第8話 ラウル組織
ラウルの所で彼女の黙秘は続いていた。そこに部下が慌ただしく部屋に入ってきてラウルに報告した。
「ラウル殿、クラウディアらしき人物を見つけました。今こちらへ連行中です」
「そうか、よくやった、到着したらここへ連れてこい。例の話出そう」
「かしこまりました、今しばらくお待ちください」
「母を呼んだのね! なにもしていない母をどうする気!」
「安心しろ、少し聞きたい事があるだけだ」
「結局あなたは何が目的なの? 何故あの車が必要なのよ!」
彼女はなかなかラウル達の質問には答えなかったが、必要と思えば自分から発言した。
「前にも言っただろ、あの車は科学の発明品だ。これまで我々がクラウスを研究してきたのだ。世の中の為に役に立つものを開発し作っていこうとしていたが、クラウディアが研究を阻止したのだ」
「だけどあの車はとても危険だと母は言うわ」
「危険と言うのは人工知能による不具合の発生を言うのだ。完全に解明して完成するまで、世に出す事はしない」
「では何故母は、あなた達と研究を続けていかなかったの?」
「分からない娘だな。ずっと研究を続けてきたチームは教授の指示のもと、皆がそれに従っていた。ある時、君の母親が訳もなく勝手にプロジェクトを中断するように求め、我々の研究機関は聞き入れるとそのまま解体したのだ。私らは君の母親に振り回されて、終わった」
「結局はクラウスを最後まで研究を続けて、調べ上げたいと言う事なの?」
「そうだ」
「本当にそれだけなの?」
入口からラウルの子分が入ってきた。
「ラウル殿、お連れしました」
「よし、入らせろ!」
扉の向こうから声がした。
「その汚い手を離しなさい!」
「お母さん!」
「ハーネス! 何も乱暴されていない?」
「何もしていないよ。いくつか質問しただけだ。それも答えてはくれなかったがな」
「この期に及んでラウル、まだ無駄な事を続けているの? いい加減に諦めてはどう?」
「親子ともども、気の強い女達だ。早速だが君を呼んだのは他でもない。わざわざこんな事に時間をかけたくはないのだ。例の物を渡してもらおう」
「何の事を言っているの?」
「わかっているはずだ、情報はしっかり入っていたよ」
「何の情報なのよ、言ってみなさいよ!」
「石英だ! 水晶の玉」
「知らないわ、そんなもの」
「こっちは娘を捕らえているのだ、君も今、我々の建物の中にいる。状況をわかって話す事だな」
「わっ、わかったわ。まずハーネスを離しなさい、話はそれからよ」
「お母さん!」
「よし、その娘を解放しろ、しかし建物から出すな」
彼女を拘束していたロープが解かれ、すぐにクラウディアの方へかけよった。
「お母さん」
「ハーネス、安心して!もう大丈夫よ。 ラウルよく聞きなさい、石英は今ここにはないわ、ある所に保管している。場所を教えるから自分で確認してきなさい」
「なんと? 嘘を言ってもしょうがないだろ、その娘が持っていたはずだ。だが今は持っていなかった、何処へやった」
「ならわたしが持っていないか確認するといいわ」
クラウディアは仁王立ちになり両腕を広げた。
「この女達を建物から出すなよ。それに武器を持っていないか確認しろ」
「武器は持っていません。先ほどチェックしました」
「それでは痛い目にあわせるしかないな」
母を見たハーネスが急に発言した。
「まって、わたしが本当の事を言う」
「ハーネス!」
その時、外からクラクションが鳴ると、車のエンジン音が近づいてきた。ラウルの子分は、窓から顔をのぞかせた。
「クラウスです、あの小僧らが乗っています!」
ラウルは階段を駆け下りた。
「すぐに追え、逃がすなよ」
「わかりました、今度は間違いなく確保します」
「小僧らはなにしに来たのだ。娘を取り戻しにでも来たか? だが捕まるのも時間の問題だな」
ハーネスとクラウディアがビルの窓から下をのぞくと、下でクラウスに乗ったシュナジーとマッキーがこっちを見ていた。
「彼女! 助けに来たぜ!」
部屋の中からハーネスとクラウディアも窓から車を見た。
「あの人達戻ってきたの? どうして……」
「ハーネス。クラウスは今あの子達が乗っているの?」
