楚茨(引用2:見事な祭祀と宴)

楚茨そし



楚楚者茨そそしゃし 言抽其棘げんちゅうききょく

自昔何為じせきかい 我蓺黍稷かしつしょしょく

我黍與與がしょよよ 我稷翼翼がしょくよくよく

我倉既盈がそうきえい 我庾維憶がゆいおく

以為酒食じいしゅしょく 以饗以祀じきょうじし

以妥以侑じすいじゆう 以介景福じかいけいふく

 繁茂するイバラを抜き出し、取り除く。

 先祖代々より続くこの労苦、

 すべてはキビを植えたいがため。

 ウルキビは良く茂り、

 モチキビは立派に葉を伸ばす。

 それらを刈り入れ、蔵を満たす。

 積んである穂も、十万にも届こう。

 これらを用いて酒を、食事を作る。

 そして神前に供えるのである。

 先祖の霊よ、これらを受け取り、

 我が一族に福をもたらしたまえ。


濟濟蹌蹌せいせいそうそう 絜爾牛羊けいじぎゅうよう

以往烝嘗じおうじょうしょう

或剝或亨いくはくいくほう 或肆或將いくしいくしょう 祝祭于祊しゅくさいうほう

祀事孔明しじこうめい 先祖是皇せんそぜこう

神保是饗しんほぜきょう 孝孫有慶こうそんゆうけい

報以介福ほうじかいふく 萬壽無疆ばんじゅむきょう

 立派な身なりの祭祀者、

 そのそばには清められた牛や羊。

 それらは秋や冬の祭りに供えられる。

 皮をはいだものや、煮詰めたもの、

 或いは皿に盛られ、或いは供えられる。

 神官が廟に供え物を置けば、

 祭祀の式辞は見事に整う。

 先祖の霊もやってこよう、

 神々もまた祭りを楽しんでおろう。

 祭祀者、すなわち孝行者の子孫には、

 大いなる祝福があるのだろう。

 素晴らしき祭祀に、神々が報いる。

 ああ、万年の祝福を。


執爨踖踖しつさんせきせき 為俎孔碩いしょこうせき

或燔或炙いくはんいくしゃ 君婦莫莫くんふばくばく

為豆孔庶いとうこうしょ 為賓為客いひんいきゃく

獻酬交錯けんしゅうこうさく 禮儀卒度らいぎそつど

笑語卒獲しょうごそつかく 神保是格しんほぜかく

報以介福ほうじかいふく 萬壽攸酢ばんじゅゆうさく

 きびきびと竈で飯を炊く。

 膳に並ぶ料理は満ち満ちる。

 あるいは直火で、あるいは遠火で。

 祭祀者の妻は物静かに仕事をする。

 食膳に並ぶ料理は多量。

 すべては神のため、客のため。

 身分の高低が入り混じり、杯を交わす。

 しかし皆儀礼に適った振る舞い。

 談笑もまた儀礼に適うものであり、

 その喜びに、神も引き寄せられよう。 

 素晴らしき祭祀に、神々が報いる。

 ああ、万年の祝福を。


我孔熯矣がこうぜんいー 式禮莫愆しょくらいばくけん

工祝致告こうしゅくちこく 徂賚孝孫しょらいこうそん

苾芬孝祀ひつふんこうし 神嗜飲食しんしいんしょく

卜爾百福ぼくじひゃくふく 如幾如式じょいくじょしょく

既齊既稷きさいきしょく 既匡既敕ききょうきちょく

永錫爾極えいしじきょく 時萬時憶じばんじおく

 祭祀者は身を慎み、祭祀を取り仕切る。

 儀礼に適った振る舞い、過ちはなし。

 神官は神の意志を祭祀者に語る。

 孝行者のわが子孫に告げよう、

 そなたの心は香り豊か、

 故に神も飲食を楽しんだ。

 汝には多くの幸福がもたらされよう。

 それは汝の期待通りか、

 汝が則る規範の通りか。

 汝が為した祭祀は実に整い、

 遅滞なく、正しく、厳粛である。

 神は汝に大いなる力を授けよう。

 それは一万、十万もの福である。


禮儀既備らいぎきび 鍾鼓既戒しょうこきかい

孝孫徂位こうそんしょい 工祝致告こうしゅくちこく

神具醉止しんぐすいし 皇尸載起こうしたいき

鼓鍾送尸こしょうそうし 神保聿歸しんほしんき

諸宰君婦しょさいくんふ 廢徹不遲はいてつふち

諸父兄弟しょうけいてい 備言燕私びげんえんし

 儀礼が一通り済み、

 祭りの終わりを告げる鐘が鳴る。

 祭祀者は東の祭壇に赴き、

 神官は神が祭祀者の意志を

 受け取ったことを告げる。

 神々がすっかり酔えば、

 そのかたしろもまた立ち上がる。

 いよいよ神が立ち去らんとする、

 太鼓が鐘が鳴り、かたしろを送る。

 祭りに参加した男女が、

 供え物を片付ける。

 実にてきぱきとしたもの。

 親族の皆々様方よ、今少し。

 我と飲み、語らおうぞ。


樂具入奏がくぐにゅうそう 以綏後祿じすいごろく

爾殽既將じこうきしょう 莫怨具慶ばくえんぐけい

既醉既飽きすいきほう 小大稽首しょうだいけいしゅ

神嗜飲食しんしいんしょく 使君壽考しくんじゅこう

孔惠孔時こうけいこうじ 維其盡之いきじんし

子子孫孫ししそんそん 勿替引之こつたいいんし

 内宴に持ち込まれた楽器が奏でられ、

 祭祀ののちの祝福を示すかのよう。

 皆々に酒杯は行き届いたであろうか、

 だれ一人恨む者はなかろうか。

 みな今この時を慶賀しておろうか。

 誰もが酔い、また宴に疲れるころ、

 宴に参加した者が大人、子供となく、

 最敬礼をなし、挨拶を告げる。

 神は大いに飲食を楽しまれた。

 あなた様を大いに祝福されよう。

 その祭祀は実に見事、実に時宜を得、

 万端欠ける所がなかった。

 願わくば、あなたの子々孫々が、

 この祭りを引き継いでくれますよう。



 

○小雅 楚茨


これだけ盛大に素晴らしき祭がなされたことをたたえる歌を捕まえて「幽王の時代に昔の徳高き時代のことを思い出す」とか言い出す詩序くんは正直どうかと思うんだな、ぼかぁ。




■本当の韜晦を見せてやりますよ


晋書31 宣穆張皇后

家惟有一婢見之,后乃恐事泄致禍,遂手殺之以滅口,而親自執爨。


司馬懿の妻、張春華の極妻ぶりが描かれる。司馬懿が仮病で曹操よりの招聘を断っていたころのことである。本の虫干しをしていたら急に雨が降りだした。そのため司馬懿が慌てて取り込もうとした。ら、それを下女に見られた。人の口に戸は立てられぬ、張春華、この下女から司馬懿の仮病が漏れるのを恐れ、殺害。そして下女を失った分の「炊事を自ら行った」という。いや、賢妻枠に収めるなこれを。魔王の妃としか言いようがあるまい。



■魔王の妻は情より利害


晋書32 評

穆后沈斷,忘情執爨。


張春華の沈着にして果断なこと、下女への情をも切り捨てて司馬懿を支え、そのために「飯炊きもいとわなかった」、と讃える。いや、怖いから。怖いから。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%B8%89#%E3%80%8A%E6%A5%9A%E8%8C%A8%E3%80%8B

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