片想い

今日は芳江さんが家に来る事になっている。勉強の出来る兄に教えて貰いに来るらしい。


「お邪魔します」芳江さんが来た。


「芳江さん、おはようございます。兄は部屋に居るので、上がって下さい。何か持って行きますね」芳江さんはニコッと笑顔で


「ありがと。和鷹くんも勉強、頑張りなよ?一年なんてあっという間なんだから」そういって二階へ上がっていった。


リビングに行き、コップを人数分用意してお茶を注ぐ。


「やっぱ芳江さんは綺麗だなぁ~柚葉はやっぱり凄いや。告白なんか俺には出来そうにないや。もし、俺が芳江さんに告白したら今の関係って崩れちゃうのかな、しないで後悔するよりして壊れる方がやっぱ嫌だな」


ガチャ。


二階から降りてきて、俺の居る居間に入る音が聞こえる。


足音が近づき、声が聞こえる。


「持って行くの手伝うよ!家から持ってきたお菓子もあるから、適当に皿に並べてくね」


居間に来たのは"芳江"だった。


自分一人だと思い口に出した独り言を、万が一聞かれたのかと思うと、俺は恥ずかしくなり汗が滲んだ。独り言を、もし芳江さんに聞かれていようものなら、これからどんな顔をして話せばいいのか、怖くなって恐る恐る聞いてみた


「芳江さん、」彼女は皿にお菓子を並べながら



「... ...なんの事?何か聞かれたら不味いことでも話してたの?」少しの間があったが、彼女は聞こえていなかったらしい。実際の所は彼女にしか分からないことだが、取り敢えず聞かなかった事に俺はほっとした。


芳江さんは、勉強が終わったのか夕方になり、家に帰っていった。


芳江さんが兄と仲が良いのは、幼馴染だからだけではないと思う。もちろん、それもあるけど。近くで芳江さんを見ていたから分かる。芳江さんは兄の事が好きなのだと。


ブクブクブクブク... ...。風呂の中に口を入れ、息を吐き出す。


「はぁ~芳江さんの事は、諦めた方が良いのかなぁ~」


自分の中で葛藤があった。柚葉に対する気持ちと、芳江さんに対する気持ちに。俺は一つの答えを見つけた。決してこれが最善だとは思わなかったが、仕方ないのだと思い、それ以上考える事を放棄した。"柚葉と付き合おう"


ゴールデンウィークの初日。今日は初めて"柚葉"の家にお邪魔していた。


「それで?うちと付き合ってくれるん?」彼女の部屋で二人きり。俺は彼女の質問に、今日は答えを出しに来ていた。


「俺、瀬良さんと付き合うよ。俺なんかで良いのかは分からないけど、これからもよろしくな」世の中の男性は、こんなハードルの高い"告白"という儀式を通って来ているのだと思うと、すれ違うカップルの男性に尊敬さえ覚える。


どこか、もどかしそうに彼女は


「なんか言わせた感あって、寂しいな。そりゃ、うちは嬉しいよ?やっと付き合えたって思うと。まあ、こちらこそ宜しくね?」


と言った。彼女を不安にさせたのは、自覚していた。無意識に言った言葉だとは思うけど、俺の返事に"好き"という言葉は無かった。

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