「そうなの、街で偶然クラウスを見かけてついていったの。そこにラウル達もいて、車と石英をあの人達に託して逃げるように言ったの。せっかく逃げ切れていたのにー。わたしの苦労も知らないで」
「何故走らせているの? あの子達」
「知らないわ、聞く暇もなかった」
二人の乗っているクラウスはラウルの組織が降りて来るタイミングを計るように待ち、囮のように車を発進させて行った。
ラウルは建物の窓からクラウスと追う車が見えなくなるのを見ていた。
「お前ら下手なまねするなよ」
ラウルはクラウディアが逃げないようの脅しながら、視線を二人にへ戻した。
「うっ、やめろ! 早まるな、グハッ!」
黒いサングラスをかけた男が子分をつり上げたまま部屋に入ってきた。
「何事か! 騒ぎすぎだ」
部屋に戻って来たラウルへ銃口は向けられた。
クラウディアはサングラスの男をじっと見ている。
「動くな。動くとこれを引く事になる」
「貴様、何者だ!」
「この女と子供を解放しろ、すぐにだ」
「どういう事だ、こいつらは私と話をしている」
男は急にラウルの足元へ銃を発砲させた。
「わかった、いう通りにする。さっさと出ていけ」
その時クラウディアが男の方を見て言った。
「モーリス? あなたモーリスなの?」
ラウルもびっくりして男の顔をよく見た。
男はサングラスを外した。
「モーリスか、今まで何処にいた。一度死んだ男よ」
「お母さんそれ本当なの? それじゃこの人お父さんなのでしょ? 生きていた。お父さんは生きているじゃない」
モーリスは、ハーネスを見て笑った。
「相変わらず同じ事をやっているなラウル、あのプロジェクトから十年ほど経つな、懲りないやつだ」
「モーリス! 昔のように手を組もう。また君がリーダーで構わない」
「ラウル、何を勘違いしている。忘れたのか? 私の研究は実現できなかった事を」
「大丈夫だ、今からでも間に合うよ」
「もうクラウスには興味がないし、お前とも話す気はない。二人を放せ」
「なんと! あの時の野心は何処にいってしまったのか。モーリス、昔のお前はそうでなかった。随分変わってしまったな」
「時間の流れで、人は少しくらい変わるだろう。そういうお前は昔と変わりなしか、たいした奴だ。とにかく二人を解放しろ」
「わかった。仕方がない、勝手に出ていけ」
銃口を向けられたラウルは動く事ができない。クラウディアとハーネスは解放され、急いでビルを出た。それを確認するとモーリスはその場からすぐに姿を消した。
「お母さん! お父さんは何処に行ったの? 下りてきたはずだよね?」
「ええ、もう降りていなくなったわ」
「どうしていなくなるの? お母さんは生きている事を知っていたの? なら何故今までこの事を黙っていたの? お父さんと何があったの?」
「ハーネス、あなたにはまだ分からない。言ってない事も沢山あるの」
一方、マッキー達は追って来るラウル組織に迫られていた。
「マッキー、奴ら今回ばかりはしぶといな。なかなか逃げきれないぜ」
「まずい。だけどあのモーリスって人、うまくやったのかな?」
「まさか彼女を助けるのに協力してくれるとは思ってもいなかったぜ」
「しかし一人でどうやって彼女を助けるんだろうね」
「心配なら戻るか?」
「やめとこう。今でこそ追いつかれそうだ、今度こそ捕まるよ」
二人は逃げ続け山奥へ入って行くが、追っ手の黒い車が何台も増えて、状況は不利になっていった。
「このまま山道を進んでも大丈夫かなぁ?」
「道がなくなりそうだ。崖から落ちないようにな」
「そういえばおじいさんがこの車は空を飛んでいたと言ったよね?」
「それ、本気にしているのか? 無理だろ!」
「そうだよね、不可能だね」
山奥へ走るにつれて道は更に狭くなっていき、道らしい道はなくなり、獣道みたいになっていった。
「シュナジー、スピードが落ちている。追いつかれるよー!」
「もう車が通れる道じゃないな。どっちに進めばいいか?」
「こっちだよ。そっちは駄目、崖だよー」
「もう無理だ! 追いつかれるぜ」
クラウスはとうとう崖っぷちに来たが止まりきれずにそこから車が落下した。
「わっ! 飛べ、飛べ、飛ぶんだ!」
ガツン!
