第二十三話 衝撃

「…………」

 長い沈黙を経て、ようやく我に返ったおれは驚愕し、愕然としていた。

 わなわなと手が震える。まるでひどい風邪にでもかかったような悪寒に全身が総毛立つ。

(天宮……? 天宮だって……?!)

 おれは、溢れんばかりの記憶の奔流ほんりゅうに翻弄されまいと歯を食い縛り、襲い来る凄まじい頭痛を必死に耐えていた。

(それに、あれは、おれの記憶が正しければ……中島氏だ! しかも、天宮の父親まで……!!)

 どういうことだ?! おれは過去に、彼らに出会っていたのか?! しかも、あの孤児院で……!

(だが、おかしい……、そんなことはありえない……)

 なぜなら、おれは、。おれには、風祭周平と言う、立派な名前がある。

 記憶だって、ある。幼い頃、父や母に育てられた記憶が……。

「ぐっ……」

 それにしても頭が痛い。ガンガンと強い耳鳴りがして、目の前がぐにゃりと歪曲する。

「どうしたの、シューヘイ?」

 歪んだ視界に映し出される、見知った顔……。

 制服姿の天宮が、不安そうにおれの顔を覗き込む。

「なんだかすごく顔色が悪いわよ?」

「いや……」

 大丈夫だと答えようとするが、舌がうまく回らない。酸欠状態の金魚のように口をパクパクさせるだけ。

 その時だった。高校生である今の天宮と、幼少の頃の天宮の姿が、不意に重なる。

『ヒトシ』と名乗るおれの記憶……。

(その記憶は……、本当に、おれのものなのか?)

 しかし、別の誰かの記憶を、他人であるおれが見ることなんて……。

 まったく、意味がわからない。

(まさかとは思うが……、元々、おれは、孤児で、風祭家に引き取られた?)

 ありえない話ではない。

 だが、妙に引っ掛かる。どうしても違和感が拭えない。

 とめどなく流れ出る冷や汗が全身をじっとりと濡らす。

 異様なまでの喉の渇きに、呼吸するのでさえ苦しかった。

「失礼する」

 軽いノックの後、部室のドアが開かれる。

 ドアを開閉する音が、妙に遠く感じた。

 一拍子ほど遅れて入口の方を見れば、険しい顔つきの石蕗がおれの前に立っていた。

「お前宛に、速達の荷物が届いている」

 この知らせを受けて、思い出した。秘書の三崎さんに、町の情報を集めさせていたことを。

「……これはわざわざ、ありがとうございます」

 意識を現実に向け直したおれは、どうにか声を絞り出し、封筒を受け取る。

 そうだ、こうしてはいられない。

 東から聞いた山村地区のこともある。

 早く情報を整理して、この町でどんな陰謀がうごめいているのかを確かめなければ……。

「どうした? 何かあったのか?」

 おれの様子がおかしいことに気付いたのか、石蕗は眉をひそめる。

「いえ、なんでもありません」

 即答する。

「では、おれはこれで失礼します」

 言葉少なに告げると、不審そうな目つきでおれを眺める石蕗の横を通り抜け、扉の取っ手に手をかける。

「シューヘイ、あんた……」

 背中越しに聞こえた天宮の声を、おれは聞こえないふりした。

 ひどく、気分が悪かった。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。


 帰宅後。おれは自室で途方に暮れていた。

 力なく壁に背をもたれる。

 封筒は手つかずの状態で畳の上に転がっていた。

 おれは無感情でその茶色の表面を見つめている。

 何もする気が起きない。

 ただ、むなしい。

 為政者を目指すおれの理想と相反する、『ヒトシ』という少年の記憶がおれの思考を侵食し、容赦なくむしばむ。

 おれが求めた未来、その結果がこれか。

 吐き気がした。体中に蕁麻疹じんましんが出そうなほどに気分が悪い。

 もし、仮に――ほとんどありえないことだが――おれの予想が当たっているとしたら……。

 身震いする。目の前がチカチカと明滅めいめつし、まるで地震でも起きたみたいに世界が大きく揺れる。

 とんでもなく恐ろしい事実だ。こんな、こんな惨いことがあるだろうか?

