空の世界
プロローグ
夜も開けぬ空を、人が三人、編隊を組んで飛んでいた。
背には、金属製の翼が添えられている。丁度背中に当たる場所には、推進器がついていた。金属の翼から、足に向かって細いワイヤーが伸びている。足首をわずかに動かしながら、きれいに隊列を保ちつつ、空を飛んでいた。服装は全員共通していて、頭には風防とインカムを装着し、全身を装飾が施された飛行用のフライトスーツで覆っていた。さらに銃器を携帯していた。軽量化が施された小銃が、いつでも撃てる状態で下げられていた。
先頭を飛ぶ人物が、通信機に告げた。
『本部、こちら、第三機航師団特化遊撃群第十八小隊。指定されたチェックポイントを通過。これより領空示威行為を開始する』
『こちら本部。了解した。予定通り、緩衝空域に侵入してくれ。一定時間経過後は、速やかに空域を離脱せよ』
『了解。通信終了』
三人は西へ飛び続けた。間もなく、東の空から朝日が顔を出した。陽光が世界に広がる。三人の真下には、なだらかな草原が、どこまでも広がっていた。陽光が指す西の地平線には、大木からなる大森林が壁のように佇んでいる。
「
先頭を飛ぶ一人が、大森林を見て忌々しく呟いた。それから三人は、体を傾け、ゆるやかに旋回を開始した。三人の飛行進路が、初めの状態からちょうど九十度になったときだった。
西の空が、わずかに歪んだ。
直後、猛烈な突風が三人を襲い、内一人の片翼を“へし折った”。大きくバランスを崩すと、瞬く間に墜ちていった。
『本部へ、連中に見つかった、『かまいたち』を受けた! 一名が墜落した!』
『こちら本部。直ちに救援を送る。状況を確認し、可能ならば現在の装備で対処せよ』
無事な二人が、小銃を手に取り、安全装置を外した。突風が飛んできた方角の空を睨む。青みを帯びてきた西の空に、ひとつの影が見えた。左右に細長く、両端が上下に揺れ動いている。
『隊長、あれは……っ!』
その影を見るや、一人が眼を丸くすると、通信機に叫んだ。
『大型種だ! 二十メートル近い!』
ケタ違いの大きさを誇る怪鳥が、大森林を背にしてまっすぐに接近してきていた。その報告に、通信機の向こうの人物も息を飲んだ。
『ありえない、再度報告せよ』
『あんなでかいの、どうして間違えることがある! くそ、とてもじゃないが話にならない、撤退する!』
『それはならない。作戦通り、該当空域にて待機せよ』
『あんな化け物相手に豆鉄砲で戦えっていうのか!』
『我々、飛行騎士隊に戦わずして撤退することは許されない。貴族ならば、騎士道を貫け。作戦を遂行せよ』
通信は途絶えた。
「どうかしてる!」
その時、怪鳥は大きく高度をとった。そこから落下速度を味方にし、加速する。
『来るぞ! 回避!』
二人は、壁を蹴るかのように大きく進行方向を変えた。怪鳥が大きく翼を振る。再び大気が歪んだ。
『かまいたちだ!』
回避行動を続ける。しかし、後続の隊員が風に捉まった。翼が四散する。為す術なく、地面へと吸い込まれていった。残された最後の一人が、小銃を怪鳥に向けて、立て続けに撃った。弾丸は怪鳥の体から翼へと、切り上げるように命中した。しかし、怪鳥に手傷を与えるどころか、羽根を貫くこともできない。
一旦距離を取らなければ。隊員がそう思った時には、怪鳥の脚が目の前にあった。体ごと翼を鷲掴みされると、たやすく握りつぶされた。
「家禽が……っ」
進行方向を変えて飛び去っていく怪鳥を見ながら、跡形もなくへし折られた隊員は忌々しく呟き、堕ちていった。
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