クラウスはそのまま下まで落ちる事なく、運よく崖の途中の道に着地した。
「わっ! びっくりしたよ」
「全く飛ばなかったじゃねーか!」
「よかった、無事着地できて!」
黒い車を突き放したつもりだったが、ラウル組織もその段差を下りて来る。
「ラウル組織もすごいな、無事を喜んでいる暇はないぜ」
二人は追われながら、崖下の坂を下って行くと大きな建物を発見した。
「なんだこの建物は?」
「とりあえずこの建物の中に隠れようよ」
車庫のような入口から車ごと入ると二人は驚いた。
「ありゃ? 何台も! どうしてなのか?」
その建物は二階建ての高さはあるが、中に入ると一階のみの吹き抜けになった造りで屋根がとても高い。少しひんやりした空間の上部にある窓は枠が目立たないほど細く、光がよく入っている。そのせいか建物内にはびこる植物は、ツタがよく伸びて何処までもはっている。斬新な建物は随分前に使われなくなったのだろう、全体が赤茶けた色をしていて今は廃虚状態。マッキーはクラウスのあったビルを思い出した。
「シュナジー! 信じられるこれ?」
二人が逃げ込んだこの建物の中には、数え切れないほどのクラウス・スモービルがいくつも整列され並べてあった。そこにある車のほとんどは製造されてから、動く事ないまま放置してあるものだと二人は直感的にわかった。
「同じ物なのか。なんでここにある? それも沢山だぜ」
「何台あるんだろう。ここにある物を全て修理すれば全部走るだろうか?」
「全部修理! それは大変だよハハッ」
「まずい、男が入ってきた! ラウルの奴らだよ。ここにある物も全部持っていかれるのかな」
ラウルの組織は次々と建物の中に入ってきて、小さな部屋まで隅々と探し続けた。
「確かにこの中に逃げ込んだ! くまなく探すのだ! 見逃すな」
「はい、かしこまりました」
彼らは何十台も置かれているクラウスを無視して、マッキー達の姿を探していた。
「マッキー、奴らは何故驚かないのか?」
「シュナジー、声が大きいよ。」
「しかし普通驚くだろー、これだけの台数」
「静かに! そこまで来ているよ」
黒服の男達は一つ一つ車の間を探した。一台一台車内も確認した。あちこち歩き回りなかなか建物から出ていかない。
「クソーッ、何処へ行きやがった。もっとよく探せ! ラウル殿に怒られるだろ」
「はい!」
男達は長い間探し続けていたが諦めて行ってしまった。
「マッキー! もういいか? 行ったみたいだぞ」
マッキー達の車は、数十台並んでいる車の列に合わせて、同じように整列させ、二人は車を降りて隠れたので気づかれずに済んだ。
「いいアイディアだった。よく思いついたね。あっー! シュナジー顔が真っ黒だぞ! 笑える」
二人は横に積み上げられていたタイヤの筒の中に体を入れて隠れていた。
「マッキー、言っているお前もだぞ!」
二人は慌てて出て来ると、車のミラーで自分の顔を確認した。
「あーあ、こんなんならもっと他の隠れ場所を探せばよかったね」
「見つからなかったから結果オーライだ、それに顔が真っ黒だったから見つからなかったかもしれないしな」
「もう少しここにあるクラウスを調べて行きたいのだけど、駄目かな?」
「今は止めておこうぜ、クラウスを探しに戻って来るはずだ、ここへはあらためて違う車で来たほうがいいな」
「わかった、シュナジー」
ラウル達がいないか外まで確認して、またクラウスを走らせた。しかし山の中に入りすぎた二人は道に迷ってしまった。
「一体今は何処を走っているのだろうな?」
「地図がないと俺もわかんないよ。ここはウォータモルンだよ、どちらかというとシュナジーの方が詳しい」
「詳しいといっても初めて通る場所だ、分かる訳がないさ」
「とりあえず、このまま真っすぐ進んでみよう。来た道を戻ると奴らに見つかってしまう可能性があるからね」
二人はまた道なき道を進んだ。その場所は次第に上り坂になっていった。
「シュナジー、この道大丈夫?」
進む道は悪くなってきて、何処かにつかまっていないと頭をぶつけそうになるほど車体は揺れた。車自体も振動でもうすぐ分解してしまいそうな状態だ。
「まずいな、この道」
「やっぱり引き返した方がいいのじゃないの?」
「しかし、今来た道を戻るのは止めた方がいいな。たぶん奴らが待ち伏せしている」
「それにしてもこの道はひどすぎるよ」
クラウスの車体からはガタガタと音がなり始めた。
「なんだか嫌な予感がするな」
「車、壊れ出しているのじゃない?」