 おれは、本当は……。

 風祭周平であるより以前に……。

 孤児院で暮らしていた……。

 あの……。

「………………………………」

(いや……、そうと決めつけるのは早計だ……)

 思考の比重の多くを占めるこの仮定が妄想ではないと断じるには、いささか証拠が少な過ぎる。

 それに、今は、自分の過去など気にしている場合じゃない。おれにはもっと優先すべき事項が山ほど残っている。

 頭ではわかっている。それこそ充分に理解しているつもりだ。そうでなければならない。

 だが、そんなおれの決意を嘲笑うかのように、あの時の記憶がしがみついて離れない。

 焦りを伴う絶望感ばかりが募っていく。

(おれは、おれは……)

 一体、誰で……。

(どこに、向かうべきなんだ……)

 答えはとうに出ている。

 だからこそ、おれは苦しんだ。

「周平くーん、ご飯だよー」

 そうこうしているうちに、夕飯の支度が終わったことを鈴蘭が伝えに来た。

「……今、行く」

 浮かない気分のまま、おれは自分の部屋をあとにした。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。


 蔵屋敷家の食卓。家族が一堂に会する場所。

 色とりどりの料理がテーブルに並べられているが、おれは一向に気分が晴れなかった。

 食欲なんてない。味もわからない。

 それでも、無理に笑顔を作って箸を進め、日常会話に参加した。

「ねえ、おじいさん、聞きました?」

 食事もたけなわと言った頃、叔母さんが声を潜めて言う。

「南条さんが、お亡くなりになられたって話」

 瞬間、この身を流れる血液が凍り付いたのではないかと思うぐらいに凄まじい寒気が全身を襲った。

「なんじゃと、それは本当か?」

 箸の動きを止め、目を丸くするじーさん。

 他の人たちも、驚きのあまり硬直していた。

 おれもまた、表情が引きつらないよう努力するのに大変苦労した。

 テレビジョンから流れるお笑い番組の音声がむなしく響き渡る。

「ええ、なんでも、畑の農具小屋で倒れていたのが見つかって、親族一同、大騒ぎだったらしいですよ」

「おいおい、穏やかじゃねえな。盗人にでもガツンとやられたんか?」

「いえ、それが、南条さん、相当お酒に酔っぱらっていたらしくて、それで誤って足をもつれさせて、そのまま頭を強打したんじゃないかって……」

「かーっ、情けない! なんとも締まらない話じゃ! 昔から酒癖が悪い奴じゃったが、そこまでとはのう……。まったく、肝心の最期がこれじゃ、奴も浮かばれんじゃろ……。いや、無類の酒好きの奴からしたら、むしろ逆なのかもしれんが」

「ちょっと、おじいさん、不謹慎ですよ!」

 静まり返った茶の間がにわかに賑わいを見せる中、おれは気が気でなかった。

 南条のおっさんが死んだ!

 ――死んだ!

 まさか、まさか……!

 おれが、あの時……!

 あの時、突き飛ばしたから……?!

 頭の中で疑問符がぐるぐると回る。体は焼け付くように熱を帯び、胸の奥が痛いぐらいに動悸が激しくなる。

 蘇るのは小屋での一幕。不気味に眼光を光らせ、おれの前に立ちはだかった南条のおっさんその人……。腰を痛めている彼を思い切り突き飛ばして……。

 喉の奥から酸っぱいものが込み上げる。

(とすると、おれは殺人犯か? ……このおれが、犯罪者? ――まさか!! そんな馬鹿な!!)

