第15話 アルムのマッキーとハーネス

 マッキー達は見つからないように階段を駆け上がる。その時色んな部屋があったのを見た。人が集まる中央場、その周りには沢山の小部屋が並んでいた、しかし今は全て使われていないようだ。

二人は外に出た。

「すごいなー、空が青く、島の緑がとても奇麗だ。あの老人達はこの空の下で働いていたんだ。誰もこの地下で問題が起こっているとは思えないほど上は平和だ」

「ハーネス行こう。少し歩いてみようよ」

 マッキーは地上で見た事のない植物が気になって、そばに生えていたもの摘み取った。

「なあにそれ、見た事のない草だわね」

「うん、なんだろうねこの草」

島から吹き降ろす風が二人をすり抜けていった。

「マッキー見てよ、あそこ」

「あった! ここ、おじいさんが来た所か」

 壮大な敷地を整地して作られた畑が見えた。

「なんて広いんだ。それに沢山の人が働いている。とてものどかだ」

「ここの世界は夢のようね、心が穏やかになる。こんな不思議な気持ちになるなんて、わたしはアルムの人間だからかな」

「いや、俺達だけでなく、誰が見ても同じような気持ちになるはずだよ」

 マッキーとハーネスは、シュナジー達が気になった。

「今頃シュナジー達は捕まっているよね」

「様子を見て助けに戻るしかないよ」

「ロイもわたし達と同じアルムの人間なのね」

「ここに住む人は全てその人間なんだよ。ランドロスが来るまでは平和に暮らしていた、それもベリッタに準じて」

「本来アルムの人間って何? 自分でもよく分からない。普通の人間と違うの?」

「同じだよ、俺も今まで気づかなかった。でもよく考えてみると幼い頃、周りの環境についていけなかったり、自分でも時々誰なのかわからなくなったり、生きる事がどうでもよくなったりしていた事がしばしばあったよ」

「アルムの人間はそういう境遇に生まれるのね。だけど逆境では思わぬ力を発揮する事もあると聞いた事があったわ」

「アルムにはそんな一面もあるんだ。だけど俺らが精神的にも弱いのは本質で仕方がないものだよ」

「そうかな? わたしはそうは思わないわ。小さい頃から何も思わなかったし」

「ハーネスは強いな、アルムの人間と言っても色んなタイプがあるのかもね」

「ロイもこの島から逃げられないでいるのならわたし達が助けてあげるしかないわ」

「そうだよね、他にもこの島の人々を脱出させよう。俺達だけでは逃げられない問題だ」

 ハーネスの言葉にうなずいて応えた後、マッキーは自身の顎に手をやって首を傾げた。

「しかしどうやって地上へ戻るのか? クラウスは四人しか乗れないし、何度も往復する時間もない」

「そしたら飛び降りるしかないわね」

「ここから落ちるとさすがに死ぬよ」

 マッキーとハーネスは話しながら先へと進んだ。

「ハーネス、あそこを見て! ラウルの奴らだ、いつの間に上陸できたのだろう」

島の中心部に侵入して行くラウル組織の姿を目撃した。

「唯一島に入れるクラウスは中央に置いたままなのにどうやって……、もしかするとこの島に上陸できるものを造ったのかもしれないね」

「ランドロスから逃げて、ラウル組織を避けて、どうやら敵は一人ではないみたいだわね、ラウルとランドロスの企みは同じかもしれないわ」

「見つかるとまずい、一度上へ出よう」

「ランドロスもまだラウル達の侵入には気づいていないのかもしれないわね」

「ハーネス見てよ、あれだ、ラウル達はあの飛行船でこの島へ上陸できたんだ」

 二人は今にも島から離れ落ちそうになっている飛行船を見た。

「そうだわ! ラウル達がこれだけの子分を乗せて飛行してきた。ならば島の人々をあれに乗せて地上へ帰る事ができるわね」

「そうか! やったなハーネス。いけるかもしれない、やってみよう」

「まって、こっちも来たわ」

その時後ろから近づくものがあった。

「景色を楽しめるのはここまでだ。今から地下に連れて行く、観念しろ」

 二人はランドロスの手下につかまった。



「ランドロス様、小僧どもを捕獲しました。残りは地下へ隠れている模様です」 

「そうか、よく探すのだ、ベースが完成するまで間もなくだ、邪魔はさせない」

「はいわかりました」

 地下ではモーリスやユウがランドロスを阻止する為の作戦会議が始まっていた。

「私達が反逆している事に気づかれないように近づいて行く。ただ、島の者は大半がランドロスの仲間となっていて、それらの者達が多ければ多いほど難しくなる、モーリスはその者達をできるだけ阻止するように協力して頂きたい」

