柚葉の告白
「和鷹くんは、好きな人って居る?うちは居るんだけど、当ててみてよ!」
桜の咲く公園のベンチに俺と柚葉は横に並んで座り、そんな会話が始まる。
「知らないな、柚葉を好きだって人は知ってるけど、柚葉が好きな人は聞いたことないな」
彼女は軽く頬を膨らませ、少し溜めるようにして
「それじゃ答えにならないよ!君って、ホント鈍感なんだね。」
一瞬彼女が何を言ったのか理解が追いつかず、俺はその後の言葉を容易に推測でき、俺は動揺し、咄嗟に話を逸らした。
「そう言えば、今日は何撮りに行くんだっけ?」
柚葉は話を逸らされた事に腹を立てたのか、不機嫌そうなトーンの声で下を向きながら呟いた。
「ホントは気づいてるくせに、馬鹿っ」
どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。
それでも俺はその後の言葉を聞く訳にはいかなかった。
なぜなら、柚葉と友達以上の関係になるのが怖かったからである。
すかさず頭を下げるも、そう簡単に機嫌は治してはくれないみたいで、申し訳ない気持ちになる。そして同時に柚葉の怒った表情も、口調も、柚葉の仕草の一つ一つに、初めて柚葉と出会った時に比べ随分距離が縮まったのだと思い、少し嬉しい気持ちにもなる。
そんな柚葉に、俺は今告白をされようとしていた。俺の勘違いかもしれないが、それでも隣で七年近く一緒に居れば、分かる。それに柚葉からのアプローチはストレートで頻繁にあった。"柚葉の好きな人は知らない"あれは嘘だ。気が付いてて敢えて知らないフリをした。中途半端な気持ちで柚葉の告白を受けようものなら、気づつけるのは目に見えてるし、何よりも失礼であるからである。
俺は必死で彼女の話を逸らそうと、心の準備もだが、芳江に対する気持ちに整理が出来ていない状態で、柚葉と"友達"を続ける必要があった。
「俺なんかより、もっと良い人居るだろ」
正直な所、彼女に告白をされる事は薄々感じてはいたし、無論嬉しくない筈がなかった。
俺は、この気持ちが"好き"という言葉で括ってしまって良いのか、幼馴染に対する"好き"と柚葉に対する"好き"は何が違うのか、あるいは同じなのかもしれない。
俺は俺自身この気持ちに最適な"言葉"が知りたかった。
彼女が俺に告白する前に沢山の男子から告白を受けている事を、同学年の中では割と有名だった。そして俺も当然知っていた。
俺の主観では、一人として俺より劣る男子は居なかったと記憶している。
運動神経抜群。優しい。勉強が出来る。
それぞれ自分に自信があるのか、彼女に言い寄る男子は、俺なんかよりも輝いて見えた。
それに比べ俺は何をとっても平均以下である。
「柚葉、ごめん」
彼女は、そんな俺にお構い無しに続けて話す。
「何か理由でもあるん?」
彼女の真っ直ぐな目と、彼女の言葉に俺は何も言えなかった。
しばらくして柚葉と別れ俺は家に帰り、とにかく考えた。
柚葉を傷つけないよう、納得してもらえる言葉を探した。そして風呂に浸かりながら一つの打開策を見つけ出した。
「彼女と付き合おう、少なくとも断る理由こそ無いし、でも芳江さんの事は... ...黙っておこう」
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