第14話 神なる存在

 逃げ切った三人は記憶の戻ったマッキーからグランドベースの謎を聞いた。

「ハーネス、シュナジー、実はここに住む人々は皆操られているよ」

「操られている? それじゃさっきの男が犯人か」

「いや、ランドロスの上に、神なる者が存在するらしいんだ」

「神なる存在? 何者かが他にもいるのか? 恐ろしいぜ」

「俺はその正体を見ようとして捕まった」

「じゃ、その神なる者は見てないのか?」

「見てない」

「皆を操っている神なる者の存在って気になるよな、行ってみるか。そこに行けば島の謎が解けるんだろ?」

「それはとても危険だよ、周りには護衛も沢山いるし」

「しかし、ランドロスの謎もきになるし、マッキーも同じ考えで神の所へ行ったのだろ?」

「そうだよね。でも今度は慎重にいかないと、また同じ目に遭うからね。その前に見せておきたいものがあるんだ。こっちだよ、ついてきて」

三人はずっと下の地下へ下った。

「なあマッキー俺達が今捕まるとどうなる? 何処かの檻につれていかれるのか?」

「たぶんね、そして働かされる」

「歯向かうとどうなるのか?」

「あのドリンクを飲ませられるよ」

「マッキーは飲まされたのだろ?」

「無理矢理飲まされ、すぐに吐き出したが、少し喉を通ってしまった、それでも効果は強力だった」

「それでマッキーは記憶がなくなったって事か」

「そこをロイが助けてくれたんだよ」

「ロイってやつはいい人だな」

「そうだよ、ロイはいいやつだよ。幼い時の俺の境遇と似ているし、俺が奥底に閉じ込めて忘れていたものや感覚を思い出した。今まで会った人間であんなに俺と似ている人は初めてだった。しかし昔の事を思い出すと気分は落ち込んでいき、何もやりたくなく、この先どうでもよくなってきた。本当の俺はもとからそんな性格だよ、でもロイに俺は地上へ帰るように説得された。そのあとランドロスに見つかった俺は薬を飲まされるが、意識が残っている間に、乗ってきたクラウスを持ってきてくれて、俺を乗せ地上に突き戻したんだよ」

「それでマッキーの家まで帰れたって事?」

「それからのでき事はあまり覚えていないんだ。ウォータモルンに着地したのかもしれない」

「クラウスはマッキーの自宅倉庫にあったよ」

「車だけ自動でマッキーの家まで走ったって事? 石英が元の来た道などを記憶しているとロイが言ってたけど」

「モーリスに石英の効果を聞いておけばよかったぜ。知らないなら伝えておきたいけどな」

「モーリスは今何処にいるの?」

「ここに向かっているはず。しかしここは危険だ。来なければいいけど」

「でもロイも大丈夫かな。気になるけど」

「ロイもピーチを飲まされているのか?」

「ロイは飲まないよ。だけどここから出られない」

「やっぱりここの人々は監視されているのか、わざわざそんな事をしてまでも秘密を守る必要があるのか?」

「ランドロスは何かを隠しているに違いないよ」

 地下空間へ入って行くと沢山の人が見えた。

「なんだここは、こんな多くの人がいたとはな。皆働かせられているのか?」

「そうさ、ここが第二プラントだ。ロイと同じでランドロスのしたで働いている」

 ここでも沢山の人達がいた。端には液体の入った透明の筒がずらりと並べられており、その中の物質からは気泡が出ている。

「あれから出ているガスは有毒物質だ、気をつけて! そして残った汚染液体は外へ廃棄されるよ。グリーンの色をしている」

「シュナジー、上の池だわね!」

「あれは汚染水だったのか?」

 中央には大きな水槽があり、それからも泡が出ている。水中に何かの石が沈んでいた。

  ここで働いている者が時計を見ながら石の状態を観察している。

「なんなんだこの機械類は? 皆何をしているのか?」

「燃料石の製造だよ。エネルギーを凝縮して閉じこめ、あの石の塊にしている。第一プラントは表向きの研究所だよ、島本来の生産工場を構築させているここに、島の謎を解く鍵があると思うよ」

