第2話 低空飛行
私は必死に飛んでいた。
その夢の中で・・・。
一概に空を飛ぶといっても、夢では色んな飛び方がある。
地面に立ったままの姿勢からタテ向きや斜めに飛んだり、もっと高い所では地面や空と平行にヨコ向きに飛んだり、体一つで飛ぶときもあれば、何か道具やアイテムを使って飛ぶときもある。
人によっては、もっとオリジナルな飛び方があるかもしれない。
私の場合は、たいてい夢の中で飛ぶ夢を見るときはどれか一つの飛び方で、飛びながら何かしていることが多いのだが、その夢の中では、特に理由はないのだが、色んな飛び方を駆使して何とか飛ぼうとする必死な自分がいた。
まず、最初に飛んでいた方法は、地面と平行にヨコ向きに飛ぶ方法であった。
道具などは一切使っておらず、体一つで飛んでいる。
ありきたりな飛び方で、きちんと飛んではいるのだが、地面から五センチくらいしか離れていないのだ。
そう、低空飛行なのである。
低空飛行にもほどがある。
それは飛んでいるというよりもむしろ、浮いているといった方が正しいかもしれない。
場所は、マンションが多く立ち並んでいる傍の、駐車場に続く一人か二人が通れそうなくらいの細い道だった。
頑張って飛びながら、前に進もうとしているのだが、どれだけ頑張っても一秒に五センチくらいしか進まない。
簡単に言うと秒速五センチメートルだ。
何のために飛んでいるのか、分からないけど私は必至だった。
もしこれが現実の世界なら、かなり通行人の邪魔になっていたと思う。
普通に歩いたほうが速い。
それでも私は頑張っていた。
もっと上に飛びたくて、もっと前に速く進みたくて、物凄く必死に頑張っていた。
でもどれだけ頑張っても、それ以上高度も上がらないし、スピードも出ない。
かといって、頑張ろうとする力を緩めても、地面に体が近づくわけでもない。
ずっと、地面から五センチのままなのだ。
スピードも変わらない。
あまりの変化のなさに、私はそれ以上頑張ることを諦めた。
すると、いきなり場面が変わった。
今度はさっき飛んでいた道から横に曲がった所の、車が一台通れそうな少し広い道だった。
私は物凄く飛ばなくてはいけない使命感にかられていた。
次は助走をつけて、斜め上に飛ぼうと試みた。
そうしたら、なんということか簡単に上へ飛べたのである。
さっきまではあんなに頑張っても変化がなかったのに、電柱の高さまで飛べた。
せっかくなので、電柱のてっぺんに降りてみた。
理想は、もっと上から景色を眺めたかったけど、それでも、地面から五センチの景色に比べたら、いい眺めだった。
地面から五センチで飛んでいるときは、ほぼ前しか見えなかった。
普通に立って歩いている景色の方がまだましだっただろう。
よし、ここからさらに高い所まで飛んでみよう。
そう思って、電柱のてっぺんから上を目指してジャンプしてみた。
すると、期待とは裏腹にゆっくりと地面に落ちて行った。
おかしいな、今ちゃんと簡単に飛べたのに。
それに違う夢の時には、悩まず普通に飛べる時もあるのに・・・。
そう思いながら、もう一度飛んでみた。
そうしたら、次は、さっき飛べていた電柱の高さまでも届かなくなってしまった。
おかしい。
もう一度飛んでみる。
一つ前に飛んだ高さよりも低くなっている。
諦めずにもう一度飛んでみる。
また飛べる高さがさっきよりも低くなっている。
何回も繰り返して飛んでいると、どんどん飛べる高さが低くなっていく。
最後にはまったく飛べなくなってしまった。
何で飛べないんだろう?
自分の気合や努力が足りないのであろうか。
夢の中で、自分が飛べない理由を真剣に考えていた。
そこで思いついた。
少し休憩すれば、また飛べるようになるのではないか、と。
そして、道をウロウロと歩いたり、座ったりしながら、少し休憩してみた。
休憩していると、だんだんと今度は飛べるのではないかと思えるようになってきた。
そこで、もう一度、飛ぼうと力を入れて上へジャンプをしてみた。
結果、二メートルくらいは浮いたがその後すぐに落ちていった。
その後も、何回か繰り返したが、先ほどと同じで、どんどん飛べる高さが低くなっていって、最後はまた飛べなくなってしまった。
諦めた。
諦めて、普通に歩いた。
諦めたら、また場所が変わるのかと思ったが、そこからはずっと同じ場所で変わる気配がなかった。
そして、その日の夢は飛べなくなったまま終わってしまったのか、後の夢の記憶がない。
ただ、夢の中で物凄く頑張って、物凄く疲れた感覚がある。
何故、そこまで飛びたかったのか理由は分からないが、必死に頑張りたかった。
もしかしたら、夢の中ですんなり飛べるときと、頑張っても飛べないときとでは、何か現実での心の持ちようや願望が違うのかもしれない。
今思えば、少しでも高く飛ぼうと、上を目指してどんどん飛べなくなっていき、最後に飛べなくなるのなら、最初に見ていた夢の低空飛行の方が、まだ飛んでいたなと思うのであった。
それが、地面からたったの五センチであったとしても。
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