梅雨と涙
授業が本格的に始まり、サークルに入る人が増え俺も初めに比べれば随分慣れてきたと思う。
中にはサークルに入らずにアルバイトを掛け持ちする者や、入学から二ヶ月足らずで退学した者も居たらしい。
他人事とはいえ高校を一度中退した俺からすれば、彼らの心情がなんとなく理解できた。
放課後になり校門を出ようとした時だった。
「サークル、見学だけでもいいから来てみないか?」
俺が来るのを待ち構えるようにして立っていたのは春樹だった。
「水原君は、中学の時写真部だったんだろ?彼女は今もカメラ好きみたいだよ?君は、もう使わないのか?」
春樹のその言葉は、心に冷たい風が吹きかけた。
「そっか、それは良かったよ。けど、やっぱり悪い。俺は柚葉に合わせる顔が無いんだ。今のアイツにかける言葉も、向き合う勇気が無い。それじゃ、また明日」
以前二人に聞かされた柚葉の過去の一部を聞き、正直に言うと俺は怖気付いた。
柚葉が一番辛い時、寂しい時に必要としてくれていた、隣に居て欲しかったであろう俺は柚葉の気持ちを知ろうともせず、家族の"引越し"を言い訳にして俺は逃げた。
春樹と別れ、唇を強く噛みダサい自分に嫌気が差した。
しばらく進み学校が見えなくなった辺りで俺は、近くにあった自動販売機に強く頭を打ち付けた。
「お前は一体何がしたいんだ!柚葉とどうなりたいんだ!此処で逃げて何になる!!もう逃げるなよ!向き合えよ!!」
俺は叫んだ。答えは既に決まっていた筈なのに、実行出来ないでいる自分を奮い立たせるように、何度も何度も叫んだ。
頭の中の天使は「これ以上下手に近づいたら彼女を傷つけちゃうからダメ!」
一方で悪魔は「記憶を失ったなら、会っても意味が無いから辞めときな」
俺は頭を掻き乱し、天使と悪魔をかき消す様に左右に頭を振った。
そして俺は地面に崩れ落ちるようにして泣きながら誓った。
今朝の天気予報では、日中曇りだと聞いていたが通り雨なのか気が付けば雨で服がずぶ濡れになっていた。
周りの人の走る足音や、一本の傘で相合傘をする恋人の声が微かに聞こえ、涙か雨か分からない程、ただ叫び、泣き疲れた俺は立ち上がる事も出来ず、しばらくその状態のまま居た。
「今の俺に何が出来るかなんて分からないけど、このまま動かないで卒業なんかしたら、後悔が残るのは目に見えてるんだ!もう、絶対逃げねえ!!」
そうこうしていると、さっきまでの雨が嘘のように止み、雲間から太陽がオーロラのような幻想的な形で差し込み、それは綺麗な光景だった。
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