 ありえない、あってはならない。

(……いや、でも、叔母さんは事故だと言っていた……。そうだ、確かに、あの時、南条のおっさんは、いやに酒臭かった……)

 当時、周辺には誰もいなかった。露木たちにも、おれが小屋に向かうとは言っていない。

 ならば、おれに疑いの目が向くことはない……。

(そうだ……、だ。だ。おれに非はない……、あってたまるものか)

 だが、それでも……、おれが彼を殺したことに違いはない。

 おれが、おれが……、直接、人を……。

 ずしんと脳裏に重くのしかかる最悪の響き。

 頭が痛い……、頭蓋骨が割れそうだ……。

「どうしたの、周平くん?」

 鈴蘭の声がやけに遠く感じる。

「さっきから、全然、お箸が進んでないけど……」

「あら、ほんと。今夜の献立はお口に合わなかったかしら?」

 目敏い鈴蘭の指摘に叔母さんも反応する。

「いえ、そんなことはないです。ただ、ちょっと、今日はあまりお腹が減ってなくて……」

 全身に回った動揺を必死に押し殺す。

「もう、駄目よ~。まだまだ若いんだから、いっぱいご飯食べて、もりもり体力つけなきゃ」

「そうだぞ、ボウズ。男はやっぱりガタイがよくてなんぼだ。オレのように筋肉を沢山つけるためにも、飯をもっと食わないと」

 グッとガッツポーズし、自慢の力こぶを見せつける。

「お父さんは暑苦しすぎだよ~」

「そ、そんな……」

 娘に白い目で見られ、がっくりと肩を落とすオヤジさん。

「ははは……」

 沸き立つこの場を、愛想笑いでどうにか濁す。


 そこから先は、よく覚えていない。

 気が付けばおれは、暗い自室の中にいた。

 帰宅した直後と同じように背をもたれ、放心状態で居つくす。

 時間だけが過ぎていく。

 闇に身を投じていたら少しは気分も紛れるかと思ったが、全然そんなことはなかった。

 むしろ、部室にいた頃から続いている頭痛がひどくなるばかりで、気が休まるどころか、どんどん症状が悪化していった。

 壁に掛けられた時計が秒針を刻む音が妙に響く。

 夏だというのに、胸の奥は霜が降りたように冷え切っている。

 ……なぜだ。

 どうして、こんなことになった。

 同じ問いが頭の中で延々と反復される。まるで呪いの言葉のように降り注ぐ。

 どうして、おれは……。

 どうして……。

 ……………………。

「………ふ………」

 いよいよ気が触れたか。

 何度も自問するうち、自嘲にも似た笑いが込み上がる。

 どうして、だと?

 口元が邪悪に歪む。

 今さら、何を疑問に思っている?

 すべては、おれが望んだことじゃないか。

 邪魔者を徹底的に排除し、目的を完遂させる。おれは今まで、そのためだけに行動してきたのではなかったか。

「ふふ……」

 笑わずにはいられなかった。

 おれが人を殺したから、何だというのか。直接的にせよ間接的にせよ、人は人を踏みつけて生きるものだ。それが社会における生存競争というものだ。おれが特派員として生きる道を選んだ時から、すでに決まっていたことだ。

 だが、無意味に他者を踏みつけているわけじゃない。おれの足元にいる弱者はいわば養分だ。無力に這いつくばる有象無象の肥やしから栄養を吸い上げ、おれは生きている。そして、いずれ大勢の人間を救う。名もなき彼らの犠牲を無駄にはしない。新国際空港が完成すれば、停滞気味の経済は循環し、貧困問題も解消される。小の犠牲が、大の救済をもたらすのだ。地に落ちたひとつの種が芽吹き、やがて大木へと成長し、多くの実をつけ、何十、何百の種をまくように。

 一の犠牲で十を救う。これの何がおかしいというのか。

 おれが正しい。何も、間違ってなどいない。

 神などという馬鹿げた存在を未だに信仰している蛮人よりも多く、困窮している人々を救う。人数は奴らの比じゃない。それこそ桁が違う。

 そうだ、まさしくその通り。

 何が神だ。

 馬鹿馬鹿しい。

 結局、誰ひとりとして救えやしないじゃないか。

 大きな流れの前には、何人たりとも逆らえない。それは神だって同様だ。有為転変ういてんぺんは世の習い。おれが、国に逆らおうなど……無理な相談なのだ。強者が弱者を食らうという大いなる自然の摂理に抗おうとも、すべては無駄なことなのだ……。

