過去

何も知らない俺に呆れた様な顔で、百桃は大きな溜息を漏らす。


一方で春樹も驚いたのか目を大きく開け、口をポカンと開けていた。


「俺は知りたい。二人が俺と柚葉の事をどれだけ知っているのかは分からないが、俺は柚葉と離れた間の事をちゃんと知りたい。何か俺に出来ることはないかな!」


祖母から聞かされていた俺の知らない柚葉、春樹と百桃の知っている高校三年間の柚葉を俺は純粋に知りたいと思った。


「君ね!!今自分で何を言っているのか理解出来てるの?何か事情があったのか知らないけど、普通付き合ってた子を振って、挙句の果て連絡も無しで再会したと思ったら、知りたいだって?虫が良すぎると思わない?馬鹿もここまで来たら笑えるよ」


俺は百桃の言う言葉に反論する事が出来なかった。ただ刺さる言葉の数々に、ただ立ち尽くす事しか出来なかった。


何も言えずに固まっていた俺を見兼ねたのか、春樹が俺と百桃の間に割って入ってくれた。


「百桃も少し落ち着けよ、もっと冷静になれって」


百桃の肩に触れ、春樹は百桃を宥める。


「でも...」


百桃は駄々を捏ねる。


「水原くん、僕から言える事は今百桃が言った事とそう変わらないのだけど、百桃の言い分を分かってやって欲しい。僕からは君に言えることは一つだけだよ。」


「君は瀬良さんを好きかい?」


俺は春樹の言葉に即答する事が出来なかった。


「俺は...俺は...」


怒りを抑えようと必死な百桃を先に帰らせ、春樹は続ける。


「君の答えが固まったら、その時はまた聞きに来て欲しい。話はそれからだよ」


俺は自分自身分からなくなっていた。柚葉とどうなりたくて何がしたいのか、柚葉の過去を知って何かが変わるのか、頭を掻きむしり焦る心を落ち着かせるため呼吸を整えた。


「一つだけ確認してもいいか?」


少し引っかかる点を払拭するため、二人に質問を投げかける。


「それは柚葉さんの事かな?」


「そうだ」

俺は続けて話し始め、一か八か確認する。


「柚葉は、昔の俺を覚えてないのか?」


大学に入り何度か顔を合わせる事はあったし、少し話す機会もあった。


だが、そのどれも初対面の人と会うかのような雰囲気を感じ、俺の知っている柚葉とは確かに違った気がした。


春樹は静かに首を縦に振る。


「流石に気がついたかな。柚葉さんは確かに記憶を失っているよ」


春樹の言葉に泣き出す百桃が、しゃくり上げながら話し始める。


「これで私が君が柚に会って欲しくない理由は、大体察してくれたかな?柚は記憶を失う前まで君の話ばかりしていたわ。柚を大事に出来なかった君に...君なんかに取られるくらいなら柚に嫌われたとしても近づけたくないの!」


俺は百桃の言葉に圧倒され、言い返す事など出来る訳もなく、俺はただ自身の無力さを思い知り、その場に立ち尽くしていた。


"俺は柚葉が好きなんだろうか"


答えは既に決まっていたと思う。ただその答えを自覚し確定させるのが怖かった、だから今までも柚葉とちゃんと向き合えた記憶がない。


そんな俺にもう一度会う資格があるのだろうか、友達に戻れるのか、向き合う事をから逃げた俺が柚葉を好きになる資格があるのだろうか。


俺は怖かった。

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