第6話 怪獣
それは、とある夜の出来事。
深夜零時頃、私を含め、家族はみんな自宅で寝静まっていた。
すると、突然大きな音で緊急速報メールの着信音が鳴る。
私は、何事かと思って飛び起きる。
地震が来るのか!?
そう思って、スマホの画面を確認すると、地震ではなかった。
やつが来る。
そのためのお知らせだった。
他の家族も同じメールで起きたらしい。
やつが来ると知って、自宅を飛び出す準備を始めた。
私も慌てて、外に出る準備をする。
家族みんなが着替え終わって、急いで車に乗り込む。
車のカーナビには、やつの居場所が分かるシステムが搭載されている。
まずはそれで、やつがどの場所にいるか確認して、とりあえずやつがいない方向へと車を走らせる。
やつはここから大分離れてはいたが、体が大きいため、どこにいるかは一目瞭然だった。
やつの歩幅は大きいため、距離が離れていても慎重に位置と進行方向を確認しながら車を運転する。
やつの通り道となった周辺の建物は全て破壊され、グチャグチャになっていた。
今は、緊急速報メールのおかげで逃げ遅れている人はいなさそうだが、それでも真夜中なので、逃げづらいことには変わりはない。
車を走らせながら、やつから大分離れて、気分的にも少し余裕が出てくる。
やつの動きが分かりやすいように、ここから近くにある山の頂上へ行こう。
そう思って、山の上を目指すと同じ事を考えている人が多いのか、他にも何台か車が山の頂上を目指して走っていた。
頂上に着くと、みんな車から降りて、やつの動きを注意しながら見ていた。
いつこっちにやってくるか分からない緊張感から、周囲はピリピリとした空気に包まれていた。
そこから、数十分やつの様子を見ていたが、こちらに来る様子は全くなかった。
むしろ、どんどん離れていく。
それを見て、ほっとした私たち家族は、自宅から離れすぎたこの場所よりも、少しだけ自宅の近くに距離を縮めようと思った。
そして、山から下りて、やつの動きをカーナビで確認しながらも、少し自宅までの距離を縮めていく。
あまり近づきすぎても危ないため、この辺りにしておこうかと考えていたら、近くのショッピングモールが避難所として開設されていたため、そこに行くことにした。
ショッピングモールの中には、沢山の人がいて、真夜中だったがお店も開いていたので、色々と見て回ることもできた。
色んなお店の中で、靴屋さんが気になった私は、やつのことを忘れて、おしゃれな靴ばかりをしばらく見ていた。
これもいいし、あれもいいな・・・。
そう思って色々見ていたら、突然また緊急速報メールの着信音がなった。
せっかく靴を見ながら楽しんでいたのに。
そう思ってショッピングモールの窓の外を見てみると、結構近い距離までやつが迫っていた。
ズンズンとこっちの方向へ歩いてきており、だんだんと歩くたびに床が響いて揺れてきた。
靴屋さんに積んであった靴の箱も地面の揺れのせいで崩れてしまった。
これはさすがに危ない。
そう思って家族で集合し、このショッピングモールを出ることにした。
他の人達も慌ててこの建物を出ようとするため、出口付近は人でいっぱいになった。
何とか、建物を出て車に乗り込み逃げようとするが、やつはかなり近くまで来ていた。
やつに踏みつぶされないように、物凄い勢いで車を飛ばす。
かなり必死になっていたので、あまり周りの景色を見ずに走っていた。
車をまっすぐに飛ばして、ふと気が付くと、やつはいなくなっていた。
カーナビにもやつの姿はない。
大分やつと距離が離れたらしい。
ほっとして、周りを見回すと、かなり風景が変わっていた。
さっきまでは、都会な雰囲気で建物も多かったのに、周りに一切、建物がなくなっていた。
周りには林があり、緑が一面に広がっていた。
カーナビを見ていても、一体どこを走っているのか分からず、自宅までの案内が開始されない。
どうしようかと思って、車でウロウロしていると、昔話に出てきそうな古い一軒家があった。
他に頼れるところもないので、その家の人に、ここがどこなのか場所を尋ねることにした。
トントンをドアを叩くと、中からおじいさんが出てきて、家の中に招いてくれた。
おじいさんに、どうしてこんなところに来たのかと逆に尋ねられて、やつから必死に逃げてきた経緯を話した。
そうすると、おじいさんは何やらお札のようなものを三枚ほど手渡してくれた。
「これを身に着けておきなさい。そうすれば、もうやつは近づけないだろう。」
そう言われた。
緊急速報メールもあるし、そんなに必要な感じはしなかったのだが、一応お礼を言って、その場を去ることにした。
結局、ここがどこなのか聞きそびれて、また家族で車に乗り、まっすぐ進むと、次は、坂を下ったところに集落があった。
もう完全にやつの襲来は関係なくなっていると感じたが、恐怖が消えたので、気にしないことにした。
ただ家には帰りたい。
そう思って、集落にいる人を探す。
すると、子供が何人か遊んでいたので、道に迷ったことを伝えると、下った坂をそのまま行くと今度は上がれるからそこを抜けると帰れるよと言われた。
カーナビにも載っていないのに、それできちんと帰れるのだろうかと不安に思ったが、他に頼れる人もいないので、子供たちにお礼をいって、車で坂を上がってみた。
そうすると、不思議なことに見慣れた街の風景が戻っていたのである。
やつも完全に姿を消していて、辺りは静まり返っていた。
カーナビにも自宅までの案内が再開された。
ほっとした。
その後無事に、車を運転し、家に帰ることができた。
何だか不思議で長い夜だった。
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