「ランドロスはどうするのだ?」

「計画を止めるように説得する」

「あのランドロスが計画を止める訳がない、殺すしかないよ」

「情けないが私達は、自ら人の命を奪う事をしない。その昔この島ではお互いを傷つけあう事をしないように決めたのだよ」

「しかし今回のような事とはまた違うのではないのか」

「その通りだ。今までそれができなかったのが、ランドロスがいいようにしていた原因だよ、私達も悪いのだ」

「だが今私達はランドロスに立ち向かおうとしている。一度は命を狙われた。あとは私に任せておけば最後はこの手で始末するよ」

「わかった、その時は頼む」

「ただ一つだけ聞くが、ベリッタが作った記憶を消す飲料の成分とはなんだか分かるか?」

「もとはこの島に存在する植物。それに記憶を消す効果があるのだよ」

「記憶を消す植物?」

「イージーという物でこの島にしか咲いておらず、口に入ると一定期間の記憶がなくなってしまう。ベリッタがいた時代島から地上へ戻る時に口にしていたものだ」

「すまないが私はその植物を採取しに行く。作戦はそのまま遂行していてくれ、またランドロスの所で合流しよう」

「あーあ、またいなくなった。なんだよ」

「君、あの男は科学者なのか?」

「ああそうだよ、クラウスを研究しつづけてきたみたいだけど」

「ベリッタと随分違うな」

「たぶん、クラウディアがここにいると、あの人はそういう人なのです、って言うな」

「科学者は変わり者が多いのか? とにかく、ロイもシュナジー君もランドロスの所へ急ごう。時間は残されていない」

ユウとその仲間は上へ行く。

「なあロイ、この問題が解決した後はどうするのか?」

「シュナジー、僕達はこの後も今のままだよ。先の事は何も考えていない。今はマッキー達を助ける事だけさ」

「おおう、そうだな、急ぐか」

 シュナジーとロイ、ユウと仲間は階段の通路を一気に駆け上がるとランドロスのいる層に到達した。

「よし皆、扉を開けたら一気に走るぞ、いいか」

「ユウ様、皆覚悟はできています」

扉を開き、明るい所へ出ると手下達が沢山いた。

「あっ! 侵入者だ、とっ捕まえてランドロス様の所へ連れていけ」

「構うな、倒して突っ切れ、ランドロスの所まで行くのだ」

 その時、手下の一人がユウが向かって来る事に気づいた。

「お前はもしかしてユウではないか、なにをやっているのだ」

「見れば分かるだろ、反逆しにやってきた。これからランドロスを黙らせるのだ」

「ユウ、何を血迷ったのか。遂に頭がおかしくなってしまったか」

「お前達こそ、その洗脳された脳を覚ますのだ」

シュナジー達は手下らを振り払い、倒してランドロスの所までたどり着いた。

 奥からランドロスの声が聞こえた。

「何をゴタゴタやっている、騒がしいぞ」

「ランドロス様、ユウが地下から侵入者を引き連れてやってきました」

「ユウ!」

 ユウの目の前にはランドロスの姿があった。

「お前が以前から何かを企んでいた事はわかっていた。私はお前を止めにきた」

「ハハハッ、どうやって止めるのだ、俺の命を奪うのか? 奪ってみろ」

「シュナジー、ランドロスの後ろを見て! マッキーとハーネスが立っている」

 ランドロスの後ろの両脇にはマッキーとハーネスの姿があった。

 二人は立ったまま瞬きもせず、ただ前を見ているだけ。白い服装に身を包んでいて、ロイやシュナジーに目もくれない。

「マッキー! 今から助けにいくから待っていろ」

「ハハハッ、何を言っても聞こえないよ」

「ランドロスのやつ、あのドリンクを飲ませやがったな」

「こいつらは暴れて、ピーチを飲ませるのに苦労したよ。ようやく私の召使いとなった」

「くそー、またやられたか」

 マッキーはシュナジーの方へ顔を向けるが無表情のままだった。