 その時マッキーは思った、この燃料石でクラウスが動いていたのだと。

「そうかシュナジー、クラウスが水だけで走る事が出来るのは、エンジンの中にこの燃料石が組み込まれているからだよ」

「クラウスが今まで動いていたのはこの燃料石のおかげなのか?」

「そうだったんだよ、水を入れるとその燃料石に反応してエネルギーとなる」

「そうか、ランドロスはすごい事やってんだな」

 そしてついに三人は地下層へたどり着いた。

「ここは上の層と違って真っ暗だな。それにとても広い空間だぜ」

この広い空間にいくつもの黒い箱のような物体がおびただしく広がる。。上の層に比べると気温が高い。

「ここの層は主にエネルギーを貯める燃料貯蔵庫だよ。島に受ける太陽エネルギーをここにためる」

「それは何の為にか?」

「俺にもそれは分からないよ」

 マッキー、シュナジー、それとハーネスは人を避け隅に隠れながら進む。先の角を曲がると神なる部屋の所までたどり着いた。

「シュナジー、この先だ。あの部屋に神なる者が存在するはずだよ」

「本当か? 神様なら俺達はここまで来ている事を見透かされているのではないか?」

「それならここでまた捕まるか、既に捕まっているかだよ」

角を曲がると神の部屋の扉が見えた。派手な赤色な扉は頑丈そうに造られている。

「前に護衛が二人も立っているよ、これは無理だな」

「ここから見えないけどもう二人手前側にいるんだ。俺はそれに気づかなくて捕まった」

「なら、護衛は四人か。それだけだよな?」

「たぶんそうだよ、だけど他にもいるかもしれない」

「おい!」

マッキーとシュナジーは急に誰かに手を引っ張りあげられた。

「まずい、捕まったってしまったよ!」

「いや違うよ、僕だよロイだ。ここで何をしているのか。上では僕達と同じ連中がマッキー達の居所を嗅ぎまわっているよ、早く逃げないと」

「ロイだったの、俺達はどうしても神なる者をこの目で見たくてね。神の者とは一体何者? 人間なの?」

「神の存在か……、実はランドロスが言っている神とは人ではないよ」

「人ではない? どういう事?」

「マッキーが見たいと言うなら仕方がないな。自分の目で確かめるといいよ」

 ロイは神の存在する部屋の反対方向へ回った。

「ロイは何をする気だろう?」

裏へまわったロイは大声で叫んだ。

「いたぞー! ここに侵入者がいた、今出口の方へ回ったぞー」

「なんだと?捕まえるのだ、急げ!」

 門の護衛は慌てて声のする方へ走っていった。そのタイミングで反対方向へ石を投げ込み、護衛の四人は皆音のする方へ走っていった。

「よし、マッキー、それと皆、準備はできた。だけどデマに気づいてすぐ戻って来るよ。あまり時間がない、急ごう」

「ロイ、ありがとう」

急いで大きな赤い扉の所へ行き、重たい扉を開き始めた。

「一体何だろう、あれは?」

「あれが神様の姿なのか? とても神には見えないけどな」

「すごいわね、あんな石は何処探してもないものだわ、これは石英と同じね」

 三人が目にしたものは人の姿でもなく、顔があるわけでもない。巨大な石英が一つ供えられているだけだった。しかしその丸い形状の石英は電気を帯びているように、周りに稲光を散らしていた。

「マッキー、これがグランドベースの神の姿だよ。ランドロスはこの球体を大石英と呼んでいる。今までこの石をもとに計算通り島を動かしてきた。なんでもこの大石英が示すようにやっていけば間違いないと言う事だよ」

「これがどうやってランドロスに指示を出しているの?」

「マッキー、これに手をかざしてみてよ。大丈夫、死にはしない」

 マッキーはその大石英の球体に手をかざした。すると表面に文字のようなものが浮き出てきて回転したり消えたりする。それはいくつも出ては消える。マッキーには読めない文字だった。

「シュナジー、この文字はあの石と」

「おう、この文字は地上で見た黒い角石に刻まれていたものと同じだな」

「これはグランド言語だよ。この島で作られた。島の数人しか読めないが当然ランドロスはこれを読めるけどね」

「それじゃランドロスはこの大石英を神とあがめて、石が導くままに動いていると言う事?」

「そう、だからこの大石英がなくなると彼は困るはずだよ」

「ロイはこの文字読めるの?」

「僕は正確には読めるわけではないけど、今出た文字を読むと、目標まであと十パーセントみたいな事をいっているよ。何の事か分からないけどね」

「やっぱりランドロスは何かを企んでいるんだね……」

 急に入り口の扉が開くと、さっきの護衛が戻ってきていた。

「お前ら、ここにいたのか。もう逃げられないぞ」

「しまった。マッキー、もう時間切れだよ」

 護衛が迫ってきた。その時他の護衛達が倒れて行く。

「どうした?」

「仲間がもう一人後ろにいました! うっ!」

 四人の護衛を倒したのはモーリスだった。

「君達ここにいたか。この島は何か変だと思っていたが、そういう事だったとは」

マッキー達の会話を全て聞いていた

「お父さん、よくここがわかったわね」

「ここに来たのは勘だよ、マッキーは正気に戻ったのだね」

「はい、僕はピーチと言う飲み物を飲まされて記憶を閉ざされていました」

「飲み物が記憶を消していただと? そんなものが存在するなんて信じられない。誰に飲まされた?」

「ランドロスと言うやつです、島はランドロスが支配しています」

「ランドロス! ここにいるのか」

「知っているのですか?」

「かつては石油団体の頭で、クラウスや水で走る車の研究を阻止する為に一度は俺の命を狙った者。忘れるはずがない」

「石油団体? それが何故ここに?」

「ランドロスの野望は計りしれないものだよ。ここに来た理由は分からないが、やはり何かを起こそうとしている事は間違いないな、ここまで来たからにはそれを調べる必要がある」

「ますますこの石が何を示しているのか、解く必要があるぜ」

「ねえロイ、この大石英はもともとここに存在していたの?」

「いや、これは違うよ、この神も人の手で創り出したものだよ」

 非科学的な言葉の発想にモーリスが反応した。

「人が創っただと? これは誰が創ったのだ?」

「本人はもうここにはいません。ベリッタと言う人です」

「上に墓があった、やはりベリッタが創り出した物だったか?」

「墓を見たのですね、この物体はベリッタが死ぬ前に創ったのです」

「どうしてなのだ。こんなものを創る必要があったのか?」

「この石英を創った目的は、自分が島からいなくなった後に残された人間が路頭に迷わないようにする事だ。自分の分身をこの大石英に投影させ、この石が皆を未来へ導くように記録させたのです。ベリッタは自分の死の時期を予測していた。予測通り何年か後にベリッタは死亡しました」

「そもそもベリッタは何故この地に来たのだ?」

「今から六十年ほど前に無人のこの島に初めて上陸したのがベリッタと聞いています」

「研究熱心で才能もあったベリッタは、周囲のわずかな音も気になってしまうほど敏感な人達で地上の環境では人の邪魔が入ったりし、気が散り精神的に落ち着かず研究に専念できなかった、ベリッタはそういう性質を抱えていました。そこで誰もいないこの地を選び、たった一人で住んで研究を続けたのです。もう気づいているかもしれませんが、この地に上陸できるのはアルムという人種の人間だけ、ベリッタこそアルムの人間でした」

「アルムの人間と言うのか、ハーネスもそういう事か」

「島の上では邪魔される事もなく、集中して研究を進める事ができたが、研究が大がかりになってくればくるほど人手が必要になっていき、この島に人を呼ぶ事を決意しました」

「それだと、また地上と同じ環境になるのではないか?」

「そうならない為にも、ベリッタは自分と同じ精神を持つアルムの人間だけを呼び寄せる事にした。それも農作業の呼びかけをし、集めた」

「しかし、アルムの人間か見分けがつかないし、人は関係なくやって来るだろ?」

「そこでベリッタはクロースモービルを造ったのです。送り迎えをする機械だ。それもアルムの人間だけが運転し上陸できるようにと。更に島から地上へ帰る時には外部に島の情報がバレないように、記憶を忘れさせる飲料を作った」

