。
ゆっくりできるといっても、沢山時間があるわけではなく、寝る準備をして寝るだけといった感じである。
部屋は、女子が七、八人ほど布団を並べて寝られる、和室の中でも少し大きめの広さだった。
それほど、時間があるわけでもないので、みんな寝る支度をして布団に入る。
一日中勉強ばかりだったので、みんなもきっと疲れていたのだろう。
明日の朝も早いので、電気を消してみんな眠りにつく。
そこで私は、夢を見た。
自宅に泥棒が入ってくる夢である。
泥棒が私の家で、大事なものを次々と盗んで、家から逃げようとしているところを、偶然私が見つけて必死に泥棒を捕まえようとしていた。
泥棒を追いかけても追いかけても、家の中を逃げ回りなかなか捕まえることができない。
そこで私は泥棒に向かって、大きな声で必死に叫ぶ。
「逃げられると思ったら大間違いよ!覚悟しなさい!」
そう叫んで、必死に追いかけていると何やらそこで夢が途切れた。
誰かの声がして、目が覚める。
すると、他にも三、四人ほど起きていた。
どうしたのかと思って、隣の子に聞いてみると、今誰かが叫んでいたという。
みんなで、「誰だろう?誰か他にいるのかな?」と言い合い、挙句の果てには「誰なの?怖いよ。」といって、涙ぐむ子まで出てきた。
そこで一人の女子が、「誰かが、逃がさないわよ!って言っていた気がする。」と言い出した。
ん?それはなんだか心当たりがあるような気がする・・・。
そう思って寝ぼけていたが、自分が直前まで見ていた夢をだんだんと思いだしたのである。
そう、原因は私だった。
正確には私の寝言だった。
起きる直前まで見ていた夢の中で、私ははっきりと、夢の中の泥棒に「逃げられると思ったら大間違いよ!」と叫んでいた。
夢の中で、夢の中だけで叫んでいると思っていた。
だが、それは現実の寝言となって、どうやらはっきりと叫んでしまっていたらしい。
自分が原因だと分かった今も、みんなは誰だろうと言い合っている。
私もさっきまで、誰なんだろうと一緒にいっていたので、今更自分が寝言をいった本人だとはいいにくかった。
そこでみんなには申し訳なかったが、私はそのまま黙っていることにした。
すると、話は流れていき、夜も遅かったので、またみんな眠りについた。
朝になって、みんなが起きる。
普段の生活と違って、合宿での起床時間は六時と早かったため、みんな眠かったのか、夜の寝言の出来事に触れる人はいなかった。
助かった・・・。
そう思って、朝の準備をして、玄関前に集合する。
朝は、食事をする前に散歩をするスケジュールになっていた。
普段の生活でも、朝の散歩なんてしたことがないため、歩いていてもまだどこか眠たかった。
散歩を終えて、食堂で朝食を食べる。
今日は、朝食を食べて午前中に勉強をし、昼食を食べ終わったら、バスで帰る予定になっていた。
さすがに最後の日となると、疲れもたまり勉強もあまり頭に入らなかったが、何とかやり切り、昼食を食堂で食べて、帰る支度を済ませバスに乗り込んだ。
三日間、勉強ばかりできつかったな・・・。
そう思っていると、バスの中で再び、あの寝言の話題が再燃した。
私は、恥ずかしすぎて、自分の寝言だとはどうしても言えなかった。
その後、バスは無事学校へ到着した。
起こしてしまったみんな、申し訳ない。
あの寝言をいったのは、紛れもなく私だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます