第16話 最後の日
「今日が記念すべき日だ。今から私はこの島の神となる。私に歯向かうものは皆死ぬ事になるだろう」
「仕方がない。最後の手段だ、起爆スイッチを押そう。大石英に爆弾を仕掛けていたのが役に立った」
モーリスは残った力を振り絞ると、もう一つのスイッチを出した。
「神に爆薬を仕掛けるとは罪なやつだ。償いをしてもらわないといけないな」
すぐに起爆スイッチをランドロスにとられてしまった。それにマッキーが気づいた。
「それを返せ」
「返せと言われて返すやつが何処にいる。お前、今から爆薬を神のもとから外してこい、下手な真似をすると爆発してお前も粉々だ、ここにいる仲間も同じ」
「マッキー、大丈夫なの?」
ハーネスがマッキーを心配していた。
「大丈夫さ、それに上階にいるランドロスもスイッチを押す事ができないよ」
マッキーとは手下に誘導され、爆薬を外す事になった。
「さっさと行くのだ」
「駄目か、私もここで終わりか。結局私は島の発明品もハーネスすらも守れなかった」
「モーリス、お前にはもう死んでもらう!」
ランドロスはモーリスを見るとニヤリと笑った。そして銃声が聞こえた。
「ランドロス、なにを!」
見るとランドロスは起爆スイッチを落としていた。胸を撃ち抜かれたのはランドロスだった。
「うっ! 誰だ!」
モーリスがみた。
「ラウル、お前」
「ラウルか……、知らんな……、どうして俺を撃った」
「どうしてと言っても、お前が悪い事をしているみたいからだよ。」
「お前、この島をどうする気だ!」
「これからは私がここグランドベースを占拠し支配するのだ」
島はエネルギーがたまらないまま移動を始めた。
無理矢理動かしたので島が崩れる。
「モーリス、立て。島を修復するのだ、でないと皆死ぬぞ」
「ラウル、もうその心配はいらないのだ。マッキー、それを押すのだ」
「はい!」
マッキーは床の起爆スイッチを拾い上げると、ためらいもなくスイッチを押した。
「なんと!」
神なる大石英は爆弾で吹き飛び、島は安定感を失いはじめた。
「くそー、仕方がない。おい皆早く逃げろ。この島はもう駄目だ、山に墜落する。退散!」
「承知しました!」
回りにあるものが倒れると、付近にあった宝石や金のアクセサリーが散らばった。ラウルは逃げ出す際にやみくもにそれらを掴み盗んだ。するとある物に気づいた。
「ん? なんだこれは」
見覚えのあるペンダントが混ざっていた。拾い上げて中を開けると女性の顔があった。
「母だ、思い出した、これは俺が昔なくしたものだ。何故ここに?」
ランドロスが横たわったままラウルに言った。
「まだ気づかないのか! ここに来たのは初めてではないはずだ。お前もアルムの人間なのだ。見れば分かる」
「なに! 俺がか? そんなはずはない」
「そこの水晶に触れてみろ、発光するはずだ」
ラウルが石に触れると光った。
「なんと! そんなバカな、俺がアルムの人間だったとは」
「記憶を消されているようだな」
「畑仕事の感覚は老婆から聞かされているものではなく、自分の記憶に残っていたのか」
ラウルは自分を見失い、理性を失った。
「お前は幼い頃ここで働いていたのだ」
「まさか俺が、嘘だ! 嘘だと言ってくれ!」
ラウルはランドロスに泣きついた。
「お前を見れば分かるぞ、怯えた心、それに反したプライド」
「うっ、信じられない、そんなはずはない、なんと、なんという事だ!」
ラウルはラウルは今まで生きてきた記憶が走馬灯のように頭をかけた。辛い思いをした事や悲しい事を思いめぐらすと頭がおかしくなり、手下が持っていたドリンク取り上げ、自ら飲み干して、倒れた。
「愚かなやつだ、自分の記憶に押しつぶされるとは、だが私もここまでか、もう少しだったが」
力尽きるランドロスを前にモーリスには一つ問いたいものがあった。
「ランドロス、お前はベリッタを殺した、何故殺す必要があったのか」
「殺すつもりはなかったよ。しかしやつは私を侮辱した。そして再びこの島へ戻り彼の脳を掘り出し大石英に組み込んだ」
「脳は奪われてはいない」
「お前、ベリッタの墓を掘り返したのか?」
