第8話 十年目の目標

 一時間ぶりに戻ってきた旧市街の商店街は、朝の活気の盛りをむかえていた。

 露天が軒を連ねる朝市の広場を、ルルカを肩に乗せたミーティアが行く。時折馴染みのお店から次々と声がかかる。

「やあやあ、結構な人気者だねえ」

「そりゃあね。何年暮らしてると思ってるのさ」

 そう力強く言った後、ふと虚空を見やり、「もう十年かぁ」と呟いた。

「んじゃ、その記念すべき十年目の目標は?」

 ルルカの問いに、ミーティアは頭を抱えた。

「んん~、それなんだよねぇ」

「そんな悩むことじゃないっしょ。したいことを決めれるだけじゃん」

「いやあね。目標って、先の予定を決めるってことでしょ? 私って、今まで毎日なんとかしよって考えてばっかだったからさ。いきなりそう言われてもねぇ」

 広場を抜け、再び路地に入っていく。年代を重ねた建物に囲まれた中、見上げた先にある狭い空が映える。

「空、飛んでみたいなぁ……」

 今朝の光景が自分に重なる。

「んんー、そいつぁ難しい話だな。鳥の俺だって知ってるぞ。アレって軍の専売特許っしょ」

「そうなんだよねえ。アランは、『車がそうだったように、時代のニーズが高まればいずれ一般にも浸透する』って言い張ってるけど……」

「今使ってるのは、軍人か空賊ぐらいなもんだしなー」

「そうなんだよねぇ」

「ま、気長に待ってれば案外すぐ来るんじゃねえの。目標って、そういうもんだで」

「そんな受け身の目標って、なんだか物足りないような…」

「その心がけがあるなら大丈夫っしょ。わからないけど」

「んもう、またテキトーなこと言ってさ」

 二人が笑い合いながら、路地を抜け、通りに抜けようとしたその時だった。

 空に轟音が轟いた。

 街に、路地に反響する。

 ミーティアは思わず耳を抑えてかがみ込んだ。ミーティアだけではない、通りを歩く人たちも同じだ。

「な、なに!? なんの音!?」

 反響が止む。そこにいる誰もが不安の表情を浮かべる中、唯一異なる表情をまとっていたのはルルカだった。

「今のは、警告声音……! どうしてこんな場所で、てかなんで――!」

「声音って、これルルカの仲間の声!?」

 その直後、巨大な影がふたりの上空を飛び抜けた。

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