小戎(秦公の出征)

小戎しょうじゅう



小戎俴收しょうじゅうせんしゅう 五楘梁輈ごぼくりょうしゅう

游環脅驅ゆうかんきょうく 陰靷鋈續いんいんよくしょく

文茵暢轂ぶんいんちゅうこく 駕我騏馵ががきしゅ

言念君子げんねんくんし 溫其如玉おんきじょぎょく

在其板屋ざいきばんおく 亂我心曲らんがしんきょく

 その小ぶりな戦車は

 軽快にして、あざやか。

 馬の背の輪に脇紐が結ばれ、

 車とは白銀のひもで結ばれる。

 虎皮の敷物、長い車軸受け。

 馬は青黒と、白足。

 そのような立派な馬車に乗り、

 出征されたあのお方は、

 その温かさ、まるで宝玉のよう。

 今は陣屋にて寝泊まりを

 されておられるのだろうか。

 それを思えば、我が心は乱れる。


四牡孔阜しぼこうふ 六轡在手ろくひざいしゅ

騏駵是中きりゅうぜちゅう 騧驪是驂かりぜさん

龍盾之合りゅうじゅんしごう 鋈以觼軜よくじけつどう

言念君子げんねんくんし 溫其在邑おんきざいゆう

方何為期ほうかいき 胡然我念之こぜんがねんし

 四頭の馬は逞しく、

 六本の手綱をお握りになる。

 赤毛で黒いたてがみの二頭が中、

 黒下の二頭が外にある。

 龍を描いた盾を掲げ、

 内側の手綱は白銀で飾られる。

 そのような立派な馬車に乗り、

 出征されたあのお方は、

 その温かさ、まるで故郷のよう。

 いつになったらお帰りになるのか。

 思いの絶えぬ、この胸中。


俴駟孔羣せんしこうぐん 厹矛鋈錞きゅうぼうよくたい 

蒙伐有苑もうばつゆうえん 虎韔鏤膺こちょうろうよう 

交韔二弓こうちょうにきゅう 竹閉緄縢ちくへいこんとう

言念君子げんねんくんし 載寢載興たいしんたいこう

厭厭良人えんえんりょうじん 秩秩德音ちつちつとくおん

 馬鎧を着た四頭は、整然と。

 三角矛の石突は白金で飾られ、

 戈は鳥の羽で飾られ、

 虎の毛皮で覆われた弓筒は

 その縁をやはり白金で。

 二つの弓を弓袋に交え、

 竹のゆだめは藤縄で縛る。

 さても立派な、愛しきお方を、

 寝ても覚めても思う。

 優しいお前さま。

 お前さまに粛々と愛されたいのです。




○国風 秦風 小戎


いじめかな? 注を読んでも意味がまるで分らぬ。まぁ、各連前半三行は「よくわからんが、とにかく立派な士大夫の乗りそうな馬車の飾りがしゅごい」で終了してしまうのが良いのであろう。前半で堂々たる士大夫の出征をうたい、後半でその堂々たる大夫の無事を祈り、いっぽうで不安をも覚えさせるという形式には、衛風の伯兮を思い起こさせるところもあるな。




○儒家センセー のたまわく


当詩は秦の襄公の出征を歌ったものである! 秦より西にはやはり蛮族が跋扈しており、襄公はこれを討伐するための軍役をしばし起こした! 勇ましき襄公を心強く見送りながらも、婦人たちの心には不安と心配が寄りかかるのである!




■西方は木造


東府客館是版屋。謝景重詣太傅,時賓客滿中,初不交言,直仰視云:「王乃復西戎其屋。」

(排調58)


東晋建康城にできた宰相の出城たる東府城、その客用の館は、通常であれば版築で作られる。が、敢えて木造で建てられたそうである。その館にやってきた謝重、当時の東晋で最も名声高い貴族の一人であった彼は、「木造の建物など小戎で歌われるような蛮族の住まいではないか」とぶった切った。よし、この男、日本国民の多くを敵に回したな……。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%85%AD#%E3%80%8A%E5%B0%8F%E6%88%8E%E3%80%8B

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