「ああ、そうだ、ベリッタの遺体は墓下の地中にあり、ベリッタの技術により体はそのままの形で残されていた。本来大石英にはベリッタの魂などありはしない。あれは単なる性能がいい計算機という事だ」
「その通り、島には神など存在しない。グランドベースを動かしているのはこの私だったからな」
「愚かな奴だ。以前お前は石油団体に所属するも他の連中と気があわなく孤立していた。独占欲の強いお前は、どうしても皆の上に立ちたかったが出来なかった。その時この島にたまたま上陸すると、そこの住民の人々はよく働き、ベリッタに忠実でいた。お前はそれが憎らしく思い、だから殺した」
「違う、私はこの島を自分の力で手に入れた。自分の物にする為にだ」
「いくら人を騙して、殺しても、お前の心は満たされない。お前が欲しいのは島ではないからだ。本当に欲しいのは自分を敬愛してくれる者達だと言う事だ」
「うるさい! こうなれば、最後にお前の娘をいけにえにする。連れて来い!」
ランドロスはゆっくり起き上がると、手下に命令した。
「いやー!」
「ハーネスをどうする気だ」
駆け寄るマッキーだったが、急に床の中心が四つに割れ、島の開口部が開いた。床の上にいたユウの仲間が何人か地上へ落下した。マッキーも引きずられ、かろうじてつかまっている状態だ。
「マッキー」
ランドロスはハーネスの手を掴み開口部から落とそうと構えた。
「祝賀の儀だ、今日で私が神となる。そして私とグランドベースの最後の日でもある。みちづれにこの女を殺す」
片方の手でつかまれたまま宙刷りのハーネスを、開口部につかまっているマッキーが見た。
「ハーネス、今助けるから待ってろ」
「マッキー、無事だったのね。もう落下したとばかり思ったわ」
マッキーは開口部を腕の力だけでよじ登った。
「お前はまだ落ちていなかったのか、しぶとい小僧だ」
「ランドロス、その手を放すなよ、今からそこに行く」
「待てるものか、お前が受け止めて、二人とも地上へ落下するといいさ」
「ランドロス。そこまで凶悪とは!」
マッキーは斜面を一気に駆け上ってランドロスのズボンの裾をガッチリつかんだ。
「汚い手でつかむなよ。私はお前らアルムの人間と違うのだ、けがれるだろが、奴隷どもめ」
ランドロスはマッキー蹴落とそうとした。
「アルムの人間は奴隷じゃないし特別変わっているわけでもない。俺もハーネスもそうだ。ロイだって同じだ……」
「この娘もアルムならなおさら落とすしかないな」
「やめろ、ランドロス。今ならまだ間に合う。それに世界は既にお前のものになってあるよ」
「小僧、もう遅いよ、お前のせいで全て台無しだ。それに私の意識も遠くなってきた」
その時ランドロスの手からハーネスが離れた。
「ハーネス! つかまって!」
落下するハーネスの腕をマッキーがもう片方の手でタイミングよくつかんだ。
ランドロスの裾をつかむマッキーの腕に重量がかかると、ランドロスまで引きずられ落下した。
間一髪マッキーは開口部の下から飛び出している樹木の根っこをつかんだ。
「マッキー!」
「大丈夫、ここから上がれるのよ」
よく見るとハーネスの足にランドロスがつかまっていた。
「お前らだけ生きて帰る事はさせない」
「やめてよ、けがらわしい!」
ハーネスは足でランドロスの顔をけり落した。
ランドロスは叫び声を上げて、マナ村の上空から落ちていった。
しかしマッキーの腕は疲れ、上がる力は残っていなかった。
「くっそー、限界だ」
「マッキー、マッキー聞いてる?」
「大丈夫だ、心配しないで!」
「無理だよマッキー、いいから手を放して! マッキーも落ちるわ」
「何言ってるんだよ、島にきて死ぬなんて、なにもならない」
「今になってわかったわ、アルムの気持ち。今わたしは死ぬのが怖くないもの」
「怖くない?」
「そう、ロイと同じ。無理に生きようとは思っていない。ランドロスのように野望をむき出しに生きているのを見ると、うんざりしてくるわ。他の人間も同様、皆人間は自分の損得を考え、その場の事だけで毎日を生きているだけ。わたしには合わないわ」
「まってハーネス、それは俺達の思い込みさ。ロイだって死ぬのは怖かったはず。しかし俺達の気持ちを信じていたからだよ。それはモーリスもシュナジーも同じさ。人間は信じる事が出来ないと何もかもが怖くなる。ハーネスはそれから逃げようとしているのだよ。そこがアルムの持った性格そのものさ。俺はその気持ちが分かる。だからハーネスの手を絶対に離さない」
