第13話 グランドベース

 車輪は地上から離れて少しずつ浮いてきた。

 クラウスの浮上を目の当たりに体感し、島を目前に全ての謎が解けようとする始まりの瞬間だったが、モーリスは解明できなかった事、自分ができなかった事などを考えると、今までやって来た事が無駄にも思えて、心の中は複雑だった。

「浮いたな!  実験でもわからなかった事が今起こっている。私はこの車の仕組みを何一つ理解できていなかったし、昔の実験や研究でもこの車の事は何一つ理解出来ていなかった」

 クラウスは徐々に上昇していき、島へ接近して行く。島の端は岩が突きだしていて、流れる川の水はこぼれ落ち、岩の隙間から地上へと落下している、川の水は地上まで届く事なく霧に変わっていた。

「本当に島のようだ、その切りそびえた岩が凄まじい」

 クラウスは浮いた島より高く上がった。グランドベースという島の全貌が見えてきた。

島の川が集まっている海のような所は渦を巻いて波がたっていた。合間に切り立った岩の一つ一つには草木が生えている。

「思ったよりも自然の多い島だ。何処かの山をそのまま切り取ったような感じだな」

「すごいわね、夢の中の世界みたい。何故ラウル達はここに来たかったのかしら? 何を探しているのかしらね」

「何か目的があるだろうな。それにしても水の量がとても多いぜ。これだけの水が地上へこぼれ落ちているのに、島の中央からはすごい勢いでわき出ている。そんなに最近雨が降った覚えはないけどな」

