第10話 二十年前のモーリスとクラウディア
ハーネスと住むクラウディアの家はウォータモルンにあったが、シュナジーの住んでいる場所からはかなり離れている。
マッキーはおしゃれな家を想像していたが、実際はビルのような四角い建物だった。
「すごいなこの建物。なんというか。ただのビルだな」
「そうだよねシュナジー、もっと違うのを想像していたよ」
中に入ると今度は事務所みたいな造りで、一階は広々とした研究室になっている。数々の実験用の容器や液体が所狭しと置いており、ガラス棚には薬品と思える物が並べてある。また壁際には四角い箱型の大きな機械が備え付けられていた。
「クラウディアさんは何かの研究をしているのですか?」
「そう、わたしは研究所を立ち上げて助手も雇い入れているわ。今はエネルギーに関する研究。どうにか太陽の光線を使い、触媒から液体へと移行できないかとね」
「すごい、全く言っている事が理解できないな!」
「そうだねシュナジー、でも水で走る車ってのも同じ気がしない?」
「そうね、結果的に同じ液体エネルギーになる事は間違いないわね。だけどわたしには、ただの水から動力を得る発明はできない。やっぱりあれはモーリスだけの発明だったわ」
「クラウディアさんもグリース研究所で働いていたのですか?」
「よく知っているわね。グリース研究所は極秘なのよ」
「ラウル組織から聞きました」
「ラウルもメンバーの一員だったわ。その時のラウルはあまり話さず、暗い人というイメージだったけどね」
「もうクラウスの研究はしないのですか?」
「しないわ」
「そうですか……」
「二十年前のクラウスの研究……。あの実験以来だわ……。何処かの倉庫からクラウスをあなた達が探しだすまで、エンジンはかかる事はなく眠ったままだった。わたしはクラウスに興味がなかったけど、数年前からクラウスの車がもともとあった場所の存在が気になり始め、調べてみるといろいろな事がわかってきたの。研究の傍ら、クラウスがもともとあった場所を探してみようと思ったわ」
「それって、石英が導くはずの場所ですか?」
「簡単に言うとそういう場所が存在したって事。いや今も何処かにあるはずだわ」
「でも分からないままと言う事ですね?」
「石英の分析にまで手が回らず、その正体はまだつかめていないわ。だけど調べて行くと少しずつわかってきた事もあるの。それはモーリスが前に一度だけ見た、海の上に浮かんでいる物体。また最近の情報では山手の方向に、クラウスと同じ周波数を発する強いエネルギー反応が受信されたとかね。更に昔の人達がその場所に行っていたと言う事実」
「マッキー! それっておじいさんの話だよ」
「うん、覚えている。畑仕事だろ?」
「あなた達もそれらの人に会ったのね」
「はい、しかしすぐいなくなってしまいました」
「彼らはその記憶を忘れる傾向にあるの。どうやらそこの場所の知恵や記憶を持ち帰る事ができないみたいで、また次にその場所へ行こうとすると、道を忘れている為に道しるべとして石英が必要になる。その数々の石英も時が経つにつれて亀裂が入ったり割れたり、また海の底へ沈んだりした物ばかり。わたしは石英を世界中で探し回り、記憶をなくしたある人を調査していたら、その人の住み家で見かけたわ。誰も気に止めないほどのガラス玉で無造作に家の奥に転がっていた。しかしわたしにはそれが石英だとわかったわ。どうしてもいただきたいと言うとすんなり渡してくれ、無事一つの石英を手に入れる事ができた。それがあなた達に預けた石英よ。そのおじいさんも謎の場所へ行っていたはずだけど、昔の記憶は全く残っていなかった」
「そうなんですか。でも記憶がなくなって帰って来るとは恐ろしい場所ですね。とすると僕達も行った事あって覚えがないだけとかも」
「それはないわ。クラウスのように動く車も他にはないし、その場所まで行っていたのは五十年ほどの話、年を重ねた人ばかりよ。さっ、お風呂沸いたわ、先に入ってらっしゃい」
「はい、わかりました」
二人は大きな大理石でできた風呂にゆっくりとつかった。
「あー気持ちいい! 風呂につかれるなんて」
「俺はいつもシャワーでだけどな」
「俺にとってはシャワーもうらやましいよ」
