アラビア真珠の謎

孤独なピエロ

第1話

アラビア真珠の知られざる謎

玉栄茂康


アラビア湾の天然真珠は美しい宝石として紀元前から数世紀にわたり世界中の多くの女性に愛されてきましたが、真珠を作った真珠貝が泳ぐことができるという真珠採りの老人達の間で語り伝えられている伝説は常識的に信じることはできませんが我々は調査により真珠貝の不思議な遊泳行動について少しだけ知ることができました。真珠採りは遠い昔のこととなり真珠のロマンは忘れられつつありますが真珠を抱いた真珠貝は満月の夜には泳いで旅をしているかもしれません。


真珠採りの間では真珠は真珠貝の硬い殻の中に眠っている可哀想な妖精に与えられた聖なる雨粒であると信じられていました。足糸でしっかり海底にひっついていた真珠貝は年に一度満月の夜に妖精に聖なる雨をあびせるため海底を離れて海面に浮上するのです。海面で真珠貝は妖精が聖なる雨粒を受け取るために殻を開き、妖精達が雨粒を受け取った後、ふたたび海底に戻って妖精たちの長い眠りを守るために殻をしっかり閉じるのです。

年に一度の満月が近づくと真珠貝は海底の岩にしっかり接着している足糸をゆるめて水面への旅立の用意をします。重い真珠貝が水面まで泳いで行くのは難しいから誰かに助けてもらうですが伝説にはその誰かが欠けて分からないのです。年老いた真珠採りは真珠貝がこのイベントに参加するために特別に泳ぐ能力を海の女神から与えられると信じています

雨粒を浴びた真珠貝は再び海底に戻るのですがどのようにして何処へ戻るのかもわからないのです。伝説では真珠貝は海の女神の召使いであるモンスターに守られた聖域に入って眠ることになっています。


真珠貝の真珠形成の過程はおらく次のようでしょう。アラビア半島によく発生する砂嵐で大量の砂がアラビア湾に飛ばされて水中にはたくさんの小さな砂粒がゴミのように浮遊しています。小さな砂粒が偶然真珠貝の身体の一部である外套膜膜に入ったとき、私達の目にゴミが入ったように真珠貝も痛みを感じるでしょう。私達は涙でゴミを目の外に洗い流すことができるように貝も自分で砂粒を外に押し出すことができますが、うまく押し出すことができない場合 痛みを和らげるために外套膜から貝の内壁を作る物質を分泌して砂粒を壁を作るように包み込みこんでなめらかな小さな真珠にして痛みをやわらげます。小さな真珠が外套膜に残っていると変に感じるのかさらに真珠物質で包み込みます それを何年にもわたって繰り返していくうちに大きく丸い真珠になっていくのです。、海底に住んでいる真珠貝が体に入り込んだ小さな砂粒を真珠にして外に放り出さないで 大きくなるまで持ち続けているのです、 アラビア真珠貝のこの不思議な行動は誰も知らないのです、



真珠採りは潜水に適した水温35℃の5月~10月頃に数千隻の真珠漁船が数万人の潜水夫を満載して行われたので真珠貝漁場の真珠貝のほとんどは採り尽くされた、数年後には漁場に真珠貝が入ってきて元通りの豊富な漁場になったという古漁師の話はすぐには信じられませんが、紀元前から20世紀までアラビア湾沿岸に住む数世代数万人の漁師による集中的真珠採りが毎年行われる乱獲であったにもかかわらず真珠貝の資源が消滅せずに残っているは不思議である。数年で復活する真珠貝資源はアラビア湾での真珠貝のライフサイクルとその成長が驚異的な速さで行われていたことが推測されます。



私達は高齢の真珠採り漁師の記憶に残っている真珠貝漁場の位置情報に従って真珠貝の分布調査を行いました。アブダビからラスアルハイマまでのアラビア湾の沿岸全体、オマーン湾のディバの沿岸とインド洋のフジャイラ沿岸までダイビングによる観察を行いました.