 なら、おれは自分の立場を最大限に生かせばいい。何もかも利用してやればいい。

 失われつつある活力が徐々に溢れていく。

 どういう経緯で父に拾われたのかはまだ思い出せないが、すでにおれは『ヒトシ』のような純真さは持ち合わせていない。

 もう遅すぎた。何もかも手遅れだ。もはや後戻りはできない。来るところまで来てしまった。

 だったら、過去は振り返らず、前だけを見ていればいい。

 いずれ手に入る華々しい未来を……直視してさえいればいい。

 他の人間のことなど知ったことか。

 おれはおれの道を貫くと、あの時、固く誓ったではないか。

 全身に力をみなぎらせるべく、自らを鼓舞する。

 かすむ視界、激しい耳鳴り、割れるような頭痛、息苦しさを誘発させる動悸……。

 おれのすべてが、他ならぬおれの行動を阻害する。

(邪魔をするな、ヒトシ……!)

 わずかに残った甘さを捨て去るべく、唇を噛み締める。

 むせ返る鉄の味が、口いっぱいに広がった。

 あとは、そう……。

亜細亜八月同盟AAA』の連中を……。

 おれが……、この手で……。


 ――とんとん


 絶望的な思考に身を委ねていると、ふすまが叩かれる音がする。

「……周平くん、起きてる?」

 もはや恒例となった、就寝前の鈴蘭の訪問。

 普段のおれなら、彼女を邪険には扱わない。

 だが、今のおれは、とても鈴蘭を受け入れられるような気分じゃなかった。

「……悪いが、ちょっとやることがあるんだ」

 不躾に答える。

 それで、鈴蘭が引き下がると思ったからだ。

「……あまり、根を詰めすぎちゃダメだよ?」

「……ああ、わかっている」

 だから、さっさと立ち去ってくれ。

 おれは言外にそういった意味を込めて強く言った。


 ――とんとん


 それでも、なお、鈴蘭は、執拗にふすまを叩いた。

「今日の周平くん、すごい疲れているみたいだったよ? 少し、休んだ方がいいんじゃないかな?」

 っち、しつこいな……。

 おれの気も知らずに、吞気なことを言ってくれる。

「だから、ね、わたしと少しお話しない? ちょっと周平くんに見せたいものがあって――」

「だから、ほっといてくれって言ってるだろ!」

「っ……!」

 鈴蘭の誘いをかき消すように食い気味に言うと、彼女の小さな悲鳴が耳に届く。

 自分が失態を犯したことに気付いたのはすぐだった。

「……悪い、鈴蘭」

 たまらず謝罪する。

「おれ、ちょっと疲れてるんだ。……うん、どうかしてた」

 情けない。

 このおれが、感情的になるなど……。

「ごめんな、鈴蘭……」

 返事はない。

 長い沈黙が辛かった。

 さすがに、部屋の前から立ち去ったのか……そう思った。

「……周平くん、入るね?」

「え……」

 おれの予想とは裏腹に、鈴蘭が部屋に入ってきた。

 とても悲しそうな表情。

 しかし、その目には確かな覚悟が宿っている。

 なぜか、そんな気がした。

「ちょっと、外に出よ」

 出し抜けに言う。

 いつもより強引な鈴蘭の行動に、おれは眉をひそめた。

「どうして……」

 彼女に問いかける。

 なぜ、彼女がおれにそんな提案をするのか、意味がわからなかった。

「今は、お前と話をする気分じゃ……」

「だから、行くの」

 力ない拒絶の言葉を、強く遮る。

「さっきも言ったでしょ? 周平くん、ずっと元気がないって。そういう時は、部屋に閉じこもってちゃダメ。外の空気を吸えば、ちょっとは気分が良くなるよ」

 ふと向けられる柔らかな笑み。

 今のおれには、彼女の素朴な優しさが、飛び散るガラスの破片のように胸に刺さる。

「ほら、立って。一緒に行こ」

「ちょ、引っ張るなって……」