「これはまずい、もう限界だな」
車からの音はだんだんひどくなり、それでもクラウスは走り続けていたが速度も落ちてきた。
「限界なのか? また修理しないといけないな」
「修理というよりも、廃車だよ」
車はガタッ、と大きな音をたてて完全に停止してしまった。
「ほらーっ、やっぱり止まってしまったぜ。どうしよう、何処が壊れた? 車軸が折れたのか」
「あっ! 大丈夫だよシュナジー、ただのガス欠だよ」
「そうか、ただのガス欠か、よかった。びっくりしたな」
「また水を入れれば走るよ」
「また水を入れれば走るな」
「ハハハハッ」
二人は笑った。
「うん、所で水は何処に積んでいるの?」
「水か?」
「うん、水」
「ないぜ!」
「えーっ、それはおおごとじゃない。ここは山の中で何もない、もうこの車動かないよ」
「結局そうなるのか、また車をここに隠して山を降りるか?」
「無理だよ! ここは森の中、地理だってよく分からない、しかも下の通りまでどのくらいの距離があるのか見当がつかない。俺達は間違いなく遭難するよ」
「そしたら山水でも少しずつすくって補給するしかないな。根気がいるけどな」
「とりあえず森の中に、川が流れていないか探してみよう。でもあんまり遠くへはいかないようにしよう。くみ上げて車まで運ぶのも大変だし」
「ああ、わかっているよ」
水が湧き出ている所がないか、二人は二手に分かれて周辺を探した。マッキーは上の方、シュナジーは下の方。するとマッキーが森の中に人影をみた。その姿はすごく小さくラウル達でない事だけはわかった。
「何故こんな山奥に人がいるんだ?」
マッキーは人らしき影をつけていったがその足は速くなかなか追いつけない。足元を地面にとられ、思うように走れなかった。
マッキーは急ぐと足を滑らせ体ごと斜面を滑り、転げ落ちてしまった。
「あいたたた! シュナジー! こっちにきてくれよー」
「大丈夫かー」
「うん、なんとか大丈夫だ、シュナジー」
「そっちに誰かいるのか?」
「はっきりは分からないけど……誰かいたよ」
マッキーは腰をさすりながらゆっくり顔を上げると、目の前に一人の子供がいた。おそらく十才にも満たない男の子だ。
「君は誰? こんな所でなにをしているの?」
「お前、まず自分の正体を名のれ。我の挨拶はその後だ!」
「あっ、ごめん。俺はマナ村に住んでいるマッキーと言う。向こうの方にもう一人いるのはウォータモルンのシュナジーだ」
「マナ村、聞いた事ない。お前、体、大丈夫か?」
「うん、なんとか大丈夫みたいだよ」
「我はチェと言う、畑に作物を刈り取りに行く所だ!」
「畑? 刈る? こんな山奥に畑があるの?」
「森の中に畑はない! お前に場所は教えない。お前が持って行くから。今日は麦の日、家の分だけ収穫する。沢山はとらない」
「なに? 僕は取らないよ。 わざわざここに畑。ウォータモルンは謎が多いな」
「ウォータモルンでの謎が多いわけではないよ、マッキーと出会ってから不思議な事ばかり起こっているよな」
シュナジーもいつの間にか泥だらけになって、ここまで滑り降りてきていた。
「シュナジー!」
「探したぞマッキー、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、それよりも何処に行って麦を収穫するんだろう?」
「麦? 君、それは何処だ?」
「誰だ、お前は、正体を名のれ。我の挨拶はその後だ! それに教えないと言ったはず」
「あれ、お前もしかしてチェじゃないのか? 雑穀屋の」
「お前の事は知らない。だが、確かに雑穀屋をしている」
「見た事ないか? 俺はシュナジーだ。マッキー、こいつの持ってくる米はおいしいんだぜ! 他にも麦やトウモロコシもある。しかし数が少なくあまり手に入らない」
「あっ、俺もたぶん、以前に見たような気がする。ウォータモルンの市場でおじいさんと店を出していたような」
「そうそう、でもおじいさんはそこに居るだけで子供がせっせと売っているよな」
今はおじいさんの店を、チェともう少し小さい男に子だけで見ていた。
「あの場所は昔、じいが見つけたものだ。今も誰のものでもない」
「おじいさんが畑を作ったの?」
「じいが通っていた。しかし、じいは記憶を失った、言葉も失った」
おじいさんには老化による記憶障害があった。
「それで、子供達だけでおじいさんを面倒みているのか、チェは大変だな、俺の今の小銭、全部やるよ」
「お前、麦が欲しいのか? 金だけもらえない」
