褰裳(引用8:想いを誘う女/救いを求める民)

褰裳けんしょう



子惠思我しけいしが 褰裳涉溱けんしょうしょうしん

子不我思しふがし 豈無他人がいむたじん

狂童之狂也且きょうどうしきょうやしょ

 あなたが私を

 思ってくださるのなら、

 この裾を持ち上げ、

 溱水を渡りましょう。

 もしそれが叶わなくても、

 まぁ、あなた以外にもね?

 悪い人は悪いことをするものよ?


子惠思我しけいしが 褰裳涉洧けんしょうしょうい

子不我思しふがし 豈無他士がいむたし

狂童之狂也且きょうどうしきょうやしょ

 あなたが私を

 思ってくださるのなら、

 この裾を持ち上げ、

 洧水を渡りましょう。

 もしそれが叶わなくても、

 まぁ、あなた以外にもね?

 悪いひとは悪いことをするものよ?




〇国風 鄭風 褰裳


あえて女性としておきたいものであるな。これはまたいい思わせぶりである。「あーあ、あなたにとって私は得難い宝でしょうに。そんな私を手放しても大丈夫なのかしら? 残念ながら私は引く手あまたなのよ? そしてあなたは想いを遂げられないことになってしまうの、狂おしいわよね?」であるな。これはこれは、ごちそうさまである。




〇儒家センセー のたまわく


ここまでにも紹介している鄭荘公の息子、忽は、弟の突、およびその協賛者である祭仲と権力争いを繰り広げた! 鄭国人は諸外国に介入してもらい、このグダグダな状況を解消してほしい、と願った! 「諸外国」が「鄭国人」を思ってくれるなら裾を掲げて、というわけである! 「思ってくれない」のなら別の国に頼ろう、というのである! 「狂童之狂也且」とはすなわち、この動乱を引き起こした突及び祭仲の振る舞いを言うのである!




■これも割とただの慣用句


・三國志10 賈詡 裴注

如此則攻守無堅城,不招必影從,雖兒童可使奮空拳以致力,女子可使其褰裳以用命,況厲智能之士,因迅風之勢,則大功不足合,八方不足同也。

・三國志35 評

故谷風發而騶虞嘯,雲雷升而潛鱗驤;摯解褐於三聘,尼得招而褰裳,管豹變於受命,貢感激以回莊,異徐生之摘寶,釋臥龍於深藏,偉劉氏之傾蓋,嘉吾子之周行。

・晋書35 阮咸従子阮脩

意有所思,率爾褰裳,不避晨夕,至或無言,但欣然相對。

・晋書70 評

卞壼束帶立朝,以匡正爲己任;褰裳衛主,蹈忠義以成名。

・晋書98 桓温

此事既就,此功既成,則陛下盛勳比靈斯前代,周宣之詠復興當年。如其不效,臣之罪也,褰裳赴鑊,其甘如薺。

・宋書27 苻瑞上

遷于聖賢,莫不咸聽。鼚乎鼓之,軒乎舞之。精華以竭,褰裳去之。

・世説 言語74

雖未覩三山,便自使人有凌雲意。若秦漢之君,必當褰裳濡足。

・世説 排調7劉注

子所謂天刑地網,剛德之尤,不登山抱木,則褰裳赴流。


ここでも「裾をまくって」の意味合いの雅語として用いられておる。それ以上の含意を拾うのは難しそうである。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%9B%9B#%E3%80%8A%E8%A4%B0%E8%A3%B3%E3%80%8B

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