 クラウスは浮いたまま島の中央へ向かっていき、渦を巻いた海を飛び越えて行く。その先に森のような所が見えてきた。

「陸地だわ、クラウスが降りる。でも道がないみたい。どうするの?」

 多湿とも思える霧のかかった森へ入って行くと、こけに覆われた二本の線状の物を見つける。

「線路だ、あれは確かに線路だな。やっぱりここに人がいるみたいだぜ」

「汽車が走っているって事なの?」

「いや二人ともそれは違うよ。この線路に沿ってクラウスは地面に近づいているよ。クラウスが走る線路ではないのか」

「クラウスが? このタイヤでどうやって線路に乗るのか?」

 シュナジーが窓から身を乗り出して下を見ると、着地しようとするクラウスの下からタイヤと別に車輪が自動で出て来る様子が見えた。それは鉄道の車輪そのものだった。

「すごいな、クラウスに車輪が装備されていたとは知らなかったぜ」

「この線路は何処かに続いているのかしら?」

「島の中心まで行けそうだけど、それに線路を見てみろ、最近通った後があるよ。上だけ錆ていない所があるな。たぶん前にマッキーが来たときにここを通ったはずだ」

「そうなのね? じゃマッキーはやっぱりこの先へ進んで行ったって事なのね」

 相変わらずマッキーは目が虚ろで口はとじたまま、問いかけられても返答しない。

 クラウスは線路に車輪が乗ると速度を落とした。

周囲の景色が見えてきたがそこは自然の空間そのもので人影すらない。クラウスとそこを走る線路を除けば人工的な物は見当たらない。

モーリスが車窓から何かを見つけた。

「向こう側に何か見える。ハーネス、車を止めてくれるか」

「お父さんなに? 車は自動で進んでいるわ、止められない」

「そうか、私はちょっと気になる物を見つけたから、君達はそのまま乗って進んでいてくれ。私は一旦ここで降りる」

「えっ? どうしてですか? 俺達はどうすれば!」

「確認したら線路伝いに進んで追っかける。しょせん島の中だ、この車もそんなに遠くまで進まないだろ」

 モーリスは線路の上を走行するクラウスのドアを開け、タイミングを見て体を外へ投げ出した。

「あっ、あーあ、行ってしまったよ」

「いいわよ、ここからは私達だけで進むのよ」

「あ、そう?」

 クラウスを飛び降りたモーリスは地面に引きずられながら着地した。ここまでしてまでも気になって降りた理由はある石だった。

モーリスは来た道を少し戻り、石があった場所に駆け寄ると、それが何なのかすぐにわかった。息を大きく吸い、興奮を静めた。

「ここにいたのですか、まったくわからなかった」

 石は丸く長細い形を削られたようにして創られ、上部の斜面になった表面に文字が刻まれていた。

掘られた文字はこうだった。ベリッタ一九三八年ここに眠ると。。

 科学者なら誰もが尊敬する人物、偉人だ。

 ベリッタは、千八百年代後半に数多くの物を発明し有名になったが、ある時行方不明となった。それから死亡したのかもわからず、謎のままで解明されていなかった。

モーリスもこの人に憧れて科学者を目指すようになった。

「もしかするとここの島で暮らしていたというのか? そうだとしたら何故だ? 一人で住んでいた? いや、そうなるとこのお墓は誰が作ったのだろう」

 モーリスは墓の文字をじっと見つめていた。周りには他の人の墓が目立たないようによりそっていたのに気づかされた。水が沢山流れる川、池が多く海で囲まれたような島の自然が豊富な景色を、かつてここからベリッタが見ていたかのように懐かしみ眺めた。

