春樹と百桃

入学式も終え、本格的に講義が始まった。


桃色に包まれたオーラも黄色く照らす太陽も、俺の背中を押し上げる。


「俺、本当に大学生になったんだな」


着心地の悪い制服は、もう着なくてもいい。


「俺、上手くやっていけるのかな...」


地元の大学という事もあり、駅もわずか三駅と近く、駅からもそう遠くない所にある。


電車に乗り込むなり、奥の方から人を掻き分けて俺の乗る車両に向かって近ずいてくる人が居た。


「すみません!すみません!通ります!」


大きな声でのする方へ、ふと視線を向ける。


「水原君だよね!俺、春樹!君が隣の車両に乗ってるのが目に入ってさ!良かったらこれから一緒に行こうよ!」


とはいえ、たったの三駅である。


学校に着けば嫌でも会うし話せるというのに、春樹という男は何故か俺に付き纏う。


少し言葉に語弊があるかもしれないが、仲良くしてくれる分には心から感謝もしてるし、嬉しくないはずが無い。


ただ高校の時、仲良くしようと深く関わり過ぎて、ウザがられ、離れたクラスメイトや何故かエスカレートして俺は虐めにあった為、こういった始めに勢いのあるクラスメイトは少し距離を取りたいと思う。


俺は少し弄れた考えをしていて、"どうせ離れるなら始めから仲の良い振りをしないで欲しい"と、虐めとは本人にこそ原因があるかもしれないが、だとしても被害者側が心を病むし、辛く悲しい気持ちになる。


"春樹"はそんな人じゃないと、信じたいし、仮にそうであっても嫌われないように、俺は丁度いい距離感を保とうと、全神経を研ぎ澄ませ、春樹と向き合う。


「そうだね、これからもよろしく」


しばらくして大学に到着し、各自選択した講義室へ散らばる。


キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪



チャイムが鳴り、帰る者、別の講義室に向かう者、昼食を買いに行く者が居る中、春樹が俺の元にやってくる。


「和鷹くん、一緒に帰らない?少し先生に用事頼まれてるから、下のロビーで待ってて貰って良いかな?終わり次第直ぐに行くからさ!」


特に用事が無かった俺は、この日を機会に春樹と仲良くなれるチャンスだと思いロビーで待つことにした。


人混みの中一階のロビーで座っていると、奥から手を振る人が見える。


「水原くんだよね?ちょっとそこで待っててね!直ぐに行くから!」


遠くに見える彼女は、俺を呼び止めるなり何処か聞き馴染みのある声だった。


そう、紛れもなくあの"瀬良柚葉"だった。


「春樹は何を考えてるんだ!春樹に俺と柚葉の事は話してない筈だが...まさか...」


春樹の策略か、用事があると呼び出されていた俺は目の前に柚葉が居て驚いた。


そして、百桃の言っていた言葉が何を意味していたのか、春樹が何を企んでいるのか、二人が何をどこまで知っているのか、考えれば考える程頭のキャパシティがオーバーする。


柚葉もまた、久しぶりに会うとはいえ何処か違和感を感じる、そんな雰囲気すら感じさせた。

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