第9話 空対空戦

 翼長五メートルを超える鳥の大群が、大草原を抜け、旧市街の上空へとなだれ込もうとしていた。姿形や羽毛の色に多少の違いがあるものの、すべての個体に図太い嘴、強靭な爪が怪しく光る。その翼の羽根は、触れるすべてのものを切り裂かんとする鋭利さをもって風を捉えていた。

 三人一組の空騎士がその後ろを追う。その手には連射式の小銃を抱えていた。

「本部へ! こちら第十八警邏小隊、ノルト旧市街上空へ突入した未所属飛行集団を追跡中! 鳥の中型、識別コード“トビ”多数! 数的不利にあり。増援を乞う!」

『こちら本部、近くで警邏活動を行っていた三小隊と十一小隊も対応に向かわせた。追加の増援は現在編成中である。それまで持ちこたえろ』

「持ちこたえろだって? 相手はトビだぞ! 中型の鳥だ! 警邏装備の小銃だけではどうにもならない、せめて装備だけでも整えさせてくれ!」

『それは許可できない。増援が到着するまで、該当空域の安全を死守せよ』

 それっきり通信が途絶えた。

「くぞ! 連中、二十年ぶりに戦争でも始めるつもりか!」

「小隊長、どうしますか! この数、我々だけでは到底対応できません! それにこんな豆鉄砲では――」

「どうもこうもない! 連中の目的は分からないが、ここは俺達の空だ」

「で、ですが小隊長! 私は、対鳥対空戦闘の実戦経験がありません」

 若い隊員が焦燥感に包まれた表情を浮かべていた。

「甘ったれるな! ……俺だって初めてだ」

 二十年という月日によって、当時の戦争経験者はその殆どが第一線を退いていたのが現実だった。

「やつらの目的はわからないが、とにかく進行を食い止める、頭を押さえるぞ! 各員、銃の装填確認! 俺が先行する! ひとりは俺に続け。もうひとりは高度を維持して待機し、目標が回避行動をとったところで頭を押さえろ。わかるな、すべて訓練どおりだ!」

 二人が急降下を始めた。黒点の中で最も突出している一羽に向かって突撃する。

 狙われている事に気づいた鳥が、建物すれすれまで高度を下げ旧市街へ突入した。二人が後ろへ付き、銃口を定める。的は大きい。しかし、圧倒的な機動力で巧みに回避行動を続けるために、捉えられない。

「とにかく撃て!上空に誘い込んで失速させるぞ!」

「しかし、流れ弾が住民に!」

「所詮平民の街だ、構うな!」

 二人は鳥の進行方向を狙い、撃ち続けた。鳥はさらに高度を下げながら加速しつつ、身を翻して回避する。流れ弾が建物に当たり、弾ける。破片が鳥に直撃するが、見向きもしないで飛び続けていた。

 そのとき、目の前に一際背の高い建物が現れた。

「退路を塞げ!」

 二人がさらに銃弾を放った。鳥は退路を塞がれ、建物に沿って上空へと回避を行う。

「今だ!」

 小隊長の掛け声とともに、上空で待機していたもう一人が、半身ほどある刀剣で切りかかった。

 しかし、

「!?」

 隊員は言葉を失った。鳥は、逆上がりするようにくるりと身をひねり、その刃を脚で掴んだのだ。

 鳥が口を開く。

「ふむ、いかにも教本通りの立ち回りだ……。そして、そんなことで我々に挑もうなど片腹痛い」

 鳥は、残りの脚で目の前の隊員の体を掴むと、建物の壁に叩きつけた。その反動を利用し、再び急降下を始める。追随していた二人の隊員の反応が遅れる。鳥は、その巨大な翼で二人を薙いだ。ひとりが直撃、機翼を粉々に大破された。もうひとりは既のところで回避するも、その突風に煽られ錐揉みとなって墜ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る