「そうか、そこにも水を使えないからな、大変だな。ウォータモルンにいると何も思わないからな」
「別に構わないんだけどね。でも今日は何もかもが新鮮だよ。特に風呂が二階にあるなんてとても不思議だよ。どうやって水を二階までくみ上げているのだろうか?」
「そこに興味を引かれるのか? すごいなマッキーは」
「あなた達、着替えはここに置いているから、とりあえずこれに着替えなさい。うちの若い研究員の物だけど」
「はーい、わかりました!」
クラウディアはキッチンに戻り、夕飯の支度を続けた。横でハーネスも手伝っている。
「ねえ、お母さん。どうしてあの人達をわざわざ家に入れるわけ?」
「どうしてって?」
「何考えているか分からないじゃない、何か盗られたらどうするの?」
「あら。ではハーネスはどうしてあの子達に石英を預けようと思ったの?」
「それは……、その時はせっぱ詰まっていたからよ。あの時はしょうがなかったわ。ラウルの手に渡るくらいなら誰でもよかった」
「誰でもね。でもあの子達はクラウスを悪い方に使ってないみたいだし、今でも何も悪い事していないわ。あの子達が偶然にもクラウスを動かして乗っていた事も何かの縁だし、それに昔の話を何処からか聞き、知っていたわ。わたし達も知らない何かを発見できるかもしれないわよ」
二人は既に風呂から上がり、大きなテーブルがあるダイニングへ座っていた。そこには料理が並んでいる。
「うわー! すごいな。もうよだれが出てくるぜ」
「待てってシュナジー、恥ずかしいよ」
「仕方ないだろ、はらが減っているのだから」
「俺は、ほとんど見た事のないものばかりだ。本当に俺達もいただいていいのかな? 後で何かをくれとか言われないよね?」
「俺達は何も持っていないよ。こういうのはありがたく受け取らないとな」
クラウディアがまた奥から料理を持ってきた。
「そうよ、あなた達に強要とかしないわ、だから二人ともしっかり食べて!」
「ありがとうございます。ではいただきます」
「あなた達はクラウスのやってきた場所に興味はないの?」
「僕達はクラウスに興味があって修理しました。当然クラウスが来た場所が存在する事を聞いて興味が湧かないはずがありません。しかし何も分からないから……、できればもっと知りたいです」
「わたしにとってもクラウスは、未知の世界。まだまだ時間が必要だわ」
食べる二人はおなかがだいぶ落ち着いてきて水を飲んだ。
マッキーが壁の古い写真に気づいた。それには白衣を着た研究員が九人、写っていて、その中にはまだ若いクラウディアも入っていた。
「その写真ね、随分昔の話だけれども、今から十七年前の一九四三年、モーリスとわたしが同じ研究室にいた時のもの。モーリスがクラウスを発見した時から謎の車として研究は始まり、いろいろな実験などを行った。研究者は九人。科学者や生物学者など他にもいろいろな種別の研究員を集め、極秘に進められた。だが当時の情報や技術は現在に比べると、とても低く結局クラウスの謎は解けないままだった。それぞれ持ち合わせた知識の分野だけでなく、他の分野も取り入れた。モーリスは考古学、わたしは科学。特に二人の分野は相性が良かったのか、謎の車を解明するのに大いに役に立っていたわ。次第にモーリスとわたしは夜遅くまで研究に明け暮れた。気づくとわたしはモーリスといつも一緒にいた。その頃は楽しく、彼は仕事に夢中、わたしはそれで良かった、男は仕事に専念するのは良い事だと……」
「それで結婚したのですか?」
「マッキー、話が早いな!」
「結婚したわ、そして別れた」
「こっちも早いな!」
「それって、別れたのはラウルのせいですか? さっきラウルの人に研究所の話を聞きました。研究所はラウルもいたんですよね?」
「ラウルもいたわ。でも関係ない。研究所時代のラウルはとても静かだったからね。モーリスと別れたのはある事がきっかけだったわ」
「ラウル組織の人も同じような事を言っていた」