「だがクラウスにはアルムの人間でなくても同乗できる」

「そこがクロースモービルの欠陥であってベリッタにとって大きな落ち度だったのです。あのランドロスがやってきたきっかけがそうです」

「ランドロスはアルムの人間ではないと言う事か」

「アルムではありません、ランドロスは車の何処かに忍び込み上陸できたのでしょう。結局あとからクロースモービルの線路軌道ラインに人種ゲートを構え、そこで、アルムの人間だけに反応して発光する装置を作り、アルムの人間以外は記憶を消されてすぐに戻された」

「あの監視塔か? しかし私達は上陸出来た」

「今はあの監視塔はもう機能していないし、ランドロスが変えてしまった」

「だが島の秘密は完璧に漏れてなく、今までこの島は存在自体が謎に包まれていたではないか」

「ランドロスの他はアルムの人間しか上陸していない。アルムの人達は秘密に忠実だった。しかし島の秘密が地上に漏れていない事を幸いに、ランドロスは島へ乗り込むと、大きな石英を操るようになり、僕達アルムの人間達を支配した」

「この島の人々は何も言わず思いのまま動かされて、なんとも思わないのか?」

「ランドロスは言った、ベリッタの墓に埋まっている亡骸から脳だけを取り出し、この石英に組み込んだと。大石英の示す考えがベリッタの魂ならと、僕達はその神に従いランドロスについていった」

「結局はこの島にいるものがランドロスの計画にいいように使われている。それを早く辞めさせないといけない。それに記憶を消す飲料を飲まされないようにしないと」

「ロイ、俺が飲まされたピーチは、ベリッタが作り出した記憶を消す道具と言う事?」

「あれはまた違う。ランドロスが幻覚を見る薬と合成させて作ったものだよ」

「また飲まされると大変な事になるね」

「気をつけてマッキー、ランドロスはひどい事をするやつなんだよ」

「しかしだ君、記憶を消す飲料自体はベリッタが作り出したものなのだろ? 働かせて挙句の果てに記憶まで消されるとは、それもひどい話だ」

「そう思うかもしれないけど、記憶を消す飲み物は皆自ら飲んでいるのです」

「何故君らは自ら記憶を消すものを飲めるのか? ランドロスが作ったドリンクとは違うとしても私には理解できない」

「僕らの気持ちはマッキーがわかってくれた。僕達アルムの人間は他の者と接するのが

基本的に難しい。ひどい人はそこにいるだけで息苦しくなってくるほど、周りの事に過敏になってしまう生き物なのですよ。しかしその障害がなくなれば膨大な才能を発揮する事もあるんです。この島では唯一、本領を発揮する場所でもあり、自分の居場所でもあった、僕らにとって居心地が良かったのです、記憶を消してまでもまたここに戻って来られるならと希望を持つのです。秘密にする自信がないものは自ら飲むし、それは人にグランドベースの事を話さないと、忠実な約束をするのと同じ意味合いだったのです」

 モーリスは護衛が近づいている事に気づいた。

「もう追っ手が迫って来たな、話は後にして皆すぐに逃げるのだ」

マッキー達は神のいる部屋を後にして逃げた。

「まずい、入り口に護衛が来た。君達早く逃げろ、ここは私が引き止めておく」

モーリスは護衛に一発くらわして倒した。その隙にマッキー達が逃げる。その時モーリスが何かを思い出したように一度神の部屋に戻った、気づいたシュナジーが足を止め、モーリスの方向を見た。

