第10話 竜巻

 そこは、いつもいる世界とそこまで変わらない世界。

 何が違うかというと、人々はみんなスイスイと空中を浮いて飛べる。

 まるで水の中にいるように。

 ホウキなどは使わない。

 ただ、みんなそのまま浮いて移動する。

 だから、街にあるお店なんかも一階部分だけにとどまらず、二階、三階、それよりもっと高い所にも様々な商品が売られている。

 もちろん、歩くほうが好きな人もいるので、一階部分にもお店はあるし、道もちゃんとある。

 ただ、街にある家やお店は二階建てや三階建ての高さではなく、もっともっと縦に長い。


 そんな街で暮らしながら、私は学校に通っている。

 学校は、街から少し離れた高台の方に、立派に大きく建っていた。

 北校舎と南校舎に分かれていて、その間には渡り廊下はなかった。

 みんな、北校舎と南校舎の間を移動するときには、飛びながら自由に行き来していた。

 高台にあったので、そこからの街の景色は見晴らしがとてもよかった。


 今日も朝からみんな、自由に飛びながら学校へと向かう。

 私は教室に着くと、窓際の自分の席に座る。

 窓から見る街の景色がとてもお気に入りで、授業中も窓の外ばかりいつも眺めていた。


 いつも通り、教室から窓の外を眺めていると、いつもと違う光景が目に入ってきた。

 何やら、街のもっと向こうの方で、土煙が上がっている。

 街の向こうは何もない砂漠のような場所で、普段はめったに人が立ち入らないため、そんなところで土煙が上がるはずがないのだが・・・。

 しかもよく見ると、二か所で土煙が上がっている。

 一体あれは何なんだろう。

 そう思いながらも先生の授業を聞きながら、窓から向こうの景色を注意しながら見ていると、土煙はどんどんと渦を巻くようになって大きくなってきた。

 二つともほぼ同時に、大きくなっていく。

 今まで見たことのない光景だったが、これはさすがに何かあるんじゃないかと思って、私は手を挙げて、先生にだんだん大きくなる二つの土埃の渦のことを伝える。

 すると、先生だけではなくクラス中の生徒が、窓から街の向こうの土埃の渦を見だした。

 そうすると、他のクラスや向こうの校舎の生徒たちもそれに気づいたらしい。

 学校にいるみんなが、その土埃の渦を注視する。


「竜巻だ!」


 先生が大きな声で言った。


 普段この街では竜巻が発生することは滅多になかったため、生徒たちは興味本位でそれを見ていた。

 しかし、そうしている間にも二つの竜巻はどんどんと大きくなっていく。

 最初に見つけた土埃の渦の大きさに比べたら、比べ物にならないくらい大きくなっている。

 しかも、その竜巻たちはどんどんと大きくなりながら、街の方に近づいているように見えた。

 最初は興味本位で竜巻を見ていた生徒たちも、これは危ないんじゃないかと思えるほどに竜巻は大きくなり、直径五十メートルほどにまで成長していた。

 それが二つもあるのだから、もしも街の方に来てしまったら、どれだけ危ないか、経験したことがなくても想像ができた。

 私も先生も生徒たちも、竜巻が街に近づかないか心配で見ていたが、心配とは裏腹に二つの竜巻はどんどんと街に近づいていく。


 このままだと確実に、竜巻が街に入っていく。

 どうしようと思っていると、街の消防団の人たちが、街の人たちに飛びながら避難を促し始めているのが、私たちのいる高台の学校から見えた。


 そして、二つの竜巻が街に入ってきた。

 街の建物は、石造りで頑丈なため、そうそう壊れたり崩れることはなかったため、人々は建物の中で竜巻が通り過ぎるのを、ただただ待っていた。

 二つの竜巻は、そこに街があるというのに、遠慮することもなく堂々と街の中を横断し始めた。


 もう少しで、竜巻が街を抜けそうだ。

 学校の窓から見ていると、二つの竜巻は街を抜けた。

 竜巻が通った後の街は、それほど被害を受けていないようでほっとした。

 街を抜けた竜巻が、次に学校の方に向かうのかと思って、みんな緊張しながら様子をうかがっていたが、竜巻は学校とは反対の方向へ進んでいった。

 学校のみんながほっとしていると、二つの竜巻がどんどんとお互いに距離を縮めていき、ぶつかって合体してしまった。

 一つの竜巻だけでも直径五十メートルはあったのに、合体してしまったせいで、とんでもなく大きな竜巻に成長してしまった。

 直径百メートルはありそうだ。

 威力も倍以上に増している。

 そして、あろうことか合体してしまったせいで、進路が変わってしまい、高台にある学校の方へ進みだしたのだ。


 物凄く巨大な竜巻がこっちに向かってくる。

 こんな大きさの竜巻がやってきて、学校の建物は耐えられるのだろうか。

 学校にいるみんなの表情がこわばる。

 先生が生徒たちに、机の下に隠れるように促す。

 窓から校舎の間を見ると、まだ建物に避難できていない生徒が何人かいた。

 私はとっさに窓から飛び出して、避難できていない生徒たちを建物の中に飛びながら誘導した。

 巨大な竜巻はもうそこまで迫っている。

 教室まで戻る時間がないと思った私は、建物の外側に設置されている非常階段の壁の隅に隠れることにした。

 竜巻が、学校のある高台を通過し始める。

 ゴーっという物凄い振動と音がする。

 みんな、竜巻が過ぎるのを静かに待った。


 しばらくして、音が聞こえなくなり静かになった。

 どうやら、建物が壊れることなく無事に通過したみたいだ。

 竜巻は、どんどんと向こうの方に離れていく。

 みんな、ほっとした。


 初めての経験だったが、もう二度と経験したくない。

 本気でそう思った。

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