第1話 いつもの朝。だけど特別な朝1
陽光が、朝を伝えた。
東から昇った日が、小高い丘に成り立つ、旧市街を彩るレンガを照らした。明暗様々な色のレンガは、朝日を受けて、すべてが輝きを放っていた。
陽はさらに昇り、まもなく、旧市街の外れから地平線まで広がる大草原を照らした。柔らかな緑色が、西風に揺れ動いて波を作った。陽はぐんぐん昇る。まもなく、複雑に入り組む旧市街の隅々まで光を届けた。
そろそろ、人々が活動を始めようかという早朝を迎えたときだった。
旧市街に並ぶ建物の一つ。一階がガレージになっている二階建ての住宅の、二階部分に設けられた窓の一つに掛けられていたカーテンが元気よく開かれた。
小柄な少女が、威風堂々そのものを体現するかのように立っていた。その妙に自身に満ちた表情は、まるで今日の朝日が自分のためにあると信じて疑わないようである。
そして間もなく、
「まぶしいっ!」
十分に朝日を浴びると、開口一番、元気よく踵を返し、部屋を出てリビングへ向かった。壁にかかっている買い物鞄を手に取ると、玄関へ向かい、一階へ降り、家の外へ飛び出した。
朝の冷気が少女の体を包む。凛とした冷たさが、かすかな気だるさを追い払ってしまう。心地よく、身が引き締まる。気持ちがいい。
朝露が作った小さな水たまりを飛び越えながら軽やかに駆けていく。人影はなく、通りの端から端まで少女の自由だった。
やがて、朝市通りに入ると雰囲気が変わる。お店の準備をする声で活気にあふれていた。
「おばさん、おじさん。やっほぉー」
「ミーティアちゃん、おはよう。今日もアンタが一番乗りだよ」
ミーティアと呼ばれた小柄な少女は、一つの八百屋の店先で足を止めた。店先に野菜を並べていた中年の女性と、箱に入った野菜を店の奥から運んでいた中年の男性が言葉を返した。得意げに胸を張ると、
「へっへーん。早起きだったら任せなさいな。おばさん、いつものお願いね」
そして、カウンターにお金を置いた。
「あいよ」
「それと。はいこれ、アランから預かったお仕事」
そう言い、今度は買い物鞄の中から懐中時計を取り出してお金の横に置いた。
「あら、ありがとう! ……あぁよかった。ちゃんと元通りに動いてるわぁ。さすがはウォリス修理工房ね。時計の修理なんて器用なことを頼めるの、この街じゃあミーティアちゃんのお兄さんしかいないからねぇ」
「え? あ、いや、お兄さんと言われると――」
「あれ、年の離れたお兄さんじゃなかったっけ? それとも年の近いお父さんだったかしら? ありゃあ、どっちだったかしら? 最近物忘れがひどくってねえ」
「うぅーどっちって言われるとそのー。えへへ」
「おいやめねぇか、んなことはこの街じゃあ関係ねえだろぃ」
中年の男性が店先までやってくると、いかにも重そうな箱をカウンターに置いた。
「ミーティアちゃん、うちの家内がすまねえなぁ。口ばっか回るもんで、悪気はないんだ。これをやるから気を悪くしないでくれ」
箱の中から幾つかの果物をカウンターに置いた。
「うっひゃーおじさんありがとう! これはいい誕生日プレゼントになるよ」
「ん、おめえ誕生日か。ならもう一個やるよ」
「ふぅー! おじさんイカしてるぅー」
ミーティアは予定よりも重くなった鞄を重そうに抱えると、「ありがとね」と言葉を残し、次の買い物へ向かった。
「うーん、年の離れたお兄さんだったかしら……年の近いお父さんだったかしら……」
ミーティアがいなくなったあと、まだ独りごちていた女性に、男性が言った。
「おめぇまだ言ってんのか。そんなの関係ねえだろ。ここ、ノルト旧市街は、色んなやつがいて、そういう奴らも含めてこの街なんだ」
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