同時にここ島には水が豊かという事を物語っていて、モーリス自身も水の豊富さに驚いている。

「一体この水は何処から湧いてきているのだ? 少しはマナ村の地に分けられたらいいのだが」

 モーリスは海のようになった流れる川の真ん中に、穴のようなものが空いているのを発見した。水はそこから地中へと流れ込んでいた。

「水はこのまま島の下へ落下しているのか?」

 穴の中心をのぞきたいが、水の流れがひどくてそこまで行く事はできない。

 一方、シュナジー達の車は森の中へ更に入って行く。

「ジャングルみたいだ、浮いた島と言え奥深いよな。なあハーネス、向こうに池みたいなのが見えるよ、木漏れ日が水面に反射して奇麗だな」

「どうして池の水がブルーなの?」

「ブルーの色って? 変かな」

「わたし、ブルーの池って見るの初めて」

「そうだよな。ブルーの池はマナ村に行く途中に沢山あるよ。なんでも酸が強くて何にも使えないそうだ」

「へー怖いわね」

マッキーもぼんやり池を見ていた。

「なあ、マッキー、ここも来たよな?」

「……」

「って、聞いても駄目か」

「ねえシュナジー、何か建物が見えてきたわよ」

「本当だ、人のいる気配がするな」

 この島で初めて見る建物が目の前に現れた。それは二階建てで屋上もあったが建物自体は古いものだった。

クラウスで建物の横を通り過ぎる。そのときに建物の中が見えたが、人はいないようだった。「クラウスは止まらないわね!」

「ああ、まだ先へ進むみたいだな。なんか先が暗くなってきたぜ」

 クラウスは草が生い茂って出来たトンネル形の道を入って行く。次第に岩をくり貫いて作られたトンネルに変わった。

「このままトンネルをもぐって行くのか? モーリスは分かるかなぁ」

 暗いトンネルをクラウスのヘッドライトが照らしていたが、先に行くにつれて今度は明るくなってきた。

「なんだかこれって前にも同じような事があったな、何だったかな?」

「シュナジーはここへ来た事ないでしょ? 来たのはマッキーだって」

「そうじゃなくて、何処かの洞窟に行ったとき……、思い出した! チェの収穫場だ、あそ事同じだ。だけどあれは地上の話だけどな」

 クラウスはトンネルから広い空間に出た。

「やっぱり同じだ。天井の岩が発光してとても明るい。この状態が何なのかが分からないのさ、モーリスがいたら見てもらいたいよ」

「本当、すごい。それに向こうには町が見えてきたわよ!」

「チェの洞窟はこんな町ではなかったぜ」

 ここの空洞は建物が並び、クラウスは町の真ん中を通る。ただ廃虚の町には見えないが人の姿もない。

 クラウスは自然にスピードを落としていき、線路のつながる建物の中へ入って行く。

「ここが終点か? 駅みたいなものかな」

「シュナジー、見て! 他にもクラウスと同じような車がある」

「本当だ、でも皆汚れていて使われていないようだな」

「壊れているのかしら」

 クラウスが停止した建物は使われていないようで、他に並ぶいくつもの車は朽ち果て、クラウスだけが奇麗にだった。

キョロキョロしながらシュナジー達はマッキーをつれて降りた。

「ハーネス、外へ出て町を見てみよう。これは発見だよな。マッキー! まだ思い出せないか?」

「そうね、すごい事だわ。ここには地上と違う、独立した街があったのかしら」

「たぶんおじいさん達が畑仕事に行っていた町ってここの事だろうな。そうなると地上と島を昔は普通に行き来できたのだろう、このクラウスみたいな乗り物でな!」

「私達も、帰るまでには記憶が消えて、ここにある物を全て忘れてしまうのかもしれないわね」

「そうだな、それが本当だと残念だよ。だから今まで島の謎を語る人や知る人がいなかったのだな」

 洞窟の空間の中心にあたる位置に、大きな建物があった。皆白い石を積み上げて造られた丸い形状をしていたが、中心の建物だけがドーム型で少し赤みのかかった石でできていた。

「この町の建物は丈夫そうだけど、しょせん空洞の中に存在するもの。雨風は受けないし、紫外線も入ってこない。こんなに頑丈にする必要があるのか」

「そもそもここは住居だったのかしら?」

「ハーネス! 見てよ、赤い建物の所、あれ、人じゃないか?」

「いるよね? 人間なの?」

「うん、おじさんみたいだぜ」

 建物の入り口に男の人が一人。何処にでもいそうなおじさんに見えるが、一枚の白い布を巻いてたような変わった服装でこっちを見ている。

「悪い人じゃないみたいだ、行ってみようぜ」

三人は男の人の所まで疑いもなく向かった。

「こんにちは、ここは街なのですか? 人が住んでいるとは思わなかった」

「よくここまで来ましたね。地上の人は安易には上がって来られない。大変だったでしょう」

「いえ、車に乗ってやってきました。僕達は何も考えてなくて」

「そうでしたか、クロースでですね」

「クロース? ああ、クラウス・スモービルですね」

「車はクロースモービルと言う名前です。それに乗ってきたと言う事は選ばれし者だと言う事、あなた達は来るべき者として招かれた。私の名前はランドロスと申します。君達を歓迎するよ。そちらの子は疲れているようだ、中に入って少し休むがいい」

「はい、ありがとうございます」

 シュナジーは苦笑いでハーネスに小声で言った。

「選ばれし者だってな」

中へ入ると雰囲気が全く違い、床は赤いカーペットが敷かれていて。天井もまた明るいが外の光と違い柔らかい色味だ。平屋造りに見える建物は地下構造になっており、三人は案内されながら階段を下りて行く。

「地下に下って行くのに暗くはならないのですね」

「そうだよ。ここの島には底辺に金属の欠片が多量に散らばって、島一周囲んでいる。その物質が電磁波を生みだし、ここの空間周辺の土に含まれる発光物質の粒子が反応して光っているのだよ」

「電磁波ですか? それで記憶がなくなる事もあるのですか?」

「記憶がなくなる? 何故記憶がなくなる。電磁波では人の記憶はなくならない。人の記憶は本人の脳の意識によって操作されているものだよ。外部からの力でどうこうできるものではない。しかし加齢による衰えから記憶はなくなる事もあるが」

「あー、そうですよね、では僕達の記憶はなくならないと言う事ですか?」

「君達が何故そんな事を言うのか分からないよ」

「だって、ここにいるマッ……」

「待ってシュナジー、記憶がなくならないなら良かったじゃない。問題ないわ」

地下に歩いて行くと、人が沢山いる空間が見えた。何か作業をしている。

「君達見てくれ。ここは第一プラント、皆ここで開発されたものばかりだ。植物の生命は計りしれない。私達はこれらによって命を支えられてきた」

 第一プラント空間にはいろんなものがあった。ガラス瓶みたいな物の中に一つ一つ植物が入れてあり、ほとんどの物に実をつけている。蕪のように見えるが色がピンク色だったり、またリンゴのような感じだけれど長細い。シュナジーとハーネスが見た事ない植物ばかりが並んでいる。