「マッキー! マッキー! 正気に戻れ! くそー、聞こえていないぜ、一からまたやり直しか」

 ランドロスが指示を出す。

「ユウ達を捕らえろ、こいつらもドリンクの餌食だ」

 モーリスがランドロスの方へ向かった。

「まて、その者から離れろ、私が行く」

「貴様は、確か!」

「覚えているだろう、お前が狙った男だからな」

「モーリスだな、よく来たな。お前までここに来るとは。いつかは島を嗅ぎつけてくると思っていたが」

「ここの施設はなんだ、何をする為だ」

「素晴らしいだろ、我々の財産だよ」

「ここにある物は大発明の物ばかりだが皆ベリッタが発明したものだろ、お前が作れるはずがない。それに地下の大石英は既に拝見させてもらったよ」

「あそこに行ったのか、見られてしまっては仕方がない。あの大石英は素晴らしい頭脳だ、そしてグランドベースは最強だよ。水で動く車を研究している場合ではないぞ。どうだ、ここでお前も私とやらないか? 協力するとお前にここの秘密を全て公表する、大切な資料だが、こちらとしてもお前が仲間に入ると心強い。以前にお前の命を狙ったのは謝るよ、悪気はなかった」

「……」

 モーリスは肯定も否定もしなかった。

「案外素直だな」

「ランドロス、では聞くが、あの時どうしてクラウスと私の命を狙った? クラウスを取り戻す為か?」

「あの時は命じられたのだよ、石油団体の者達に」

「やはりそういう事か?」

「私は石油を扱う者達と一丸となっていたと思っていた。ある時石油を使わない車が発見された噂を聞くと石油業界は大騒動になった。私は気づいた。クロースモービルが、何処かで発見されたのだと。その時に作られたプロジェクトに私は自ら志願した」

「水を動力エネルギーとした機械が発明される事による、石油産業衰退の恐れを避ける為だったか?」

「表面のプロジェクトはそういった理由だった。しかし命じられた役目はモーリスの虐殺でクロースモービルは直接関係なかった」

「クラウスは関係ないのか? 私は水で動く車を開発できていない。それからも水で走る車は開発できなかった」

「その時からわかっていたよ、クロースモービルは水だけでは走らない事は」

「どういう事だ? 何故命を狙うのだ」

「それについては水で動く発明がたとえあったとしても関係なかったのだよ。私も騙されていたのだ。結果的にはめられたのだよ、モーリスを殺すように」

「はめられた? 誰にだ」

「グリース研究所時代、チームの中にお前の才能を妬む者がいたはずだ」

 モーリスは当時の事を思い出した。

「ガリーか? 物理学者の」

「確かそんな名前だった。彼はお前に開発成績を抜かれて、好きな女までも取られたそうだ」

「クラウディアを! 知らなかった」

「彼は人脈を使い、石油連盟を動かし、正体を明かさずにお前の命を奪う事が目標だった」

「だが辞めた」

「私が死んだと思ったからだろ」

「当人はお前が死んだと思っている。だが死亡を偽装した事を私はわかっていた」

「それを知っていたか、だが殺しに来なかった」

「石油団体の連中らも、研究者らのたわごとに付き合いきれなくなってやめた」

「だが既にグランドベースを知っていたお前が、クラウスをそのままには出来なかったはずだ」

「勿論、クロースモービルのある場所は抑えていた。その時私は島へ戻る気はなかったが何年か後に島の噂が耳に入ってきた。それは油田を所有する金持ち同士の単なる夢話で、島は世界中のエネルギーに匹敵する程のパワーをため込む事ができるという話だ。島のエネルギをーを自分達の物に出来ると、世の中のエネルギーを石油よりもそれに変え、儲けようとする事。その話はあの時私がたどり着いた島だと確信した。ベリッタが山手の方に島を移動させるように計画したのはその為だったと気づいた。そして再び島へ上陸する事を決意したのだ」

