第7話 高速バス

 その日は、私の父と子供と3人で旅行に出かけていた。

 家族三人だけで出かけるのは、珍しかった。

 たいてい、出かけるときは家族全員で出かけることが多いのだが、何故か今日はこの組み合わせだった。

 いつもは、旅行に行くときは自家用車や新幹線、飛行機を利用することが多いのだが、今回は珍しく、というかおそらく初めてのバスツアーを利用していた。

 

 バスツアーで最初に向かったのが、有名な海岸だった。

 陸からみると海の景色がどこまでも広がっていて、とてもきれいだった。

 この辺りは、有名な観光地とあって、周りにはいくつかお土産屋さんや食べ物屋さんが並んでいた。

 食べ物屋さんでは、地元で獲れた海の幸を目の前で焼いているところもあり、ものすごく美味しそうな匂いが漂っていた。

 まずはお土産をゆっくり見ようとウロウロしていたが、そこら中から漂ってくるあまりにもいい匂いにつられて、まず先に食事をすることにした。


 お店に入り、これでもかというくらい、海の幸を注文する。

 海鮮丼に、モズクにカニに、サザエのつぼ焼きや、魚介のたっぷり入ったお味噌汁など、どれも普段は贅沢できないようなものばかりを食べた。

 この食べ物屋さんからも海の景色は見ることができたため、食べながらも海の景色を満喫した。

 そして、三人ともお腹がいっぱいになり、次にお土産屋さんを見て回ることにした。


 可愛いキーホルダーやマスコットキャラクターのタオルなど、ご当地のものが沢山売られていた。

 その中でも、旅行する先でいつも自然と足が向いてしまうのが、ご当地のお菓子コーナーだった。

 何箱か並べられている、お菓子の箱を真剣に見つめながら、どれが美味しそうか子供と話しながら吟味する。

 何箱か美味しそうなお菓子の箱を絞っていき、最終的には三箱ほど購入して満足した。

 お土産というよりは、旅行から帰って自分たちで食べるために選んで買っているようなものだった。

 それでも、ちゃんと家にいる家族の分も購入したから、ぬかりない。


 美味しい物を食べて、お土産も購入し満足したところで、次の場所に高速バスで移動することになった。

 次は、歴史的なお寺にお参りに行くことになった。

 さほど多くはない石段を登って、到着すると、大きくて立派なお寺がそこにあった。

 有名なお寺だということもあって、人もとても多かった。

 そこで家族三人でお参りをして、その後しばらく散策し、お守りを購入した。


 高速バスに乗り込み、次は今日宿泊する予定の旅館に向かうことになった。

 ここからしばらくはかかるということで、家族三人、バスの中でゆったりと過ごすことにした。

 午前中から、海岸やお寺など色々なところを巡ったので、体は大分疲れていた。

 バスに揺られているうちに、私はだんだんと眠くなってきて、知らない間に眠っていた。


 ふっと目が覚めて周りを見ると、まだバスは旅館についておらず、道路を走っていた。

 家族も、たくさん歩いて疲れたせいか二人とも熟睡していた。

 窓から外の景色を眺めていると、「あと少しで、旅館に到着いたします。」とバスガイドさんの案内があった。


 もうそろそろか・・・。


 そう思っていると、いきなり高速バスがスピードを上げだした。

 かなりのスピードだ。

 どう考えても飛ばしすぎなんじゃないかというくらいスピードを上げている。

 あまりのスピードでバスが揺れるため、寝ていた二人も起きてしまった。

 旅館はもう目の前に見えていたのだが、旅館に向かう最後の細い路地のところにバスがものすごい勢いで突っ込んでいく。

 一台しか通れないような細い路地で、目のまえに男性が一人歩いていたにもかかわらずバスはそのままのスピードで走行する。

 危ない!と思ったが、男性は無事だったようだ。

 そして、急ブレーキがかかる。

 旅館に着いたようだが、急ブレーキの際に止まりきれなくて、街頭にぶつかって少し凹んでいた。

 旅館の人がお出迎えしてくれていたが、その人たちも凹んだ街頭を気にしていた。

 

 なんで最後だけ、こんなに運転がめちゃくちゃだったのか分からず、戸惑いながらも、旅館のロビーへ受付を促される。

 受付が済んだ順番に、大きな広間で待つように言われ、そこに並べてあったきれいな椅子に座って、部屋に案内されるのを待つことにした。

 広間で待っていると、受付を済ませた人たちがどんどん入ってくる。

 もう全員受付を済ませたであろう人数が待機しているにもかかわらず、誰も案内の人に呼ばれない。

 そこへ案内の人がやってきて、ようやく広間を出る。

 広間を出て、部屋へ案内されるのかと思ったのだが、ふと気が付くと、子供と二人で手をつないで列の最後尾を歩いていた。

 列の前を歩いているのは、全員子供たちでさっきまでバスに乗っていた人は一人もいない。

 しかも、歩いていたのは、旅館の中ではなく、どこか分からない、外にあるトンネルの中だった。

 列の先頭には、先生らしき女の人がみんなを引率している。

 ここはどこなんだろう?旅館で休めるんじゃなかったの?

 そう思いながら着いていくが、どこに向かっているのか分からない。

 

 どうしよう・・・。どこに行くんだろう・・・。


 そう思っていたところで、目が覚めた。

 何故、いきなり子供たちの列に交じって歩いていたのか物凄く謎だったが・・・。

 あのまま、夢がそれずに、旅館でほっこりしながら温泉に入りたかったなと、しみじみ思うのであった。

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