語られる過去

春樹に誘われ四人で祭りに行ってから、一週間が経った。


楽しい時間というものは、あっという間に終わってしまう。ずっと楽しい時間が続けばいいのにと、祖母と縁側で外の景色を眺めながら、ふと祭りの余韻に浸っていた。


これは一週間前に遡る。


祭りの後、俺は柚葉に連れられある場所に向かっていた。


「水原くん、君は何か私に隠してる事無いかな?」


それは突然の事だった。


あまりの不意打ちに俺は動揺を隠せなかった。


柚葉が何を考え、俺に対して何を聞こうとしているのか、冷静になって考えた。


春樹も百桃も居ない今、俺は柚葉からの質問に間違っても過去の事を掘り返す様な、解答断じてしてはならないのである。


これだけは百桃や春樹からは予め強く念を押されたからでえる。


ただ少し不安なのは、柚葉の表情や質問の内容から、俺が柚葉に何かを気づかれたらしい。


俺は今までの行動を必死になって思い出した。


それでも、俺には何一つとして思い当たる節がなかった。


「隠してる事?俺は瀬良さんに隠してる事なんか無いよ?」


緊張のあまり、言い慣れていない名字で違和感がありながらも彼女の名前を呼んだ。


「私よくあの公園に行くんだけど、水原くんもよく行ったりするのかな?」


柚葉が何を言いたくて、何を聞きたいのかなんとなく分かったような気がした。


「うん、一人になりたい時とか落ち着きたい時に、あそこの公園は落ち着くからね。幼い頃から暇があったらよく行ってるよ」


すると柚葉は驚いた表情でこちらを見るなり、再度確認の質問を投げかける。


「いつだったかな?私、誰もいないと思って泣いてたんだけど、聞いてたりしたのかな?あと、誰かに"ノート"の話しをしたんだけど、聞いてなかったらいいんだ。私にも分からなくてね」


次から次へと柚葉の口から明かされる言葉の数々。


"泣いていた"のは見てなかったし知らなかったけど、幼い頃に俺は柚葉が一人で泣いているのを見たことがあった。


だから、不思議には思わなかった。


とはいえ、泣いていた理由が俺に原因があるとしたらと考えたら胸が苦しくなった。


微かに涙声になりながら語られる柚葉の姿にこれ以上隠す事に限界を感じ、居てもたってもいられなくなった。


そして俺は春樹と百桃に止められていた禁忌を犯そうと、柚葉に明かそうとしたその時だった。


「水原くん...君が、私の日記に書いてあった和鷹くんなんだよね?そうだよね?そうなんだよね?」


柚葉は大粒の涙を零しながら、彼女の中で何かが繋がったのか、勢い良く俺に向かって飛び付いてきた。


両肩を掴み揺すり、俺の目を見るなり萎れた花のように膝から崩れ落ち、しばらくして泣きながら走って帰っていった。


俺は"終わった"のだと、俺が明かさずとも柚葉は辿り着いてしまった。


何が彼女の中で確証を掴むきっかけとなったのかは分からないが、これから柚葉とどう接したらいいのか分からなくなり、もし柚葉がこれから学校に来なくなったら、仲良くなるところか大きな溝が出来たのではないかと不安にな気持ちになった。


無気力になり、全身に力が入らなくなりゾンビのような速さでゆっくりと歩みを進め、下を向きながら祖母の家に帰っていった。

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