「やはりクラウスが必要になるのではないか。だがクラウスは私が倉庫に保管していた。少年が見つける前までは」

「私はモーリスの居所も初めからわかっていたよ。クロースモービルは少し借りたのだ。それに石英も島から逃げる時に私が持っていた」

「倉庫から持ち出した? いつの間に」

「人聞きが悪いな。きちんと断りを入れたよ、ポール君に!」

「天文学者のポール、知っていたのか?」

「彼は金を見せるとすぐに協力してくれた。物わかりのいいやつだ」

「ポールのやつ、最近ははぶりがよく、ビルを建て替えると言っていたが、そういう事だったのか。しかしクラウスと石英が揃ったとしてもそれだけでは島へ上陸できまい」

「分からないのか、彼もアルムの人間なのだよ」

「ポールもアルムの人間? ポールを利用したのか、私には何も言わなかった」

「当たり前だ、グランドベースの存在は秘密だ。私だけが知っていればいい。クロースモービルを持ち出し、そのまま帰らせた。ポールには記憶を消してもらったよ」

「そういえば以前ポールが、車のシートをはぐったかいと聞いていた。私は何もしていないのにと思っていたから、そんなに気にもしなかったししクラウディアが来たのかと思っていたよ。まさかお前が仕組んでいたとは。思い出したぞ、倉庫の近くに落ちていた紋章の入ったピン、あれは紋章ではなく石油を扱う事業者のマーク。お前が落としたものだったのか」

「ああ、何処に行ったのかと思ったよ。もう必要ないが、それにあのクロースモービルが今も動いているとは思ってもいなかった」

「クラウスは水があれば何処までも走る」

「だが、クロースモービルに搭載された燃料石は寿命がある」

「燃料石か、下で見たものだな。エネルギーを使い切るとそれで終わりと言う事だな」

「もう地上に戻るエネルギーは残っていないだろ」

「そうなると、お前も地上へは二度と戻れなくなるはずだ」

「クロースモービルはもう必要ない」

「一生ここで暮らすつもりか?」

「ハハハハ! グランドベースが今の位置に永遠に留まったままだと思っているのか?」

「この島を動かすのか?」

「私はもうお前の相手をしている場合じゃないのだ。今度はこの世界で最も大きなプロジェクトを遂行しているのだ」

「一体何をしたい」

「今はそのプロセスの途中だ、従えばお前も助けよう」

 モーリスはランドロスには全く協力するつもりはないが、ここにあるベリッタの発明品もまた大切なものだった。

 そして目が虚ろなハーネスを見た。

「ここは従うべきなのか……」

モーリスはその場から動く事ができない。

 その時ユウが皆に戦いの号令を掛けた。

「皆行くのだ、命をかけても島を守るのだ、恐れ戦くな!」

ロイもシュナジーも一斉に敵に向かった。ユウ達は敵を倒していこうとするが、あまりの多さに攻められ囲まれた。シュナジー達も初めの勢いがなくなってくると、押され気味になって、遂には捕らえられた。