「それはグリース研究所での事だわ。実験を繰り返していたクラウスはたまに暴走をし、そのたびに研究を妨げていたが、謎の解明は順調に進んで行くと、クラウスの数値も安定していた。それはモーリスと結婚しておなかの中に子供ができた時に気づいたわ。それまではクラウスに乗って座っても暴走が起こらなかった。だけど子供を妊娠した途端、わたしが乗り込むと急に暴走する。その時は偶然だと思い、確かめる為他の研究者を車に乗せてみたりもした。やっぱり何も起こらない。翌年ハーネスが生まれた。それからはわたしが乗ってみても暴走しない。だけど娘のハーネスとわたしが乗ってみると暴走した。車が暴走してしまう実験はとても恐かったわ。ハーネスは何らかの影響を車に与えているみたいだった。研究員達はハーネスを一人で乗せてみる事を勧める。わたしはずっと拒否していた。ある日の事モーリスがわたしに言ったの、ハーネスを乗せてみてくれないかと。信じられない言葉だったわ、それでも実の父かと……」
「でも、モーリスって人、クラウスは危険な物と言っていました」
「当時は研究に夢中だったからね。あの車に暴走する定義を調べていた。モーリスが躍起になっている時期が続いて、研究所の雰囲気も次第にハーネスだけを乗せ、実験をする方向へ向いて、その実験を決行する事になった。席にはハーネスの体に合わせたシートを作り、六本のベルトを取り付け、衝突したときの為の吸収材を詰め込んだわ、まだ体の小さいハーネスは何の疑いもなく車に乗せられた。すぐに車のエンジンはかけられた。車体はワイヤで固定されていたけど、今にも飛び出そうとするくらいの勢いで走り出そうとした。わたしはすぐにハーネスを車から引き出した。研究員達は不満だったがわたしの行動を誰も止めなかった。もうこんな思いはしたくないと思ったわ」
ハーネスも母親の話を横で聞いていた。
「ハーネスは怖い思いをしたんだね」
「怖い思い? わたしはその時の記憶はあまり覚えていないわ、怖がってもいなかったらしいわ」
「だけどハーネスが乗ると何故暴走するのですか?」
「どうしてかは分からない。ただ、そういうタイプの人間がいると言う事。研究員達はその後もいろいろと調べたいと言ったわ。車の実験から今度はハーネスの事も調べたいと。わたしは完全否定した。もう研究なんてどうでもよかった。わたしは我慢ならず、それをきっかけに研究チームから抜けた」
「モーリスとの関係もですか?」
「そう、わたしはモーリスと別れる事を決めた。更にあの車を危険な物体として研究機関の本部、国の機密を集結する所に報告した。研究は中止、それで一九四五年にグリース研究機関は解散した。わたしは責任持ってあの車を処分する事に決めた。クラウスの研究はこの時をを以って終わりだった。しかし、わたしの中でもう一つ気になっていた事があった、わたしはそれに気づくのが遅かった」
「気になっていた? 何の事をですか?」
「クラウスと言う車は、とても重要な車だっていう事、そしてモーリスが水で走る車を開発したという事実」
「どういう事ですか、よく分からないです」
「事件は既にわたしがいない研究所で起こっていたって事よ。チームは解体していたが研究員は資料をまとめる為にまだ建物内に残っていた。モーリスもそこにいたわ。その時何かの集団と思われるのが研究所を襲い破壊したの、それらは研究所の資料を消滅させる事が目的だったみたい」
「その時代から何者かに狙われていたと言う事ですか?」
「そうね、それにクラウスを先に撤去していたのは正解だった、クラウスは狙われていた、そしてモーリスの命も」
「何者なんですか?何の為にモーリスの命を狙って研究所を破壊させたのですか?」
「集団の正体は石油を扱う者の一部の団体だったわ、彼らは石油業界とつながりを持つ集団と思われるわ。その時代は車に関する産業が発展していて、必要とする石油などはなくてはならない資源となっていた、ビジネスとしてはとても膨大な利益が約束されているのは間違いない。そこに水で走る車をモーリスが開発したという情報を知る、結局は彼らの集団からすると水で走る車が発明された段階で石油業界は致命的な打撃を受けると言う事。その現実を根本から消し去ろうとしたの、車ごとね」
「クラウスを発見した事や、研究した事が表に出て、目を光らせているのですね! それで研究所はどうなったのですか?」