 鈴蘭に促されるまま、部屋を飛び出し、縁側に腰を落ち着かせる。

 外は闇に包まれていた。

 都会の濁った空気とは違う、澄んだ空気。

 鉄筋コンクリート特有のじめじめとした不快指数の高い暑さはなく、からっとした爽やかな熱気が流れ、優しく頬を撫でる。

 耳を傾ければ聞こえる、カエルの大合唱。

 深夜まで響く電車の走行音や、歓楽街の喧騒とは無縁の、素朴でのどかな環境。

 改めて、おれの住む都会とは違うと思った。

「たまにね……」

 横に座る鈴蘭が言う。

「たまに、どうしても眠れないときがあると、こうやって夜風にあたって、気分を落ち着かせるの」

 そして、おれの方に振り向いた。

「わたしのとっておきだよ」

 はにかんだ笑顔を見せたあと、星のまたたく夜空を見上げる。

「わたしはね、この町が好き」

 縁側から庭に下り、両手をいっぱいに広げる。

 まるで、周りのすべてを包み込むように。

「この町だけじゃない、町に住む人や、動植物、神様……全部が好き」

 それは、まるで……。

「…………」

 頭が、ひどく傷んだ。

「だからね、わたしは、こうやって町の風景を眺めるの。緑の匂いが気持ちいい空気を胸いっぱいに吸って、草花の息吹を……小さな命の鼓動を感じて……、そうすれば、迷いや悩みなんて吹っ飛んじゃうから」

 満天の星空の下、まぶしい笑顔でそう言う鈴蘭は、とても輝いて見えた。

「周平くんは、この町のこと……好き?」

 彼女の顔は、よく見えない。

「ああ……」

 まともに答えられない、答えられるはずがない。

 だって、おれは……。

「そうだな……、おれは……、この町が……好きなのかもしれない」

 少なくとも、昔は――。

「……そっか」

 顔を伏せながら同意するおれを見て、鈴蘭は小さく頷く。

 果てしなく続く空よりも広くて大きな心を持つ鈴蘭とは対照的に、おれの気分は暗く沈み、体は萎縮しきったように硬直した。

 頭痛は、今までで一番ひどかった。


 しばらくして、おれは部屋に戻った。

 気分は優れない。

 壁に背中を預け、呆然と居つくす。

 クズ。

 おれは人間のクズだ。

 弱者を虐げ、見下し、唾を吐きかける、外道。

 改めて自覚した。

 今まで近くにいたはずの鈴蘭が、とても遠い存在に感じた。

 神、神様。『イイヅナ様』。

 おれは彼女を捨てなければいけない。

 彼女を裏切り、踏みつけ、蹂躙する。

 まさに悪魔の所業だった。

 あの時と、同じように……。

 おれは……。

「…………………………」

 奴の最後の抵抗か。

 そこまで考えたところで、おれは、気を失うようにして目を閉じた。

 闇が、すべてを包み込んだ。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。


 時刻は午後8時半過ぎ。

 鉛のように重くなった体を休めるため、早めに床に就いたが、どうしても眠れない。慢性化した頭の痛みによって眠気は阻害され、否定的な考えが脳に浮かび上がるばかり。

 一度、水でも飲もうかと、闇に包まれた廊下を歩いていた時だった。

「――なあ、タケ坊よ、改めて、お前に話があるんじゃ」

 足元さえ判然としない闇夜に、誰かの声が反響する。

 それは廊下の向こう側から聞こえていた。

(……なんだ?)

 薄い明かりが漏れる曲がり角のところで足を止め、息を潜めて様子を窺う。

「ふん、随分と驚いた様子じゃな? まあ、無理もないかのう。本来ならお前は、都会の学生寮にいる手筈になっておるのじゃからな。まさか、直接、そっちの方に連絡が入るとは夢にも思わんかったじゃろう」

(……与一のじーさんか?)

