好きということ

瀬良さんと様々な場所に行き、写真を撮った。柚葉のカメラフォルダーには、自分の家から撮った"朝日"から始まり、俺と合流してから桜の蕾や、駄菓子屋、川で水切りをして遊んだ写真、最後は夕日が登る写真で、今日の撮影会は有意義なものとなった。しばらくして、町内放送により、十七時の音楽が流れだす。


「瀬良さん、疲れてない?時間大丈夫?」写真に夢中になっている彼女に声を掛けるのは、少し躊躇したが、外は暗くなり、お互いの身を案じ、俺は思い切って彼女を呼び止める。


「瀬良さん、そろそろ帰ろう。また撮りに来ようぜ」すると、彼女は少し名残惜しそうにして公園を後にする。


「うん、また撮りに来ようね」


「にしても、今日は楽しかったな!瀬良さん、今日は誘ってくれてありがと!」


俺は家に帰り、ふと部屋の時計を確認すると、夜の七時を少し回っていた頃だった。


ギュルギュルグゥ~


大きな欠伸をし、大きなお腹の音が鳴り、リビングから漂う夕飯の香りに吊られるようにして一階へ降りる。


「和鷹?夕飯、まだ出来そうにないから先にお風呂入って来なさい」


「分かったよ!」


母に促され、俺は鳴るお腹を抑え着替えを持ち浴室へ向かう。


「瀬良さんは、本当に写真部に入って良かったのかな?」しばらく間、浴槽の中で考えていた。俺のせいで瀬良さんを写真部に引き込んでしまったのではないか、もっと瀬良さんに相応しい部活や、友達は選べたんじゃないかと、こればかりは俺が考えても仕方がないことだけど、不思議なのは確かである。


そして俺は同時に、一つの壁にぶつかっていた。

俺の初恋相手で、今も片想いをしている"長谷川芳江"に抱く気持ちと、最近になり"柚葉"に対しても似たような感情を抱いていることである。


そんな状態の俺は、付き合う資格は無いのだと思った。


ガチャ。


「お邪魔します。肉じゃがを作りすぎたので、良かったら食べませんか?」


玄関から肉じゃがを持ってきたのは、幼馴染の"長谷川芳江"だった。俺はまだ風呂の中だった事もあって、今の状況を彼女に見られる訳にはいかなかった。


「和鷹~芳江ちゃん来たから早く風呂から上がって来なさ~い」リビングから俺を呼んでいるのは母である。


「すぐ行くよ~!」


俺はバスタオルを外から急いで取って浴室の中で体を拭き、着替えも続けて済ませる。


両手で頭を拭きながら、洗面所を出ると丁度彼女が横を通るところだった。


「芳江さん、来てたんだ。美味しそうな香りですね。肉じゃかか何かですか?」


芳江は首を縦に振り、軽く微笑んでみせる。


「和鷹くん。服、裏返ってるよ」

そう言って彼女は居間へと入っていった。俺は恥ずかしくなり、急いで服を正しい向きに直しす。


風呂上がりだからか、体に熱が籠って流したにも関わらず、恥ずかしかったのも合わさり、しばらくの間汗が滲み止まらなかった。


熱を冷ますため、俺はリビングに向かい、置いてあった扇風機を独占する。


「柚葉の言う"好き"ってなんなんだろう」

花は好き?チョコは好き?ギリじゃないよ。君の好きな事を私も好きになりたい。君が好きだよ。


柚葉が俺にチョコを渡した時、俺は背中に電気が走るような感覚が起こった。


幼馴染の芳江にでさえ気持ちを伝えられていない俺は、柚葉の俺に向ける好意と俺が芳江に向ける好意を何故か重ねてしまう。


柚葉は可愛いし、優しいし、学年一の美少女として人気がある相手で、友達として嫌いになる要素が無く、気がつけば小学一年から現在まで仲が良いぐらいである。友達としての"好き"と異性としての"好き"を錯覚してしまってるのではないかと、そう考える方が納得出来るというものである。


その一方で、俺は幼馴染である"芳江"に幼い頃から片想いをしていて、まさに現在進行中である。二つ年上の芳江は、俺が幼い頃から良く面倒を見てくれていたらしい。何かあれば、ぐずっていた俺にいつも優しく隣に居てくれたのは"芳江"だった。勉強や人間関係に悩んだ時も、話を聞いてくれたのも芳江である。


ーーーーーーーーーーーーーー


そんな事を考えているうちに、身体の熱を冷ますどころか、少し身震いがして、くしゃみを一つ、二つと繰り返す。キッチンから肉じゃがの香りが、より一層食欲をそそり、お腹が再度なる。


母、父、兄、幼馴染と俺の五人で食卓を囲む。


始めは違和感こそあった、この光景も当たり前になっていて楽しかった。


来月から二年生になる俺は、思春期である今、"長谷川芳江"に片想いをし続けていた。叶わない事を知っていてもそれでも、幼い頃から彼女への気持ちが歳を重ねるに連れ増すばかりだった。

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