葛藤
祖母の家は居心地がいい。幼い頃から何かある度に遊びに来ては元気を貰っていた。
そして今日、祖母に入学式での出来事を伝える為少し駆け足で家に帰った。
「おばあちゃん!ただいま!」
祖母の姿は居間にも和室にも居なく、何処か出かけてるのだろうと思い、なんとなく縁側に向かう事にした。
「おや、和鷹や学校はどうじゃった?友達は出来たかのう?」
祖母は林檎を剥きながら、俺を見るなりそう言った。
「おばあちゃん、前に言ってたよね?あれから柚葉がどうしてるかって、直接会ったわけじゃないんだけど、大学に柚葉が居るかもしれないんだ」
祖母は特に驚く様子もなく、笑顔で頷く。
「そうかいそうかい、次は手放しちゃいけんからのお。仲良くするんじゃよ?」
「うん、分かったよ」
部屋に戻り、柚葉と再会する上でどう声を掛けるのが良いのか、嫌われていて避けられたらどうすれば良いのか、色々考えた。
「大学生活緊張してたけど、柚葉が居るなら前みたいに楽しくなるかも」
柚葉と過ごした約9年間。小学一年から中学三年まで、ずっと隣に居た訳ではないが、あの夏のプールまでは確かに仲が良かったと思う。
そして柚葉と俺は短い時間だったが、確かに付き合っていた。対象が変わっても、俺達は友達だった頃と変わって居なかったと思う。柚葉はどうだったのかな。
それすらも聞けないまま、俺は柚葉と離れた。
「これじゃまるで柚葉に未練があるみたいだな」
風呂に入り部屋着に着替え、部屋に持ってきた鞄を漁る。
中には柚葉とお揃いで買ったキーホルダー、カメラだった。
「柚葉、カメラ続けてるのかな」
しばらくして暇になった俺は、気分転換に夜風に当たりに外に出る事にした。
「公園、行ってみるか」
カメラを手に、桜が咲き始めた公園に今、明日からの大学生活を有意義なものにする為、小学一年の入学式のように、俺は勇気を貰いに公園へと足を運ぶ。
「昔、柚葉とこうしたカメラ持って写真を撮りに良く遊んだっけ。引っ越してからカメラ触らなくなったな、壊れて無ければいいけど」
入口に入り、近くのベンチに腰を降ろす。
レンズを合わせ、桜の木や街灯に集まる虫にカメラを向け適当に周囲を眺める。
「春は気持ちがいいな、快適な日々が続ければ良いのに」
暑がりで寒がりな俺は、空に向かって文句をぶつける。
「柚葉、芸術サークルに入るんだよな。俺も誘われたけど、気まずくならないかな、春樹だっけ?あいつと仲良さそうだし、彼氏だったりするんかな」
今更ということもあり、いざ顔を合わすとなると怖気付いてしまう。
別れてからも、好きで居てくれたらしい柚葉の過去に変な期待があり、同時に会って何を話したらいいのか分からず、逃げたいと思う気持ちもあった。
「せっかくの誘いだけど、一度断って様子を見ようかな」
夜桜が宙に舞い、街灯の光に照らされた花びらは日中とは違った美しい光景が、そこにあった。
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