第3話
部屋に入った瞬間、志真の顔が大きく歪んだ。何か隠しているのだろうか。
「今日、学校でカウンセリングを行ったんだ。それで心配だから石月くんのことを見てほしいって言われたんだけど」
あえて隠していることを聞かずに、笑いかけてみる。
「何かなやみごとでもあるのかな?」
志真の顔がひきつった。間違えない。確信犯だ。
「別に。何もないけど」
「けど?」
「何もないです」
「そっかぁ」
上手く聞き出せない。
どうしたら良いだろうか。家出しているということは、家に帰りたくないのだろう。そこを突いてみるのも良いかもしれない。
「親御さんから行方不明届が出てるから、お母さんに連絡して———」
「ごめんなさい」
志真は突如頭を下げた。僕は驚いたが、隠し事に気付いたフリをして平然を装う。
「先生、もう知ってるんでしょ」
何も知らない。が、にっこりと笑ってみせる。
何を言うだろうか。興味と不安が胸に広がる。
「俺と秋奈と絋がりかを殺したこと」
えっ?殺した?
1度耳を疑ったが、すぐ納得できた。
ああ。この子達もやってしまったんだ。
「何があったのかな?」
慎重に探りを入れる。
「先生だって分かってるでしょ、サクラ教を信じない人がいることくらい。俺だって信じてない。けど、逃げられないんだ」
みんなサクラ教を信じているのか。それは学校を訪れたとき、最初に思ったことだった。
やっぱり、親が信じるからといって子も信じるかというとそうではないのか。思春期の子供なら尚更だ。
「でも、りかは逃げようとした。俺は当然止めた。だって、バレたらやばいし、逃げる先もないから。それでもみ合いになって…」
そこまで言うと志真は俯いた。学校の階段で見た血痕と繋がった。
もみ合いになった場所は階段の上。りかは転落し、打ちどころが悪かったのだろう。
可哀想だ、と思った。運悪く助からなかったりかも、助けようとして殺してしまった志真達も。
僕は少し考えたのちこう言った。
「これから知人の警察に話してみる。悪意がないとはいえ、やってしまったことには責任を持つべきだと思う」
志真は目を開き、顎を少し引いてから頷いた。
「……はい。分かりました」
少し嘘をついたが、自供したのは志真だ。若干の罪悪感はあるものの、事実がわかってよかった。
僕は「後でまた来る」と言い残し家を出た。スマホに実島と表示された連絡先に電話をかける。
「あ———」
「事務所で話しましょう」
ツー ツー ツー
切れた。
あそこは僕の事務所だ。勝手に決めないで欲しい。と思いつつ、足は事務所に向かう。
10分もしないうちに事務所が見えてきた。まだ実島は来ていないか。まあ、先に支度をするとしよう。
ガチャ
ドアを開けて中に入る。
「こんにちわ」
「うわっ!」
誰もいないと思っていた所から声が聞こえて
驚く。
「なっ、なんでいるんですかっ」
「言ったじゃないですか。事務所で待ち合わせようって」
「そっ、そうじゃなくって。何で…」
全身に寒気が走る。
「ねえ、探偵さん。本当に事件を解決する時ってこんなに上手くいくと思います?」
実島は唐突に質問した。
「どう言う意味ですか?」
「そのまんまです。……じゃあ、質問を変えましょう。僕の顔、見たことありませんか?」
ん!最初に思った!
やっぱり知ってるんだ。でも、思い出せない。思い出したくない気がする。
僕はしばし沈黙する。
「……しょうがないですね。兄から返してってお願いされました」
そう言って実島は鍵を渡した。
はっ……知ってる。この人知ってる。だってこの鍵……。あの人だ。
「気づかれましたか?」
そう言って、実島はニヤリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます