小さな大冒険
第23話 こんなのが作戦会議?
「それで、僕ができることはなんでしょうか?」
ロイが話を切り出した。
「そりゃもちろん、森への行き方でしょ!」
「まずは、干渉空域における軍の警備ルートを教えてくれ。飛行機で行ける空路を探したいんだ。警備の隙間を縫って、森へ向かう」
「警備の隙間を、か……」
ロイが小さく唸った。
「ありゃ? もしかして難しい?」
「いえ、出来る。僕がノルトに来たのも、警備任務に就くという目的もあった。警備ルートも、大まかだけど把握している」
「やった!」
ミーティアが小さく拳を握った。
「ふーん。俺ぁ気ままに森からこっちに来てるけど、ヒトが森に来るってのぁタイヘンなんだなぁ」と、ルルカが独りごちたあと、小さくあくびをした。ナッツをたらふく食べて眠気がやってきたらしい。
「それにしても、森に呼ばれた先に何があるんでしょう」
アランが隣りに座るミーティアを見やって言った。
「全くわからない。ただこいつが、事情を知りたいなら来てみろって言われたから行くのさ」
「随分、思い切った行動に出ますね」
「お呼ばれしたからにはお邪魔しなきゃね。ついでお菓子ご馳走にならなきゃ」
流石にお茶がしたいから呼んだわけじゃないだろ、という言葉を飲み込んだロイだった。
「それにしても、森までの道中は俺がどうにかするとして、森に向かってからどうするんですか? この状況だ。向こうだって防空は万全でしょう。ヘタに近づいて無事である保証もない。ルルカ君はああいったが、僕はこの誘いが罠かもしれない可能性を疑っている」
「むぅ。罠ってなにさ、あっちが嘘つきだって言いたいの?」
ミーティアが頬を膨らませて少しだけむくれた。だがそれをアランがたしなめる。
「人の意見というのは大切だ。否定できる材料がない以上、念頭に入れる必要がある」
「つまりぃ……、ドユこと?」
「ありうる、ってことだ」
「むぅぅ」
ミーティアがもっとむくれた。それでも、
「ま、行かなきゃどうなるかわかんないだし、そのへんの細かいことを考えるのは後にしようよ」
実にあっけらかんと言ってのけた。アランは呆れたような、納得したようなため息を小さくつくと、
「それもそうだな。案外、ミーティアの言うようにお茶菓子が待っているかもしれない。もしそうじゃなかったとしても……」
「じゃなかったとしても?」
「その時は全力でに逃げればいい」
「ん、まさしく」
ミーティアが大きく頷く。この単純思考に、ロイは頭を抱えそうになった。呆れているのではない。自分自身が、うだうだと考えを巡らせては杞憂に終わってしまうたちである一方で、これだけあっさりと決断を下してしまえる人もいるのだ。恥ずかしさやらもどかしさやらで目の前が真っ白になりそうだった。
「そ、それではですが、僕は基地に戻って、警備網の確認をします。合流は明日の早朝、北西15キロの上空でどうでしょう。ちょうど、早朝の交代の時間で一番安全かと思います。飛行機でも見つからないかと」
「君はその時間に抜け出せるのかい?」
「先日の戦闘後、機翼のメンテナンスをしたのですが、調整の名目で飛行許可が出ています。あとはどうとでもなります」
「それはありがたい」
「ふむふむ、これで行けるめどは立ったね
ミーティアが満足げに腕を組んでうなずくと、
「行ってからのことは行ってから考えるとして……、じゃあ後は問題なしだね。よし完璧」
「それって完璧か?」
ミーティアの言葉に思わずロイが口をはさむが、
「だって、これ以上は話すことないでしょ? 話がまとまったなら問題はなし。問題がないなら完璧。これぞ完璧理論、えっへん」
ロイは、頭の中をキュッと締め上げていた緊張と思考の糸がぷつりと切れる気がして、思わず大きく息を吐いた。
「アランさん、ミーティアってのは、いつもこのような具合なんですか?」
「このような具合だ」
これが、極秘裏に探っている青ツバメの正体だと思うと呆れてしまう。どう報告しようと失笑をもらうのがオチだな。
「どうあれ話はまとまった。あとは明日のになってからだ。ミーティア、ロイ君。ほかに気になることはあるかい?」
「なーし」
「ありません」
そのとき、夕刻を知らせる鐘の音が街に響いた。窓の外を見ると、空はすでに茜色に染まっていた。迷ったり走り迷ったりと、意外と時間は過ぎていたようだ。
「しまった。そろそろ基地に戻らなくては」
ロイが席を立ち上がった。その音に船を漕いでいたルルカが目を覚ました。
「ロイ君、よければ一緒に夕食でもどうだい。協力してくれるお礼もしたい」
「そうだよ、アランの料理は美味しいんだよー」
「ありがとうございます。ですが調べるためにも早く戻らなくてはいけません。それに、あまりに遅くなると検問所で理由を問われます。下手な波風は立てたくありませんし」
「ふむ、そうか。では、またの機会にしよう」
「楽しみにしています」
「むう、つまらないの」
ミーティアが不満そうにむくれると、立ち上がった。
「そうだ、だったら旧市街の外れまで案内するよ。どうせこの辺の道もわかってないでしょ?」
「いいのかい? 助かるよ、ありがとう」
「ミーティア、これから暗くなるっていうのに外を出歩くのは……」
アランの心配を他所に、ミーティアはあっけらかんとしていた。
「もう、アランは過保護すぎるよぉ。私だってもう十六歳なんだから、立派なレディなのよ」
え゛っ、じゅうろく……っ?
「ちょーっとロイ君、そのマジかよって反応はどういう意味かなぁ?」
「え、あ、いや何でもないですスミマセン……」
ミーティアの眼光の鋭さにに冷や汗を流したロイは、思わず視線をそらした。
「ほら、早くしないと私たちの晩ごはんも遅くなるんだから。ロイ行くよ」
そう言い残し、ミーティアが先に玄関へ向かった。
「ロイ君」
家を後にしようとしたロイを、アランが呼び止めた。
「真実を知りたいという点で、私たちときみとの利害は一致している。しかしだ。もし仮に、きみが心変わりをして、私たちのことを軍部に報告しようとしてもだ。イチ平民が出来ることなどたかが知れていると笑われて終わりだろう。それを忘れないでくれ」
「心配しないでください。あなた達に協力したほうが、真実に一番近い。その考えは変わりません」
「そういってくれるとありがたい」
すると、アランは少し緊張した面持ちになると、
「もう一つ聞きたいことがある。……軍は、ミーティアのことを探している様子だったかい?」
マーシャル卿の言葉を思い出した。何と言おうか悩んだが、ミーティアが階段を下りた先に行ってしまっていることを確認すると、
「先の戦闘の情報整理が追い付いていないので、そんな余裕はないようです」
そうとだけ答えた。嘘ではなかった。
家の外で、ミーティアが呼ぶ声がした。ロイは一礼し、家を後にした。
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