天敵

コツコツコツッ


貸切といっても良いくらい静かな公園に誰かが階段を上がる足音が聞こえた。


「こんな時間に公園に来る人も居るんだな、まあ俺がそうなんだけどさ」


自分で自分にツッコミ、苦笑しながら足音の聞こえる方へ目を向ける。


「ねぇ、君が水原くんだよね?ちょっと良いかな?」


そこには、今朝春樹が紹介してくれた"朝比奈百桃"の姿があった。


彼女目は鋭く、今にも拳が飛んできそうな、そんな口調で俺は圧倒された。


「はい、俺が和鷹ですけど、何か用ですか?」


彼女は勢いよく人差し指を伸ばし、俺に突き立てるなり話し始める。


「和鷹くん!私は君に柚葉を近づけたくないから!春樹は君を勧誘してたけど、無かったことにしてくれるかな!以上!それじゃ!」


「えっ、あっ...」


あまりの突然な事に、理由を聞くことも出来ないまま、彼女はその場を去ってしまった。


「朝比奈さんが何を考えているよか分からんけど、彼女の言う通り会わない方が良いかもしれないな...」


パンッ!パンッ!


俺は頬を強く叩き、深く深呼吸した後、桜の木に向かい立ち止まっては眺める。


「帰るか...」


「にしても、朝比奈さんって家近いのか?わざわざアレを言う為に此処まで来たってことはないだろうけど...」


俺は何故彼女が俺に柚葉と会わせたくないのか、理解こそ出来なかったが深く考える事はしなかった。


ただ、朝比奈さんは俺と柚葉の事を知っているのだと、それだけで充分なそんな気がしたからである。


家に着き、部屋に戻り布団に入る。


「俺は、これからどうしたらいいって言うんだよ」


カチッ


部屋の灯りを消し、百桃に釘を刺された以上柚葉に近づけないのだと、それと同時に、百桃が俺と柚葉の事を何処まで知っていて、俺の何を気に入らないのか、何か誤解があるのではないか、それらを確認したいとも思った。


「柚葉は、俺の事をどう思ってんだろう」


ふとそんな事を頭を過ぎる。


「明日の事は、明日考えるとするか」


枕元の目覚し時計をアラームを合わせるため確認する。時刻は普段より一時間遅く、十二時を少し回っていた。


「おばあちゃん、おやすみ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る