デート?
あれからしばらくして、大学は夏休みが近づき生徒の大半が浮かれ始めていた。
恋人ができ、デートの約束をする光景は何処を歩いても目に入るくらいで、充実していて何よりだと心から思う。
そして同時に俺は、携帯のカレンダーを確認し予定が一つもない事に少し心細い感覚に陥った。
誰が悲しくて夏休みに一人で過ごさなければならないのか、一学期最後の授業を終え、たまたま同じ科目を取っていた春樹が、百桃と柚葉を連れ一階のロビーで話があると俺を呼び出した。
荷物を纏め、教室を出てカップルの横を羨ましがると負けたみたいに感じるので全力で平静を保ち、真っ直ぐにロビーに向かった。
いつもの俺達の溜まり場といっても良いくらい、サークル活動が雨で難しくなった時、昼休みにロビーのテーブルを囲む事が多くなっていた。
「春樹、急に呼び出して何かあったのか?」
遊びに誘って欲しいなんて、口が裂けても言えないし、柚葉と夏休みに距離を詰めたい。俺はその為に覚悟を決め、準備をしてきた。
何を隠そう、此処に呼び出したのは他の誰でもないこの俺である。
普通に俺が三人を集めようとすると、断られるのは目に見えている。
この計画は春樹にだけ伝え、協力してもらっていた。
春樹とアイコンタクトで感謝を伝え、小さくテーブルの下で親指を立てる春樹のジェスチャーを確認する。
そして俺は自然な流れでそこに座る。
「よし!これで全員揃ったな?柚葉ちゃん、百桃、和鷹、夏休みの計画を練りたいと思うんだ!皆の予定教えてくれるかな?」
流石春樹である。始めは、いけ好かない奴だと思っていたが、筋さえ通せば協力的だし、案外良い奴なんだと思えてきた。
春樹の言葉に一番に反応したのは、百桃だった。
足を組み、春樹の考えを見透かすような目でじっと睨みつける。
「まあ、男達が何考えてるか知らないけど、気晴らしに何処か遊びに行きたいっていう案には賛成するわ」
春樹と百桃は幼い頃の付き合いらしく、仕草や表情で見透かされるのも、仕方がないのだと思った。
何よりも驚いたのが、あの百桃が受け入れてくれたということである。
なによりも、ここまでスムーズにことが進んだ事は嬉しかった。
一方で百桃の隣に座る柚葉はというと、目を凝らして俺を睨んでいた。
「柚葉さん、俺の顔に何か付いてるかな?」
俺は長い間視線を感じ、気になって声をかける。
「あっ、ごめんね。今日コンタクト片一方落としちゃったみたいで、片一方だけする訳にもいかないと思ってつけてないんだ。眼鏡鞄に入ってると思ったんだけど、それもなくて何も見えないんだ...」
ドジったのか、恥ずかしそうに手で顔を隠しながらモジモジした口調で話し始める。
「それじゃ、地元の夏祭り行こう!来週の土曜、夕方の五時半に駅前集合で!意見が無ければこれでよろしく!」
今日の春樹は横で見ていて驚く程格好よく見えた。
後は、時間が経つのを待つだけである。
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