「モーリス、どうした? 何かあったのか?」

「いや何でもない、気にするな。それよりも急げ」

 モーリスはすぐに戻って来たがシュナジーと二人遅れをとった。

「ねえ、シュナジーが来ていないわよ。大丈夫かしら?」

 マッキー達はシュナジーとはぐれた。

「ロイ、シュナジー達は道が分からない。一度俺は戻るよ。ロイはこのままハーネスを連れて先に行っていてくれ」

「だったらマッキー、ここは僕が行くから、マッキーは進んでくれ」

「わかったロイ、シュナジー達を頼んだ」

 シュナジー達の姿が見える所までロイは戻った。

「シュナジー、こっちだよ早く、急いで」

 ロイはシュナジーとモーリスを連れて、マッキーの行った後を追う。その時近くにいた手下がロイに気づいた。

「まずいな、どうやら僕らは気づかれてしまったみたいだ」

シュナジー達が追いつくまでマッキーは待っていた。

「マッキー止まるな! 追っ手に気づかれてしまった、逃げろ」

「本当なのか? ハーネス逃げるぞ!」

全力で逃げるマッキーは入り組む地下トンネルの道筋を迷わず進む。それに必死について行くシュナジー達、その時後ろの追っ手が銃を放った。

「奴ら発砲しやがったぜ」

シュナジーは反射的に頭を下げると弾が誰にもあたっていない事を確認した。だが弾は岩の端にあたりトンネルの通路が崩れだした。

「崩れる。逃げろ」

「早く。シュナジー」

「駄目だ、ここの通りは崩れる。マッキー、俺達の事は気にせず急いで逃げろ。また上で会おうぜ」

「待って、今土砂を掻き出すから」

「駄目だ、そっちまで捕まるぜ、幸運を祈る……」

崩れた土砂はシュナジーとの間を完全にふさいでしまって、シュナジー達とマッキー達はバラバラになってしまった。

「ああっ、シュナジー達がついに」

「どうしよう? なんとか私達で救出方法を考えるしかないわね」

 だがシュナジー達は捕まる事なく違う方向へ逃げていた。また追っ手が銃を放ち行く先の通路を塞いだ。

「お前達、もう逃げられないぞ、観念しろ」

 追っ手は三人に迫って来る。

その時ロイが後ずさりするふりをしながら、モーリスとシュナジーを岩の端に押しやった。

「二人とも覚悟はいい?」

「ロイ、なにをするつもりか?」

「一気に行くよ、それ!」

 ロイの掛け声と同時に床の石が回転して、開いた穴の空洞を滑り落ちた。

「わー、なんだ、落ると死ぬぞー」

「大丈夫、喋ると舌をかむよ」

 三人は勢いよく長い通路を滑り落ちていくと、広い空間に出た。そこは沢山の人がいた。アルム人間同士では集まるのは平気だ。

そこの人々は腰をさするシュナジー達をびっくりした顔で見ていた。

「あいたた。ロイ、この状況はまずいのじゃないか? とんでもない所に出たぜ」

 ロイは起き上がると、そこにいる人達に近づいた。

「ユウ様、まだ上には二人逃げている途中です。早く探さないと」

 ロイが話しているのはそこの仲間の中心となる人物だった。

「ロイ、俺達を騙したのか?」

 シュナジーは真剣にロイの目を見た。するとロイは穏やかな顔をした。すぐにユウは二人に語り掛ける。

「君達が遥々地上からやって来たもの達か。私らは今、ランドロスの行動を止めようとしている。君達が知っているか分からないが、私達はランドロスの企みを阻止する為に集まっている」

「ユウ様、この人達には先ほどランドロスの事を説明しました。こちらはシュナジーとモーリスです。彼らは僕達と同じくランドロスの行動に疑問を持っている人達です」

「君達は何故この島に来たのですか。興味本位で謎を探ろうなんて思っているならやめた方がいい。私達はこれから命をかけてもランドロスを阻止する。だから君達は早くこの島から脱出しなさい。そうでないと怪我する何処ろか命すら危ない。ここの問題はここに住む我らの問題だ、君達には関係ないのだ」

