蒹葭(遠い人を想う/礼に欠ける辺境の公卿)

蒹葭けんか



蒹葭蒼蒼けんかそうそう 白露為霜はくろいそう

所謂伊人しょせいいじん 在水一方ざいすいいちほう

遡洄從之そかいじゅうし 道阻且長どうそしょちょう

遡遊從之そゆうじゅうし 宛在水中央えんざいすいちゅうおう

 青々としたアシの葉に、

 落ちる露は霜となる。

 わが想い寄せるあの方は、

 水の向こうにいらっしゃる。

 川をさかのぼり行きたくも、

 道は隔たり、かつ遠い。

 流れを渡ってゆきたくも、

 水面に面影を浮かべるばかり。


蒹葭淒淒けんかせいせい 白露未晞はくろみき

所謂伊人しょせいいじん 在水之湄ざいすいしび

遡洄從之そかいじゅうし 道阻且躋どうそしょせい

遡遊從之そゆうじゅうし 宛在水中坻えんざいすいちゅうてい

 青々としたアシの葉に、

 落ちる露は葉を濡らす。

 わが想い寄せるあの方は、

 水の岸辺にいらっしゃる。

 川をさかのぼり行きたくも、

 道は隔たり、かつ険しい。

 流れを渡ってゆきたくも、

 ほとりに面影を浮かべるばかり。


蒹葭采采かぼうさいさい 白露未已はくろみい

所謂伊人しょせいいじん 在水之涘ざいすいしし

遡洄從之そかいじゅうし 道阻且右どうそしょう

遡遊從之そゆうじゅうし 宛在水中沚えんざいすいちゅうし

 青々としたアシの葉を、

 露がしっとりと湿らせる。

 わが想い寄せるあの方は、

 水のおそばにいらっしゃる。

 川をさかのぼり行きたくも、

 道は隔たり、かつ遠回り。

 流れを渡ってゆきたくも、

 川洲に面影を浮かべるばかり。



○国風 秦風 蒹葭


賢人を求める詩とされるが、恋歌と解釈することも許されよう。これまでの割とフリーダムな形式から突然ぴっちりとしてきたので驚くのだが、独唱であれば割とフリーダムでもよく、合唱ともなれば揃ってくる、と言った辺りになるのかな。遠く、なかなか手の届かぬあの方に、それでも手を伸ばさんとする。いつか届いてもらいたいものである。




○儒家センセー のたまわく


ここまで襄公を讃えて参ったが、一方で批判にも値する人物でもある! 驍勇の人でこそあれ、周の礼に則らぬ振る舞いが多いのはいただけぬ! 君子は礼に則り、初めて君子足りえよう! 秦の国がなかなか落ち着かずにあったのも、礼制を守らずにあったことを想わば、当然と言えよう!




○崔浩先生、頷く。


うむ、周至上主義を平然と周辺諸国に押し付ける。この辺りの考え方を読ませて頂くと、「うーん周を尊ぶテキスト読んでるぅー☆」という気持ちになるな! 「そう言う価値観が支配的であった」ことは重に踏まえておきたいものであるな。価値観とは、なかなか気付けぬがゆえに価値観なのである。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%85%AD#%E3%80%8A%E8%92%B9%E8%91%AD%E3%80%8B

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