 ユウや仲間達は捕られた。モーリスとシュナジーは催眠状態のマッキーが確保した。

その時、シュナジーの耳に何か聞こえた。

「シュナジー、シュナジー、俺は正気だ。二人ともそのまま何も聞こえないふりをして歩き続けて」

「マッキー」

マッキーがシュナジーに話しかけた。

「シュナジーよく聞いて、島の上にはラウルが飛行船で上陸した」

「ラウルが来ているのか?」

「ラウルはどうでもいいんだ。その飛行船に島の皆を乗せて脱出する。おそらく今は機内に誰もいないよ」

「そうか、いい考えだな。しかし飛行船に誰もいないって、操縦は?」

「シュナジーしかいないじゃん。隙を見て、先に行ってて」

「俺が? 出来るかな、飛行船なんて操縦した事ない」

「誰だってそうだよ、大丈夫、シュナジーなら出来るよ」

「わかったよやってみる、それはそうと、どうやってドリンクは飲んだふりをしたのか?」

「俺はドリンクは飲んだよ。だけど効いていない。今は効いたふりをしているだけだよ……」

「飲んだのに効かないのか?」

「上に咲いているイージーと言う忘れ草、あれは少しずつ口に含んでいくと体に抗体ができる。俺は一度ピーチも飲まされたし、体が慣れてしまった」

「君はイージーの植物の効果がわかっていたのか?」

「毒を持って毒を制す、少し違うかな」

「なるほど」

「しかしハーネスが! ハーネスは完全に薬が効いたままです」

「それではこれをハーネスに飲ませられるか? イージーを使ってさっき特効薬を作ったばかりだ」

 イージーの植物を疑問に思ったモーリスもベリッタの墓辺りを訪れて、周りに咲いたイージーをみて、口にしていた。

 モーリスは小瓶に入った薬をマッキーに渡した。

「おい、そこ、何をやっている! 怪しいぞ」

 モーリスはマッキーを突き放した。

「ハーネスを頼む……」

「モーリ……」

 マッキーは全力でハーネスの所まで走った。

「小僧、待て!」

モーリスはランドロスの気を引くように囮になって逃げた。

「子供は放っておけ。モーリスを逃がすな。協力しないのなら仕方がない」

 マッキーはその隙にをみて、ハーネスに特効薬を飲ませた。

 ランドロスは逃げるモーリスの腹めがけて銃を放った。その弾はモーリスの体を貫通した。

「お前! 結局は!」

 モーリスのわき腹から血液が流出している。

「お父さん!」

「ハーネス! 無事戻ったか、早く逃げるのだよ」

「やるな、それでは皆まとめて殺すしかないな」

 ランドロスはモーリスに駆け寄るハーネスに発砲。弾はハーネスの耳下をかすった。

「やめろ、もうやめてくれ!」

 マッキーがハーネスのもとへ行き、前へ立ちはだかった。だがためらいもなく銃ははなたれた。

「マッキー、やめて!」

「イタッ!」

 マッキーはおなかを押さえようとしたが、出血していない。しかし目の前にロイの姿があった、ロイはマッキーの前でそのまま倒れ込んだ。

「バカなやつだ、言った事だけをやっていればよかったものを」

「なんて事を! ロイ! 大丈夫か!」

「いいんだマッキー、これが僕の本望なのだ」

「ロイ! 俺が悪かったよ、はじめからこの島に来なければよかったんだ」

「それは関係ないよ、遅かれ早かれ僕らはこうなる運命だったよ」

「でも、皆でこの島から逃げるんだ。死ぬんじゃない」

「僕らは逃げないよ、このままさ?」

「えっ、自由になりたいだろ?」

「僕らは地上でも自由になれなかった部類なんだよ。今までこの島を逃げ出そうと思えばいつでもできた。でも僕らは自分の意志でここにいるのさ」

「どうしてだよ、地上に降りて俺達と一緒に暮らそうよ」

「マッキーありがとう、その気持ちは嬉しいよ。しかし地上に住んでいるときの事は、何をしてもうまくいかなかった。ここではたとえランドロスの手下となって動いていても、僕らにとってはその方が心地よかったし。わかりあえる仲間がそばにいるからね」

「俺もそのタイプの人間なんだね」

「マッキーは違うさ。友だちもいるし、仲間とも通じあえる。マッキーなら大丈夫さ」

「俺はとても複雑な気持ちだよ」

「僕達の事は大丈夫だ、いいものだな、人の役に立てるって」

 ロイはゆっくり目を閉じた。

「ロイ!」

「いいざまだ!」

「ランドロス、お前なんて事を!」

「君は一体誰なのだ。アルムの人間と言う事は分かるが、二度もこの地へ上がってきた」

「俺はマナ村から来た。何者でもない普通の人間だ」

「マナ村か。島のせいで村の水が枯れたらしいが、我々のプロジェクトに水は必要なものだ、村は荒れ果てたかもしれないが仕方がない、我々の計画には関係ない」

モーリスはあれだけあった上の水を思い出した。

「なるほど、マナ村の水不足はグランドベースが原因だった。溢れるようにあった水が一つの穴に吸い込まれて行くのは、開発や燃料石製造の時に発熱する物を冷やす為に必要だったと言う事か」