「ユウ様、そう言わないでください、皆考えは一緒なのですよ」

「私はモーリスと申します、話はロイから聞きました。だからこそこの問題は放っておけない。私達からしてもこのような危険な島が町の上空を漂っていては黙っておけない」

「こうなったのもランドロスがこの島に来てからの事です。それまでは私達は平和に暮らしていたよ」

「ベリッタと共にか。私も一度は会って話をしたかった。同じ時代を生きた者がうらやましいよ」

「本来ならば、ベリッタは今も生きていただろう。だが二十二年前に不慮の死をとげたと言われている」

「ベリッタは病気だったのか?」

「病気ではない……、それもランドロスの仕業だ」

「ランドロスの仕業? ランドロスは島にそんなにも前からいるのか? この何年かの話だと思ったが?」

「そうだ、ランドロスはここに来て五年だ。二十二年前の一九三八年にも一度ランドロスはこの島に来ていた。その時に何らかの方法でベリッタを殺したのだよ」

「それは本当なのか?」

「二十二年前、ランドロスはクロースモービルの車内に紛れて島へ侵入した。島には働き者ばかりいて、活気もあった。ランドロスはその島を自分の物にしたかった。だがそこにはベリッタがいた。働く者達は皆ベリッタについていこうとする者ばかりだったし、ランドロスの提案や考えが個人的にあったとしてもベリッタには聞き入れてもらえない。ベリッタは住民を島で長く住めるようにと計画しているものがあった。それは島自体を山手の方へ移動させ、そこで一定の期間エネルギーを補充するという事。エネルギーを作り出すには太陽の光の力があればいいのだけれども、その時に大量の水を必要とする。その為に島を山手の方へ移動させる必要があったのだ。計画実行は大量の水を使い代わりに汚染された水を排出する事となり、同時に付近の村に水不足を引き起こしたり、池を酸性に変えたりする事もあるので、それで中断していた。そこにランドロスが入り、無理やりでも島を移動させようと自分の考えを押し付けた。だがベリッタや住民は反対した。ランドロスは我慢できなくなり、暴れだし、ベリッタを殺してしまったよ。それから創られた大石英をすぐに発見すると、島の移動方法を知り、島を山の方へ移動させ始めた。しかしランドロスがベリッタを殺した事実が島の住民に知られると、すぐに島の者達から追われる事となり、やがて地上へ逃げる為にクロースモービルに乗って下りた。石英のもと来た所に戻る性質を使って。だが失敗して海に落ちた」

「二十二年前というと、あの時だったか。船が沈み、泳ぐのに精いっぱいでわからなかった。私はクラウスに助けてもらったが、その時、ランドロスも近くにいたのか」

「ベリッタが自分の運命的な死を予測していたのはその事だったのだよ」

「ランドロス、やつはそんな事やっていたのか」

「それから島はベリッタとランドロスがいないまま山手の方へ移動した。予め地上に用意された三つの定位置維持磁力石の中央に鎮座するように」

 シュナジーはやっぱり以前に見た石に心当たりがあった。

「三つの定位置維持磁力石? それって俺とマッキーが山奥で見た黒い石の事か? それなら石の先にはこの島が存在していたのか、気づかなかった」

「あの石は磁力によって反発する作用で島を安定させる。移動する時に山が見えないよう噴火と見せかけ、煙を放出させて移動した。そして島の一部が地上の山に接触すると地盤が揺れ、地震が起きた状態になった」

「煙を放出だと? すると二十二年前のあれは山の噴火ではなかったのか」

「そうだ、この島のせいだ。そしてランドロスがやったものだよ。この島はベリッタが当初計画していたペースよりも五倍の速度でエネルギーを貯蓄している」

「やつがこの島を山手に移動させたとは」

「ランドロスは島から落下してそのまま死んだと思っていたよ、それが今になって生きて戻って来るなんて思ってなかった」

「おそらく、沈んだ客船の救命ボートに紛れ込んだのだろう。なんて悪運の強いやつだ」

「ランドロスは島の人々を操って支配している。私達の敵だ。何としてでも今こそランドロスを止めなくてはならない」

「私の娘も上にまだ残されている」

「そうなのですか、ではなおさらです」

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