調査の結果、アラビア湾には日本のアコヤ真珠貝(Pinctada fucata)と同じ種であるアラビア真珠貝(Pinctada radiata)1種類しか生息しておらず、このアラビア真珠貝はホルムズ海峡を境にオマーン湾とインド洋側には生息しておりません。インド洋側には別種のクロチョウガイ(Pinctada margaritifera)が棲んでいました。 インド洋沿岸およびオマーン湾のクロチョウガイからが黒真珠が採れたという記録は残っていません。



不思議なことに、インド洋とオマーン湾は水温と塩分などの海水条件がアラビア湾より良いにもかかわらず、アラビア真珠貝は生息していません。 水温と塩分濃度はアラビア湾の35ド℃と45‰に対し、オマーン湾とインド洋では25℃と36‰で生物学的には良好な条件ですが、なぜアラビア真珠貝の幼生はホルムズ海峡の底流に乗ってオマーン湾とインド洋に出ていくのに生息域を広げることができないのかわかりませんでした。唯一の理由は、アラビア真珠貝は何らかの理由で インド洋沿岸の生態系に適応できないためと考えられました。アラビア真珠が住んでいる海域にはマングローブ林に覆われた小島が多く海底はモ場の草原である、砂漠から飛来する微細な砂とプランクトンの発生で透明度は低い。

一方、インド洋沿岸にはマングローブ林発生なく、海草のないサンゴ礁海底で透明度は高い。 両海域には、真珠貝の天敵である黒鯛,フエフキダイ、ノコギリガザミ、ヒトデなどの肉食性動物は多く生息しているが インド洋で真珠貝だけを完全に駆逐する天敵が存在するとは考えられない。


我々は真珠を持っていると思われる成真珠貝を見つけるために、沿岸全体を調査したが目についたのは海藻ホンダワラの森の下に集まっている若い真珠貝の群れだった。

調査が一向に進展しないので我々は真珠漁船の船長を長く務めた老人に相談した。彼は自身気に言った「沿岸には大人の真珠貝はいないよ、沿岸に棲んでいるすべての大人の真珠貝は数日前の満月の夜に 天からの露を受け取り沖合に移動したはずだ、 皆さんが見た若い真珠貝は昨年生まれたものだ」 私はその話を信じることができなかった。では成長した真珠貝はどこに行ったのか、泳いで沖合に向かったのだろうか?

これはおとぎ話である、数千個の真珠貝が殻を開けて露を浴びるのを想像しただけで楽しいが、海面で小雨の中で踊る美しい妖精たちはまさにおとぎの世界である。


年間を通したアラビア真珠貝の卵巣と精巣の発達調査では、産卵は4月と5月であり、数億万もの卵が産まれると推定されアラビア湾には膨大な数の真珠貝の卵が出現するだろう。卵は2日で孵化し、浮遊幼生は流れによりアラビア湾全体に広がります。幼虫は数日以内に幼貝に変わり、海底の岩礁とさまざまな浮遊物、桟橋、ブイ、廃棄ロープ、港の防波堤、パイプラインなどに足糸で体をしっかり固定します。真珠貝は、マングローブ林から流れ出る栄養素が豊富で、真珠貝の大好きな植物プランクトンが豊富な海草の草原の海底に塊を作って住んでいます。

、まだ殻がやわらかので、鯛やフグのほか、ヤドカリや海底に生息するカニなどの天敵に食べられますが数が多いので平気なのです。、逃避行動ができない真珠貝は多くの肉食動物特に強い歯で殻を噛み砕くクロダイとフエフキダイは恐るべき天敵である。これらの天敵をさけるには魚食性の大型動物サメ、モゴイカ、ウツボそれに大イソギンチャクなどが潜む領域である岩盤の割れ目や洞窟に隠れなければ生き残れない。洞窟が好きなガンガゼ軍団の下は長い棘で防御するのでとても安全な場所である。魚と人間は簡単に折れて突き刺さる細くて毒のある鋭い棘をおそれてガンガゼ軍団には近寄らない。



冬のアラビア湾は穏やかだが、突然の砂嵐で海も大荒れとなる。嵐の後の海面は大量の海藻で覆われる。 海藻がプロペラに巻きつくのでが海に出られず漁師はしばらく休業しなければならなかった。ゴミと海藻の混じった漂流物の山が浜辺に積み上げられ。腐り始めて

