夜の公園
しばらくして隣に座る彼女から、深刻そうなトーンで、それは突然告げられた。
「私ね、今の大学に入る前に高校の時に、半年くらいかな?病院で入院してたんだ」
反応に困った俺は、ただ静かに耳を傾け、「そうなんだ」と一言だけ添え気になった俺は続きを促す。
「半年も病院に居たんだ。何処か悪かったんですか?」
彼女は首を横に振るなり、こっちが知りたいと言わんばかりのジェスチャーを見せる。
視界に彼女の顔が入り、視線を下に戻すなり再度容姿や表情を確認しようと彼女の顔に目を向ける。
アレルギーなのか風邪でも引いているのか、マスクをしていてハッキリと確認することは出来なかった。
加えて眼鏡ときた。
綺麗な声もマスク越しで少し声が篭もっていたが、歳は同じくらいだろうと俺は推測する。
「勉強はなんとか友達のおかげでなんとかなったんだけど、今でも二人とは仲が良くてね、入院するようになってから毎日来てくれたんだ。ただ、その前までの記憶がどうやらないらしくて、始めは誰か分からなくてショック受けてたの今でもハッキリ覚えてるよ」
笑いながら語られる話の全ては、俺の身近な誰かを過ぎらせた。
確証の持てなかった俺は最後まで彼女に名前を聞く事が出来ず、ただ流れる時間を待っていた。
しばらくして思い切って俺は、彼女に問いかける。
「あのさ...。俺、昔"カメラ"で写真撮る事が好きだったんだ。もう、長い事触ってないんだけどさ...」
俺は一か八かの賭けに出た。
彼女が"柚葉"である何かに辿り着けると信じ、俺は呟く。
「カメラか...私もね入院してた時、横の床頭台にカメラと一冊のノートが置かれてたんだ。周りが口を揃えて言うのわね、私が大事にしてたものだって言うの。誰かに会うために、暇があったらカメラ持って此処に来てたんだって。誰に会いたかったんだろね、私は」
両手をベンチに付け、思い出に耽ける様に、小さく吐息を漏らす。空を仰ぎ、月を見ながら彼女の口から発せられる言葉の数々は、俺の心を締め付けるものがあった。
俺の知らない彼女の過去、柚葉に勝手に重ねた俺は、耐えられそうになく、軽くお辞儀をするなり、その場を離れた。
もし、彼女が柚葉だとすれば...そんな事を何度もループするように頭を過ぎらせる。
愛だの夢だの、理想を並び立てて、結局自分のことばかりで柚葉の事を何も考えていなかった。
そんな馬鹿で間抜けな俺を...
俺は自分で自分が嫌いになった。
離れてから気がつく、失ってから気が付くことはよくある事だと人は言う。
それじゃ手遅れなんだと、過ぎてから後悔するのはただ哀しんでる自分に酔ってるだけなんじゃないかって。
百桃や春樹が言っていた
"よく考えてそれでも会いたいなら話してくれ"
それを今やっと理解できたきがした。
頭では分かっていても、心や体が解かれた毛糸の様にバラバラになった物が、一本の糸に繋がった、そんな感覚がした。
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