 マッキーは憎むようにランドロスの目を見返していた。

「マナ村の水不足はこの島のせいだったとは、思いもしなかった」

「もっとも、こうなる事態を恐れてベリッタは島の移動を躊躇していたのだろうが、私が実行してあげたのだよ。まあ気にするな、皆生きているだろ、お前も」

「ふざけるな、お前のせいで、皆がどれだけ苦労しているのか分かるか。水路をもどせ」

「皆苦労しているのか。よし、見ておけ、今に楽にしてやる」

 ランドロスは手下のものに手で合図すると、床の一部が開口した。下には枯れた草木や乾燥した地面が見える。ここの位置はマナ村の上空だ。手下の者は燃料石に火を点けると勢いよく燃え上がった。ランドロスは手を振り下ろすとそこから火のついた燃料石をおとした。

「大変だ、なんていう事を! マナ村が火事になる」

「水不足なら乾燥しているだろうから良く燃えるさ」

「まずい、先にはボスの工場がある」

「マッキー、他の村の人達も危ないわ、すぐに伝えないと」

「煙で気づいてくれないかな、村は皆出ていって、あまり人が残っていないからかろうじて逃げ切るだろう。あっ、しまった、村には親父が残っている! 親父は飲んだくれて煙にも気づくはずがない」

「マッキーのお父さんなの! 近くに誰かいないの? 工場のおじさんとか?」

「だれも親父の事は知らないし一人だ」

「火を消しに来ないの? 消防とかは?」

「マナ村の森は険しくて、消防は入れない。それに水も無いよ」

「あきらめるんだ少年。燃料石の火は強力ですぐに火がまわる。さっそく逃げないと皆焼け死ぬだろう。お前もここから飛び降りて知らせに行くか。それも君の運命だ。言っただろ、グランドベースは最強だと」

「これが最強だと、ふざけるな、こんな事をして何になる」

「何もならないさ、単なる遊びだ。始めるのはまだだ。いずれこの島は大石英によってエネルギーを蓄え、やがて島は本来の場所へ帰るのだよ。そこの位置する場所は、地中と反応して海底にエネルギーを受け止める所が存在する。その増幅したエネルギーは世界を海のそこへやる事もできるのだ。やがてグランドベースは永遠不滅の島となる。誰もたてつく事ができずに、皆を従えさせ、私はそこで神となる」

 床に倒れたモーリスは体をひねらせて血まみれになった無線式信号機を出すとボタンを押し、クラウディアにシグナルを送った。

「マッキー、そこから落ちないようにしっかり捕まっているのだ。今から衝撃が走る」

地上では信号を待っていたかのようにクラウディアが待機していた。

「遂にこの時が来たのね、使わないと言っておいたのに。幸運を祈るしかないわ」

クラウディアは用意された起爆スイッチをしっかり押した。すると上空の島を留まらせている為の地上に埋め込まれた三つの黒い石が爆薬で吹き飛んだ。マナ村とウォータモルンの間にある水くみ場の物や、チェが収穫しに行っていた所も皆吹き飛んだ。

 島はゆっくり傾き始めた。

「モーリス、お前何をした」

「ありがとう、クラウディア。これで昔お前が気にしていたマナ村を助ける事になったよ」

モーリス以外は何が起きているのか事態を呑み込めない。島は更に傾いていき、島に蓄えられた水がマナ村上空に流れ落ちた、マナ村の山側に到達する頃に水は雨のように降りそそいだ。マナ村の人々は久しぶりに降る大雨に喜んでいた。水の流れでマナ村の火も消し止められた。

「まずい、かなり島が傾いてきているよ」

「マッキー、今回ばかりは逃げないとまずいわ」

「しかしモーリスが」

「私は撃たれている、足手まといになるから行ってくれ」

「動くな、お前達をただでは帰さない」

 島が斜めになりながらでもランドロスは捕まりながら指示を出した。

「仕方がない、この島を発動させる。急げ、墜落させるな。今までの努力が水の泡になるまえに」

「はっ、早速開始します」

 島の建物は発光して、古びた建物は三角形の角が尖ったような形に変わった。

「これはこれでまずいよ、このまま墜落させたほうがましだったよ」

 島はたてなおっていき、標高を少しずつ上げていった。

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