誓いと覚悟
雨が止むなり、俺は急いで家に戻る。
「俺は柚葉馬鹿だ!だから、これくらいしか思いつかない」
それは衝動に駆られるように、ただ、今俺に出来ることを全部実行したいと、その為にまず何をするのか、頭に浮かぶ限りの事を一つずつ取り零すことが無いように、掻き集めた。
引越しの荷造りをした時、それらはあった。
小学校から中学三年までの約九年間の間、柚葉との思い出の全てを俺は捨てれる訳がなかった。
「柚葉、まだ写真撮ってたんだな」
埃まみれになったカメラを、押し入れから取り出すなり、軽く手で払いレンズに目を近ずける。
「なんだ、何も見えないじゃねぇか」
目に水が溜まり、頬を伝うそれは視界をボヤかせた。
「ピントの合わせ方、また柚葉に聞こうかな」
運動が苦手で、なんとなく入った写真部に俺は柚葉を巻き込んだ。
俺の知らない間に"記憶喪失"なんてドラマや映画じゃあるまいし、そんな悲惨な事故に遭ったと言うのに、柚葉はカメラを覚えていた。
その事実だけで俺は当時抱いていた罪悪感の様なものが少し和らいだ気がした。
しばらくしてバッテリーやメンテナンスを終えたカメラを片手に、外に出て何かを撮りに行きたくなった俺は、一番に公園に足を運ぶ。
「柚葉に会いたいな」
俺は自身のカメラに向かって強く握り締め、澄んだ夜空に光る星を眺めるなり、俺は誓った。
離れてしまっていた三年間を埋めることは出来なくても、今までの思い出を全部無くしてしまったとしても、ゼロから始めていけばいいのだと、今更謝っても記憶を失った現状が消えることは無い。
それなら、幼い頃の俺達が出来なかった事を、柚葉が幸せだって心から思えるよう俺の残りの人生を捧げる覚悟を決めた。
「今度こそ柚葉、お前を離さないからな」
公園に着き、ふと空を見上げ一人心細くなり少し数回身震いをした。
外は暗く車が通るエンジン音やタイヤのスキール音、人の気配すら感じない静まり返る時間に、なにやら奥から話し声が聞こえてきた。
階段を上がり、直近のベンチに腰掛ける。
耳を澄ませ、暗闇に目が慣れ始めると声や仕草は遠くから女性なのだと分かるものだと分かった。
「そこの君~そこで待っててね!直ぐにそっち行くから」
誰かに向けられた声は、周囲を見渡すなり公園には俺と彼女の二人である事から、俺に言っていたのだと時間差で理解する。
俺は彼女の声に言われるがまま、ただベンチに腰掛けたまま近づく彼女を待っていた。
月光に照らされ、彼女のシルエットが少しずつ鮮明になっていく。
「君って警戒心薄いんだね、他人を簡単に信用しちゃダメなんだぞ」
彼女のその言葉は、そっくりそのまま返してやりたいと思ったが、彼女の漫画やアニメに出てくる可愛らしい仕草で人差し指を俺の頬に突き刺すなり、俺は何も言えなくなった。
「そう言うあなたは、こんな時間に何をしてるんですか?」
警戒心のない彼女は躊躇なく俺の隣に腰掛ける。
"柚葉"と"芳江"を除いて異性と絡みが少なくなっていた今、免疫が低下していたのか隣に座る彼女の顔を直視する事が出来なかった。
視線を下に向け、彼女の声をただ横で聞いていた。
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