悪臭をはなっている。 ゴミが混じった海藻の山が浜辺に打ち上げられ、悪臭で腐り始めた


沿岸を覆う大量の海藻がいくつかのグループに分けられ、潮流によって海に1つずつ流れ、沿岸から姿を消しました。

ゴミが混じった海藻の山が浜辺に積み上げられ、悪臭で腐り始めた。水面を覆っていた海草は大きなパッチに分かれて1つずつ潮流に乗って沖合に流れて数日で海岸から姿を消した。

サンドフライ(吸血ブト)の群れの下でゴミ山をかき分けて真珠貝を探す作業は不快な仕事だった。幾重にも積み重なった海藻の底にたどり着くと、大きな真珠貝に付着した海藻を見つけた。 これだ! 海藻が真珠貝の遊泳を助けた未知の英雄だったのです。 まだ沿岸に残っていた海藻パッチを水中から眺めると真珠貝に付着した海藻の集団を見つけた、水中を浮遊する海藻にパラシュートのようにぶら下がっている真珠貝を多数観察した。


私達は真珠採りだった古漁師をガイドに雇い沖合に流れてゆく海藻を追跡した、潮目に集まった海藻の中でガイドはこの下の海底は岩礁でと教えてくれた。彼は遠くに見える石油採掘リグには近寄れないのでここで停船するとアンカーを投げずに船を停止した。アンカーが海底の岩に引っ掛かると外すことができないので、ここではアンカーは投げないのだと説明してくれた 海藻は浮力を失い目の前で次々と沈み始めた。我々はアクアラングをつけて沈んでゆく海藻を追った。海底は複雑な岩場で不気味な大きな割れ目と洞窟があった。大きな真珠貝が割れ目の縁と洞窟の入り口に張り付いていた。私達の動きを感知したように洞窟からのそっと巨大なハタが姿を現した。ハタの傍を海藻の付着したアコヤガイが沈んできて洞窟に吸い込まれていった。我々は洞窟の中を探検したかったが、エアタンクの空気があまり残っていないので浮上した。

海上では我々のボートの近くに沿岸警備艇が停泊して重装備の警官からすぐに船に戻るように指示された。警官は私たちのパスポートとアブダビ環境庁発行の漁業調査許可証をチェックして問題なしと判断すると、この水域は海底油田採掘エリアで漁業禁止区域だから即立ち去れと警告された。.



後日私たちが見た海藻の集まっていた潮目は真珠漁場に近いとガイドから教えられた。

詳細な海底地形図によると、ダイビングで見た割れ目と洞窟は真珠採り漁船のダイバー達が潜って水を汲んでいた海底の泉であった。多量にミネラルを含んだ湧き水に希釈された海水は真珠貝に適していると考えられた。海藻が洞窟に吸い込まれたのは満潮時に洞窟の海水は陸方向に逆流すると考えられた。 砂漠にはところどころに底なし池がありその下には海と繋がるトンネルがあると想像された。我々は堅い真珠貝の上に海藻が繁茂するのは生態的に当たり前のことだがなぜ真珠貝は強力な接着力を持つ足糸を切って海藻パラシュートに乗り潮目まで行くのか、運が悪ければ海藻パラシュートと一緒に砂浜に打ち上げられて腐ってしまう危険をおかしてまで冒険をするのか解明できずに調査を終えた。真珠は秘密を抱えたまま今でもアラビア湾の海底に眠っている。た運が悪ければちが見た干潟は、地図上の真珠の釣り場と一致していた。

詳細な海底地形図によると、私たちのダイビング場所と洞窟は地下水が噴出して海水を希釈しています。 それが真珠貝の最高の生息地でした。真珠養殖のダイバーが潜水艦の泉から水を取っているという話は、今でも古い漁師によって信じられています。


洞窟の満潮時には海水が陸地方向に逆流すると考えられています。 砂漠のどこかに底なしの池があり、その下にトンネルがあると想像されました。


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