第3話 世界の果て
ん?ここはどこだろう?
気が付くと、私は、よく分からない部屋の中にいた。
部屋の中には、顕微鏡やビーカーや試験管、それに医療器具なんかが沢山並べて置かれている。
研究所か、何かの医療施設なのか・・・。
部屋には私以外、誰もいない。
部屋の間には、白いカーテンで仕切りがしてあった。
私は、なんとなくカーテンの奥の部屋が気になった。
おそるおそるカーテンを開いて、奥の方に行ってみると、そこには台の上に一つの入れ物が置いてあった。
よく見ると、入れ物の中に何かがいる。
それを見て、私はびっくりした。
なんと入れ物の中には、二、三センチほどの小さな胎児が七人ほどいたのである。
みんなちゃんと生きている。
ここは、小さな胎児を育てるところなのだろうか。
その胎児たちを見ていると、すごく神秘的な感覚になった。
だけど、それは普段見るような光景ではない。
私は見てはいけないものを見てしまったような気持ちになり、この場所にずっといてはいけないような気がしてきた。
ここを出たい。場所を変えたい。
そう思っていたら、部屋の奥の壁に三センチ四方くらいの穴が突然開いた。
この穴からこの部屋を出よう。
そう思ったら、穴は小さかったけれど、すっとその穴に自分の体が引き込まれて、その部屋を出ることができた。
穴を抜けて胎児のいた部屋を出た先は、なんと、自分の見慣れた部屋であった。
今度はあまりに見慣れた風景に拍子抜けしたとともに、ほっとした。
だが、ほっとしたのもつかの間、外から誰かの叫ぶ声がした。
「炎の波が押し寄せてくるぞー!」
「なるべく上の方に逃げろー!」
え?
どういうこと?
そう思いながらも何か大変な状況なのだと察して、私は必死に家具の上に上って、天井と家具の隙間になんとか横向きになって入り込んだ。
そうしていると、炎の波が物凄い勢いで部屋に押し寄せてきて、私が上った家具のてっぺんギリギリのところまでやってきた。
危ない!と思ったが、そこまできて炎の波は去っていった。
危なかった・・・。
そう思っていたら、また外から声がする。
「第二波がくるぞー!気をつけろー!」
え?
またなの?
そう思って、もう一度構えた。
第二波がやってくる。
今度もギリギリのところまでやってきたが、何とか難を逃れた。
第二波がやってきたあと、外からの声は聞こえなくなった。
もう大丈夫なのだと思い、家具から降りた。
炎の波が押し寄せて、結構な熱さだったのに、家具や絨毯は全く焦げていない。
なんとも不思議だ。
なんか大変なこともあったから、また場所を変えたい。
そう思ったら、また部屋の壁に三センチ四方くらいの穴が開いた。
次はどんな部屋なんだろう。
期待と不安を抱きながら、またすっと、穴に吸い込まれていく。
穴を抜け出すと、そこは・・・暑い!
暑くて、まぶしい!
ここは一体どこなんだろう?
周りを見渡してみても、何もない。
目の前には、砂漠のような景色が無限に広がっていて、太陽がこちらに強烈な日光を当てている。
よく見ると、砂漠と思っていた地面は砂ではなく、肉のかたまりのようにプヨプヨしていた。
地面はところどころ、幅二メートルくらいの小さな丘のような膨らみがあった。
その丘のようなものも肉のかたまりのようにプヨプヨしている。
日光が強すぎて、このままだと倒れてしまいそうだ。
そう思っていたら、いきなり幅二メートルくらいの小さな丘のような膨らみの真ん中に目と鼻と口が現れた。
私はびっくりした。
どうやら、丘のような膨らみは顔であり体でもあるみたいだ。
こちらに話しかけてきた。
「そんなところにいたら、太陽光でやられてしまうから、ここの陰に来て隠れなさい。少しは暑さもましだろう。」
私は、言われるがままに、そこの膨らみのところまで行き、陰に隠れた。
少し、暑さがましになった。それでも、まだ結構暑い。
私は、肉のようなかたまりに話しかけた。
「ここはどこなんですか?あなたは誰?」
すると、かたまりは答える。
「ここは世界の果てだよ。私は人類のなれの果てだ。」
私は驚く。
どうやら私は、物凄く先の未来に来てしまったようだ。
驚く私に、かたまりは言う。
「ここは君が来るようなところじゃない。元の世界に戻りなさい。」
そう言われて、私は素直に戻ろうと思った。
ここにいても、何かできるわけでもないし、ここは私が存在していいところではないらしい。
それに、このままずっといては暑すぎて体がもたない。
肉のようなかたまりに別れを告げて、私は、さっき通った三センチ四方くらいの穴にもう一度吸い込まれた。
吸い込まれた先は、さっきまで自分がいた、慣れ親しんだ自分の部屋だ。
振り返ると、もう穴は消えていた。
やっぱり自分の部屋が一番落ち着く。
自分の部屋でしばらくのんびりと休憩しながら、ふと思った。
私の部屋の片側は、胎児のいた部屋、つまり人類が始まる部屋。
もう片側は、世界、そして人類の果ての部屋。
私の部屋はそんなスケールの大きい部屋の間に挟まれているのか・・・と。
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