第28話 随伴飛行~エスコート~

「あれか」

 ノルト基地を飛び出して1時間を過ぎたころだった。ロイは約束していた空域に差し掛かったところで、空を飛ぶ影をその目にとらえた。肉眼には点にしか見えない。もし濃い雲が背景にあれば、見逃してしまっても仕方ないほどだ。ロイは、装備していた小銃の照準器を飛行眼鏡越しに覗き見た。風が体を揺らす中、その点を捉えるのにやや手こずるが、その外観から民間機であることがわかった。

 ピカッ、ピカッ

 こちらに向けて規則的に光が点滅した。ロイは小型の投光器を構えると、それに答えた。まもなく飛行機が高度を下げ始める。これ幸いとロイが加速した。じわりじわりと飛行機との距離が縮まり、その輪郭、機体の色、特徴とが分かってきた中で、

「ん?」

 すでに後部ハッチが開いていることに違和感を覚えた。乗り込んでくれということなのだろうが、牽引ワイヤーが見当たらない。このような状況で小型機に着艦する訓練は受けたことがなかった。

 そうこうして戸惑っていると、

「どーん!」

 突然全身が揺れ、がくんと高度を下げられた。バランスを崩し、危うく首を痛めそうになる。

「ぐ……!」

 直前に聞こえた声からして、相手は火を見るよりも明らかだった。

「……っ! 危ないじゃないか!」

 ロイの翼に乗るようにして取りついているミーティアが、満面の笑みでロイのことを見下ろしていた。

「はっはっはー! 油断が過ぎるんじゃないかな?」

 大きな飛行眼鏡に耳には小さな通信機、前身は青のフライトスーツに包まれたミーティアがそこにいた。

「飛んでいる最中に飛び掛かられるなんて誰が予想できるか!」

「ん? 前に旧市街でやったじゃん。襲われそうなときに脇からどーんって」

「それも含めてだ、危ないから早く離れてくれ!」

「ちぇー」

 ミーティアは不満そうに足を離し、ふわりを飛びあがってから手も放した。並んで飛ぶ。

「あ! ちょっと待って」

 ミーティアはロイに目配せしながら耳の無線機を示し、続けていくつかの数字を指で示した。ロイが理解したように自分が着けている無線機を操作する。両耳をすっぽりと覆う無線機は飛行中の騒音を大きく軽減してくれるが、無線を使わないと風の音も相まって周りの音が相当聞こえなくなってしまう。

「聞こえるかい?」

 ミーティアの耳元にくっきりとした輪郭の声が届く。

『うん、いい感じ。そっちは?』

「大丈夫だ、感度良好」

『だってさ、アラン』

『ロイ君』

 飛行機からアランの声がふたりに届いた。

『無事に合流できてよかった。問題なかったかい?』

「はい、機翼単体での行動半径を考えれば、まさか森まで遠出をしているとは思われていないでしょう。遅くなったとしても、ちょっとしたトラブルだと伝えておきます」

『助かる。では、機内に入ってくれ。早速西へ向かおう』

「大丈夫です、このまま前を先導します。善は急げです」

『いいのかい? 何があるのかわからないのだから、疲れは残すべきではないと思うんだが』

「まだ大丈夫です。さあ行きましょう。まずはここから西南西へ15キロです」

『おっ、ロイも調子が上がってきたねー。私もこのまま飛んでいっちゃお』

 ミーティアが機嫌が良さそうにくるりくるりとまわってみせた。

『2人とも……』

 何かを言おうとしたアランだったが、観念したように息を吐いた。

『遠足に向かっているわけじゃないんだからな。それと、機体のペラより前には出ないように』

 機体はプロペラの回転を増すと、緩やかにその体を傾けた。ロイが示す航路へ舵を向ける。ミーティアとロイのふたりは、飛行機のやや後ろを並ぶようにして随伴飛行した。

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