第15話 突然の終息
「ふひー、ここはひとまずってところかな。次っ」
ミーティアは徐々に高度を上げながら、飛行眼鏡をずらして辺りを見渡した。戦闘はまだ続いているが、拮抗状態に推移していた。そんな中、突如として世界が暗転し、その轟音が空に轟いた。
「うわぁぁ、なにぃいっ――!」
空が震える。空気が震え、体が揺さぶられる。空に、一筋の雲と、その先に広がる爆炎、白煙。雲の筋は、ノルト旧市街を超えてはるか遠くのノルト開発都市部の向こうから伸びていた。
「ちょ、これってなになになんなの!?」
なんとか姿勢を戻したミーティアがたまらず叫んだ。アランの通信が入る。
『艦砲射撃だ! それも対空戦艦クラス、気をつけろミーティア、高度を下げるんだ!』
アランの警告と同時に、どこからともなく鳥の雄叫びが響き渡り、空にこだました。その途端、戦闘状況が一変する。
「ミーティア、無事そうじゃんけ」
気づくと、ルルカが側にやってきていた。
「ねえ、今の鳥の声ってなに?」
「いわゆる撤退信号だよ。もうお開きだってさ」
なるほど確かに。鳥たちは踵を返して旧市街上空から移動を始めていた。
「なにがどうしてこんなことになったかは知んねえけど、とにかく俺たちも逃げんぞ。今の俺たちがやってることって、反乱行為そのものだしな」
「そうだね、こういうときは、うんたらかんたら逃げるがなんたら、ってやつですな」
「たらたらばっっかで意味わかんねえよ。いっから降りるぞ」
いまだ喧騒の色が濃い街の中に、ふたりは静かに紛れていき、やがて空から見えなくなった。
『各員へ通達。現在、所属不明勢力が撤退を開始。ノルト旧市街から大草原を抜け、干渉空域へ向かっている模様。作戦継続可能な部隊は、対象勢力を追跡し、その目的を調査せよ。補給が必要な者は、ノルト空軍基地にて補給を受け、追跡を続行せよ。繰り返す。各員へ通達――』
ロイの無線機に、軍専用回線で司令が繰り返される。だが間もなく新たに通信が入った。
『各員へ通達。先程の司令は撤回。各員、ノルト上空の警備に当たれ。各員、ノルト上空の――』
ここで通信が途絶え、新たな声が届けられた。しゃがれた、それでいて重々しい老人の声だった。
『対空戦艦オーディナル・プルトニーより各員。国防公爵のヘンリー・マーシャルだ。貴官らの働き、素晴らしいものであった。貴官らの力は、国家のため、国民のためにあるべきもの。今は市民保護のために尽力してくれ。敵勢力の追跡は今重要なことではない。現空域の安全確保に努めてくれ』
そこで通信は途切れた。その途端、軍の共同回線に様々な声が飛び交った。
『今の声、本当にヘンリー・マーシャル卿か!?』
『間違いない。あの声は、愛国卿のものだ!』
『もしや、春の式典の最中、駆けつけてくれたのか!』
歓声が混線する。呼応するように、直ちに隊員たちが動いた。
「助かったのか……」
ロイはすぐに行動に移せずにいた。突然の戦闘、組織的撤退。国防公爵の存在。……加えて、あの娘の存在。
突然の出来事が重なりすぎだ。
「何が起ころうとしているんだ」
西の空、大草原の空がやけに澄み渡っているのが、ロイの胸をざわつかせた。
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