「マッキー……」
「よし、このまま上がるぞ!」
しかし汗ばんだマッキーの手からハーネスが離れてしまった。慌てたマッキーも同時に手を放し二人とも落下した。
「ハーネス!」
二人の体は宙を舞い、マナ村の上空から落下して行く。モーリスやユウが開口部から慌てて下をのぞいた。その時、何かの飛行物体が真下を通過し、マッキーとハーネスはその物体の上に着地した。
モーリスは目を疑った。
「ラウルの飛行船だな? どうしてここに。ラウルはここにいるが」
飛行船はシュナジーが操縦していた。上で飛行船を待機させていたが、島が不安定になり住民を急いで乗せ、離陸せざるをえなかった。
「私の飛行船が何故飛んでいる?」
「ラウル殿、理由は後にして、とにかく飛行船に同乗しましょう」
「私はアルムの人間だったのだよ、今まで何だったのだ。逃げたきゃお前達でにげろ」
「ラウル殿……」
ラウルの子分どもも黙り込んでしまった。
飛行船の操縦席からシュナジーが顔を出した。
「間に合ったなマッキー」
「シュナジー、飛行船の操縦うまいじゃん」
「ラウルの飛行船だよ、操作方法が丁寧に書いてあるし、電気機器を使わない単純な機体だったよ」
マッキーとハーネスは飛行船の気球部分に着地していた。
「やったねハーネス」
「奇跡だわね、しかしまだモーリスや他の住民が島に残ったままだわ」
「そうだよね、皆この飛行船に避難させなくては。シュナジー、少し上昇できるか?」
「おう、任せとけ。二人とも落ちないように捕まっていてくれよな」
シュナジーは飛行船の高度を上げて島へ近づけて、モーリスのもとへ行く。
「お父さん、そこから飛び降りて! この高さなら大丈夫よ」
「ハーネス、早く行くのだ! この島は間もなく墜落する」
「まだ皆乗っていないわ。それまではここから動けない」
「ハーネス、よく聞いてくれ。私が地上へ戻ったとしても誰も喜ばないし、もう何もする事は残っていない。それに怪我をしていて足手まといだ。しかしハーネスは必ず地上へ帰らなければならない。そしてマッキーやシュナジーはこの島で見た科学の結晶である発明品を、世に広めてくれるか。これが私の希望であり願いだ。そして君達の使命なのだ」
「その通りだよ君達、私達はここで生きた。だからここで死ぬよ」
「ユウ、だけど地上で生きる道もあるのではないですか?」
「だが私達はもう疲れた。ここはベリッタが眠っている。私達はここベリッタのいる地で死ぬよ。さっきモーリスと話をした、モーリスも同じ考えだ」
「そうだよ、ハーネス急いで。島が落ちる。時間がない。私達が乗り込み、重量で飛行船が落ちては困る」
「駄目よ、お父さん、生きて帰るの」
島が急に不安定になり、傾きだした。
「駄目だ、マッキー。島が墜落する。このまま退避するぞ」
「まって、シュナジー!」
「もう無理だ、ここに乗っている者達も皆死んでしまうぜ」
「お父さん!」
飛行船は全速力前進で島の底から抜け出した。
ついに山は墜落し、大きな地震とともに砂とチリのまじった煙がその世界を囲み、太陽の光を遮った。山頂の酸の水と島の水が中和し、渇いたマナ村へ流れ込んだ。
地上の人達は、また以前の山の噴火で地震がおきていると思った。
マナ村の人々はまた慌てたが、水路が戻った事を知ると、山の噴火に感謝した。
「ロイや皆に感謝しなきゃね、これで地上へ帰れる」
「ラウルはあれでいいのか」
「あれもラウルの運命だろう」
マッキー達は地上へ無事戻った。
クラウディアには今度本当にモーリスが亡くなった事を知らされた。彼女はあまり驚く事なくつぶやいた。
「モーリス、あの人はあの人なりにハーネスの事を考えていた。あの人は結局いつも一人で誰からも理解されず孤独だったわ」
シュナジーはウォータモルンに帰り、マッキーは水の不自由がなくなったマナ村へ帰って行った。シュナジーが額に入れて作ったレースの優勝写真を持って。
クラウスの記憶 itou @willltou64
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