「結局消滅して完全に崩壊したわ。逆にそうした方がよかった。運良く研究員達は無事だったし、水で動く為の実験資料や設計資料はなくなったけど、モーリスの頭の中に全て記憶されていた。しかしそうなると今度はモーリスの命を狙ってくる。だから今回の事故で本人を死亡させた事にした。同時期に他で実際に死亡した同じ年齢の男性を、モーリスにみたて葬儀もして火葬もした。うんざりしていたわたしは、籍を外した。それの腹いせなのか、モーリスはわたしの倉庫からクラウスを持ち出し、自分の研究の為に何かを始めたわ。呆れたけど、クラウスはわたしに必要ではなかったから、それっきりほっておいたわ」
「それから、モーリスはラウルを率いて研究を続けたのですね。山の倉庫の車が沢山あった場所」
「あそこで研究していたの? 何も知らないからね」
「でもうまくいかなかったみたいです。それから分からないように倉庫に保管した」
「そんな所にクラウスを置いていたの? だから誰からも知られなかったのね」
「それが、古い倉庫みたいなビルでした、屋上に半球体の設備があり、何か変な建物でした」
「ああ、結局隠した場所はポールの倉庫だったのね。ポールは昔、天文学者だった。いろんな星を研究していたわ。上の丸い物が天体観測のドームだわ」
「なるほど、そうなんですか。あの人はポールと言う人なんですね。しかし今は丸い物はこけだらけで中には何もありませんでした。建物は建て替えると言う事です」
「建物の建て替え? そんな余裕があったのかしらね。時代が流れるはずだわ、観測は辞めて新しくビジネスに手を出しているのでしょうね。昔の話は沢山出てくるわ」
「それで、結局は僕達が世に出してしまったと言う事ですね! すみません」
「いいのよ、遅かれ早かれあの車は盗られる運命だったのよ。話が長くなったわね、もう寝なさい」
「はーい」
奥の部屋を用意されたが、二人は眠れなかった。
「マッキー、あらためて思うけどクラウスは本当に謎の車だな」
「クラウスがあった元の場所とかって、一体どう言う事だろうね。おじいさんの行った所、畑がある場所と同じなのかな?」
「クラウスに何か手がかりがあったかもな」
「何かねー、そんなのあったかなー。でもラウルに持っていかれたからね」
「ラウル組織は、元の場所の存在を知っていると思うか?」
「知っているかなぁ、もしわかっているならもう探し出しているんじゃない?」
「クラウディアにああ言われると余計に気になってくるよな」
「シュナジー、調べてみる?」
「おう、調べてみようぜ」
二人が話をしていると、ドアを叩く音がした。
「シュナジー、今音がしなかった?」
「あ? したか?」
「わたし、ハーネスよ。中に入るわよ」
ハーネスは二人のいる部屋のドアを開けて入ってきた。
「あー、ハーネス。どうしたの?」
「ごめん、マッキーとシュナジー、わたしさっきの話聞いていたわ。調べるって何を調べるの?」
「あー、それはねー、えーと、おじいさんに聞き込みに行くんだよ!」
「明日取りに行く石英を一度調べるのでしょ?」
「さっきの話だけでよく分かるね」
「でも、どうやって石英を調べるの? 母は科学の力で今まで調べてきたけどまだ何もわかっていないわ」
「確かにそうだよね、でも俺達も調べてみたいんだ。何か手がかりがないか、見方を変えれば答えがみつかるかも。あの何十年も眠っていたクラウスを動くようにできたから、もしかして石英の謎も解けると思って。この町にも石英の使い方を知っている人や、覚えている人が他にもいるかもしれないし、何かの方法を考えて調べてみようと思うよ」
「そうなのね、わかった。ならわたしも一緒に調べるわ。母が知りたいと思っている事、わたしも気になるから」
「一緒にか? でもあの石英を調べたりしているとこの間のようにまた危険な事に巻き込まれるかもしれないぜ。これは俺達に任せてくれれば大丈夫だよ」
「わたしは大丈夫よ! これまでもいろんな事に遭遇してきたから。だからわたしも一緒に、ね!」
「そうか……、わかったよ。それじゃ一緒に調べるか」
「うん!」
その日はまもなく眠りについた。
翌日、マッキー、シュナジー、ハーネスはシュナジーが通っている部品屋に向かった。
朝が早くて、お客は三人だけだった。
「なんだい、シュナジー。こんな早くに」