「いい、麦は間に合ってるよ」
「他にもあの地下に、あっ」
チェはつい口をすべらせた。
「地下って?」
チェはシュナジーの手から小銭を全部掴んで言った。
「仕方がない。お前達もついて来るのか?」
「おおぅ、ついて行くよ。面白そうだなマッキー」
「えっ? 地下で農作物を育てているのは聞いた事ないよ」
チェの歩く速度がとても速く、生い茂った森の中を二人は必死でついて行くと、何処かで見た黒い石が目の前に見えてきた。
「ん? シュナジーこの石って!」
「そうだな、あそこにあった石だな」
二人が水くみ場の峠から山に登った時に見た、黒い大きな石と同じだった。
「それじゃ、この道の先はマナ村の峠につながっているのかな?」
「でも、少し風景が違うな」
マッキーとシュナジーは黒い石のまわりを見回し、石に刻んである文字を見た。
「マッキー、やっぱりこの石は前に見た物と違うものだよ」
「なんだって? それじゃこの角張った黒い石は二つあるのか?」
「この石が目印、ここが入り口だ。ここから入る、気をつけろ」
「入り口? ここがか?」
チェは地割れでできた、黒い石と地面の泥の隙間に躊躇なく入り込んでいった。
「狭いね、本当にここの先にあるのかな?」
「何処か先の畑に続くトンネルの抜け道じゃないか?」
「違う。心配いらない、この先だ、地下に入る」
足場の悪い所を少しずつ下って行く。収穫する為の通路とはとても思えない、収穫する為の通路とはとても思えないほど、自然のままの状態が残っている。人の手が入っているようには見えなかった。シュナジーは虫が嫌で周りにいる虫を過剰に気にしながら進んだ。ここは鍾乳洞などと違い、地盤が沈下してできたようだ。
三人は中へ進んで行くと暗くなるどころか、逆に奥の方が明るくなっている。
「向こう側の外に出たの?」
「ほんと妙に明るいよな? 地下で炎でも灯しているのか?」
「ここに太陽が出ている。ここで米も麦も育つ」
「えっ、太陽だって? 訳が分からないよ」
明るい方へ進み、とても広い空間に出た。そこは稲穂が実をつけ、頭が垂れ下がっているほど、米が所狭しに実っている。チェは端の岩場つたいに手際よく進む。もち論二人の足は柔らかい土にとられてもたついた。奥の方へ歩いて行くと急に段が高くなっていて、そこの土は渇いていて麦がなっている。
さっきからここの空間を照らしているのが何なのか気になってはいるが、その正体が解らない。この地低空間の天井部分が発光しているようだ。
「シュナジー、ここの空間って不思議だね」
「ウォータモルンにもこんな所があったなんてな。山奥に誰が作ったのか?」
「ここはじいしか分からない場所、だれも知らない」
「チェはいつもここで収穫するから年中ものを売る事ができていたのか」
「ねえ君、この空間はとても広いようだけど、先の方まで続いているの?」
「ずっと奥まである。先には出口があったけど今は崩れて塞がって進めない。その先に我は一度も行った事ない」
「そうなんだ、もしかしたら、もう一つの黒い石の所へつながっているのかな」
「まさか、マッキーそれはないだろ!」
「今日はこれだけ。山をおりる」
「ああ、ちょっと待ってくれ! マッキー、ちょうどそこに水たまりがある。農作物用か? これでもクラウスに入れないとな」
地底空間にある作物の給水源になっているようだ。
「おい、チェ。ここの水きれいか? くんでもいいか?」
「構わない。ただの水だ!」
二人はクラウスに入れる燃料として、水をくみ上げた。水自体は奇麗だったがくみ上げる時に底に沈んでいる泥も巻き上げて、少し濁ってしまう。
「大丈夫かなシュナジー、あんまり奇麗じゃないよ」
「水はここにしかないみたいだ。出来るだけきれいにしてみよう」
シュナジーは着ていたシャツで、泥が取れるようにその水を布でこした」
「俺のシャツ、泥だらけだな!」
たっぷりくみ上げた二人は、土に突っ込んで足をふらつかせながら、黒い石の所まで戻り外に出た。
「ふぁ~、やっぱり実際の外の明かりは違うぜ。地下は自然の明かりとは違った」
「シュナジー、あの明かりのエネルギーは何処から供給しているのだろうか」
「そういえば明かりの正体が全くわからなかったな」
「あそこは常に明るい。壁が光るのだ。それでは、我は帰るぞ」
「おおう、チェ、ありがとう。気をつけて帰れよ」
チェはさっさと山を下りて行った。
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