「ここでは実験をしているのですか?」

「実験というよりも人が食べていけるようにする為の開発だよ」

「米や麦のように人の食に必要な物です、また実った果実は人の心をみたす、そういう事ですね」

「その通りだ。今ここに住んでいる者達が、外の太陽の下でこれらの農作物を生産している」

 シュナジーはマッキーの方を見た。

「畑仕事だな、あの時のおじいさんの話は本物みたいだなマッキー」

「同感だよシュナジー」

島の上で働く人達に親近感を覚えた。

「やっぱり人が住んでいるんだ、すごい。俺達は何か勘違いしていました」

おじさんは急かすように食事へ招いた。

「さあ、皆おなかが空いているでしょ。食事にしなさい」

 三人は別々の部屋へつれていかれた。土壁で囲まれて窓のない広い空間だったが。中央にポツンと置かれた大きなテーブルがあり、沢山の食事が既に用意されていた、そこにいる若い人はコップに水をくんでいる。

「この人達、俺達と同じくらいの年じゃないか? ここで働いているのか」

「そうかな、この島で生まれて育ったとかじゃないかしら?」

 水を人数分注ぎ終えると、すぐにいってしまった。

「さあ、座ってください。食事にしましょう。君達の歓迎会だ」

「ありがたくいただきます。ここの食材は島で作ったものですか?」

「そうだよ、昔は食べ物が乏しかったが今は働く者のお陰で食料が豊富になった。しっかり食べてくれ。一時泊まっていけばいいよ」

 シュナジーとハーネスはむさぼるように食べた。

「おいしいですね、マッキーも食べな、とてもうまいぞ」

 おじさんはマッキーの姿を見るなり、気にかけた。

「そこの子はかなり衰弱しているようだ、ならピーチを飲ませなさい、元気がでる」

 食事を運んできたさっきの若い男は、それを見て何かに気づき、別の部屋へ入って行った。

 奥から出てきた他の男がピーチと呼ばれた飲み物をマッキーに飲ませる。

「駄目だ! マッキー、それを飲むのじゃない!」

 叫んだのはさっきの若い男だった。

「何を言っているロイ、これは栄養がある。私の島で作ったピーチだよ」

「騙されるな、それはただのドリンクじゃない。催眠にかけられる」

「おい、訳の分からない事を言うロイを追い出せ!」

ロイは他の男達に引っ張られ、裏へと連れていかれた。

「あの人、どうしたのですか?」

「あれはたまにおかしな事を言うやつだよ」

「だけど、マッキーの名前を呼んでいた」

「きっと今覚えたのだろ、変わっているやつだ」

「覚えたとしても、使うか?」

 その時マッキーが急に顔を上げて何かつぶやいた。

「ロイ、ありがとう。また戻ってきたよ」

「どうしたマッキー、あの人を知っているのか?」

「記憶が戻ったのねマッキー」

 マッキーの顔色は急に良くなり、息を吹き返したようにシュナジーとハーネスの目をしっかり見た。

「ロイは命の恩人なんだ、俺を助けてくれた」

「前に来た時に会ったのか。するとここはまずいのか? どうしたらいいマッキー?」

 警戒している三人を部屋に入ってきた男達が囲む。

「仕方がない、その男の記憶が戻ったみたいだ。捕らえるしかないようだ。そのまま記憶が戻らなければ、何事もなく地上に帰れたものを。残念な奴らだ、力づくでも奴らにピーチを飲ませろ!」