「かあちゃん! その玉は隠しておくように言ったじゃんか! 人に見つかるとまずいのさ」
「そうだったのかい? でも大丈夫だよ、ここの店には昔から知っているものしか来ないし、窓際に置いていても誰も見やしないよ」
「でもさ、これは俺のじゃないし、狙っている者もいるのさ」
「ほう、そんな高価なものだったとはねえ。どうりで奇麗な模様が映るわけだ」
「模様が映る? これはただのくすんだ水晶玉だよ。今から調べるけど、とても奇麗な物とは言えないよ」
「そうだけどね、でも光が玉にあたると模様が出て来るのでね、それが神秘的で窓際に置いてみたよ。見てみるかい」
マッキーとシュナジーは石英に目をやったが、まだ日はあたってなく、静まり返るただの玉だ。
「かあちゃん、太陽の光は水晶の玉を通すと火事になる事もあるよ、反射した光が集まると熱に変わる。ここに置くと危ないよ」
「シュナジーはこの玉がレンズみたいになると思っているのかい?」
「違うのか? 模様が玉の中に映るのか?」
「まあ見ていな、もうすぐ朝日があたるから。すぐに分かるさ」
皆、石英が日に照らされるまでじっと見守った。朝日は建物の隙間からゆっくりと差し込み石英の玉を照らしだした。
「まさか、そんな事があるなんて、今まで気づかなかったわ」
石英は太陽に照らされ、突き抜けた光は床板に何かの模様を映し出していた。
「ほんとだね、奇麗な色で、何かをかたどっているようだね」
「これって、地図のようにも見えない? ひょっとしてわたし達が探そうとしている所じゃない?」
「地図に見えない事もないけど、このままじゃ全く分からないよ」
「ぼやけているな。外に出して直接光をあててみようぜ」
「わかった、外に持って行くね」
マッキーは石英をゆっくりと持ち上げて外に出る。
「おいおい、落とすなよ! 一つしかないからな」
「わかっているよ、この辺でいいかな」
石英を日のあたる台の上に置くと、影の方を見た。
「あれ? 何も出てこないよシュナジー、ただ真っ白に光があたっているだけだね」
「なんだ? 角度があるのじゃないのか」
「こうかな? どう変えても何も映らないよ」
「ありゃー、熱で模様が消えてしまったのか?」
「そんな簡単に消えてしまうかな」
「じゃーどうして映らないのさ」
「おかしいなー」
「ねえ二人とも、もう一度、店の窓際に置いてみたら?」
「置き場所に関係があるのかな、とりあえずさっきの場所に戻してみるね」
マッキーはまた店の中に入り窓際へ置いた。
「やっぱり映るぜ、どうしてなのか?」
「ここの場所がいいの?」
「かあちゃん、ちょっとここの窓を開けてくれないか?」
「えっ? そこは開かないよ!」
「どうして、昔開いていたじゃん」
「ああ、そこの窓は嵐の時倒れてきた大木の枝で割れてしまってな」
「新しいのに変えたのか、とても純度の高そうなクリアーなガラスだな。でも結局開かないのか」
「いいものだろ? 新しいのは買わないよ、それは何かの車にはまっていたフロントガラス。とてもクリアーだったし、加工してもらってはめ込んでもらったものだよ」
「フロントガラス? おばちゃん、それは何の車ですか」
「うちに来たときはもうガラスだけの部品だった、そのガラスは普通の車に合うものがなく、結局うちに流れては来たけど、使いようがなく、店の窓になった」
「なあシュナジー、このガラス、クラウスの物と似てない?」
「そういえばこの透明感、クラウスと同じガラスか。模様はこのガラスのせいと言う事なのか?」
マッキーはもう一つの窓の方へ行き確かめた。
「おばちゃん、こっちの窓は普通のガラスだよね?」
「そうだよ、何かわかったのかい?」
「やっぱりここの窓では映らないよ、シュナジー」
「そうなのか、クラウスの窓を通すと模様が出るのか」
「どういう仕組みだろう、何かガラスの間に入っているのかな?」
「不思議だぜ、実際にクラウスの窓際に置くと、同じ模様が見えてくるのか? しかし今のままでははっきりと見えてこないな」
「二人とも、どうやらクラウスを取り戻さなければ何も始まらないみたいだわね」
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