 シュナジーは床にこぼれたピーチを見た。

「これが記憶を消してしまう飲み物だったのか。ハーネス、これを飲まなければいいだけだよ」

「マッキーはこれを飲まされていたのね」

「しかしどうしてそんな事をするのか?」

「そこの彼は見てはいけない物を見てしまったからだよ」

「見てはいけないものだって?」

「そうだ、それを見た物は島から帰る事はできない。代わりに記憶を消すのだ」

「俺達はこの島の謎は知らない、何も見ていない」

「そのうち男が話すだろ。それにお前達は他の者と同じで島の謎を解明しにここへやって来たのだろ。三人を捕らえろ!」

三人は男達の手を振り払いマッキーを先頭に素早く逃げた。

「シュナジーこっちだ、ここから出られるよ」

「さすがマッキー、ついて行くぜ!」



 モーリスはベリッタの墓をあとにして線路をたどり、島の中心部を目指していた。

「この島にベリッタが来ていたとは思いもしなかった。人の気配がないが、あのお墓を見ている者がいるはずだ。人々は何処かに定住しているのだろう」

 歩き続け、足を止めた、シュナジーらがトンネルに入る前に見た建物と同じだ。

「何かの施設か?」

 建物のそばまで行き、扉を開けるとモーリスは驚いた。それが監視棟の役目をしているのがすぐにわかった。中に入ると双眼鏡や銃が置かれており、上に行くと周囲が見渡せるようになっている。

「何故こんな施設が必要なのか? まるで刑務所の棟だ。それとも外部からの侵入を阻止するものなのか。やはりあの子達は大丈夫か?」

 モーリスは島の地形を確認する為に、据え付けられた双眼鏡をのぞいた。すると島の端の方に大きなものが落ちそうに引っかかっているのが目についた。

「ラウルのやつだ。ついに島の磁場を回避できる機体を開発したか」

 ラウルは電気機器類を一切使用せずに、ガスと気流のみで移動できる飛行船を造るのに成功していた。だが島からの吹き下ろしの風によって馬力不足の機体は上陸できずに、水辺の岩に引っかかっていた。島への侵入に苦戦しながらも自力で上陸したラウル組織は、続々と島の中央に向かっていた。飛行船はまともに着地できてなく、不安定のままだった。

「このまま急いで行け、島の中心を目指すのだ、計画した通りに進むぞ」

「はい!」

「海には流されるなよ。そのまま島からこぼれ落ちて地上に落下する」

 モーリスはクラウスの線路が続くトンネルの手前に、人道の通路を見つけ島の中に侵入していた。

「なにかおかしい、この島には何か問題でもあるのではないのか?」

 モーリスは狭い通路を下り、広い空間に出るととんでもないものを発見した。

「なんだこれらの装置は? 何かを製造しているのか? 何かの発明品? 貴重なものだ、研究する価値があるな」

 人はおらず、ただそこに並んでいるのは機械の原動機の一部や鉄道車両、歯車が入り組んだ時計。次に石の結晶が並べてあり、その色も様々だ。中には発光しているものもあるし、磁石のように浮いている石、そして液体の瓶に漬けられた石、あらゆる物を目にして感激するとモーリスは一つ一つ手で触り、液体の中の石も手に取った。するとその液体から電気のような痺れが手を伝ってきた。

「これはもしかして」

以前に噂で聞いた事のある燃料石と言うのはすぐにわかった。それはどのようにして作るものなのか不思議だった。

「わかった、これでクラウスとつながった」

 その燃料石の入った瓶をひっくり返して現物を手に取ると、本物だとわかった。クラウスが水だけで走るという望みが少しでもあったが、結局モーリスはこの石の存在で、世の中に水で走る車など存在しないものだと確信した。

「やっぱり燃料石は物理的に存在していた、水で走る車などは存在しない」

 モーリスの気持ちは少し落胆したが、代わりにそこの発明品を見る事ができた。ただ自分の力量のなさを思うと複雑な気持ちだった。



ラウル組織は島の上の、中心部まで来ていた。

「このまま地下まで降りる、急げ、中心部には聖なる神が待っている、神はこの島の全てを動かしているのだ」

「神が本当にいるのですか?」

「ラウル殿、そのような話を聞いていませんでしたけど、その情報を一体何処で入手したのですか」

「あの死んだ老婆が言っていた事だ。もう聞く事はできなかったが、私の頭脳に自然と想像できているのだ、我々は導かれている」

「ラウル殿、神をどうする気ですか?」

「見ていれば分かるさ、私に黙ってついてくればいい」

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