 いつも聞いているようなとぼけた声色とはまるで違う、どすの利いた声。一瞬、誰が出したものなのか、判断に困った。

「……なぜ、わかったかじゃと? 知れたことよ、わしを侮ってもらっちゃあ困る。これでも昔は、山村地区の東や、海浜地区の北本、暁光会の大田原らと共に、尾前町の発展に尽くした身じゃからの。そしてわしは、諜報のエキスパアトとして独自の情報網を敷き、ひそかに利権を貪り取ろうとする業突く張りどものスキャンダルを暴露し、信用と地位を失墜させ、蹴落とし、尾前町の歴史を守り抜いてきたんじゃ。一時は『旅烏たびがらすの与一』として鳴らしていた身じゃからのう、諜報の腕はまだまだ老いさらばえてはおらんわい。お前の居場所を突き止めるくらい、わけがない」

(……電話?)

 おれが身を隠している場所は、ちょうど、電話が置かれている廊下の角だ。

 とすると、じーさんは、電話の相手と何やらきな臭い話をしていることになる。

(一体、誰と……?)

 おれは息を殺して、じーさんと、電話の主である誰かのやり取りを聞いた。

「あまり時間もないのでな、前置きはこれくらいにして本題に入るとしよう。お前も由緒ある蔵屋敷の跡取り息子、昨今の尾前町を取り巻く事情については充分に承知しているはずじゃ……」

「…………」

「あの南条のせがれが亡くなったという報告を、お前は聞いておるか?」

 南条のおっさんの名前が出たことにより、胸が悪くなる。

「ああ、そうじゃ……、今日、頭をしこたま強打してな……。まったく、消防団の有能株のくせして、情けない最期じゃ」

 ――おれが、殺した。

 昼の出来事が思い起こされ、自分の身体に嫌でも烙印が押される。凶悪で卑怯な『殺人犯』と。

「最近、町では物騒なことが立て続けに起きておる……、浅間の一家が心中したっちゅう知らせもあった。……これで裏がないと思う方が、おかしな話というもんじゃ」

「…………」

「だから、わしはお前に聞いておるんじゃ、タケ。ん? まさか、この期に及んでしらを切るわけじゃないじゃろうな?」

(……タケ?)

 誰かの愛称だろうか?

(そうだ……、じーさんは跡取りとか言ったな……、とすると、武彦か?)

 蔵屋敷の長兄であり、大学生の……。

「タケ、お前は、大学で良からぬ連中とつるんでおるようじゃな……、知っておるぞ……。わしの顔の広さを舐めてもらっちゃあ困る。これまでに培った諜報のノウハウは伊達じゃないわい」

「…………」

「今だから白状するがの、ここ数年、尾前町では、国の空港開発に反対する馬鹿者どもや、その騒ぎに乗じた極道の連中がシマを奪い合い、互いにしのぎを削っていてなあ。やれ空港開発反対やら、土地の買い上げやらで、血で血を洗う泥沼の様相を呈しているわけじゃ。だがのお、わしは、この一連の騒動に、彼奴きゃつらを扇動している第三者が噛んでいるんじゃないかと勘繰っているんじゃよ。わしはそう睨んでおる。暁光会の大田原は、そんなことはないと突っぱねていたがな。それで、左のタカ派にくみするお前なら、何か知っているんじゃないのかと思うてなあ。え? どうなんじゃ? タケ坊よお……」

 鋭い。

 GHQによる農地解体後を生き残るために発揮された辣腕は、今も失われていないということか。

(しかし、武彦がタカ派――それも左翼――に属しているだと?)

 ということは、つまり……。

「とぼけても無駄じゃよ、わしの目は誤魔化せん。町に不穏な動きがあったら、逐一、報告をするように、組合の人間や消防団の人間に口添えしているからのお。そこで、つい最近、お前らしき人物を目撃したとの情報が入ってなあ。もしやと思って興信所の人間を雇って探りを入れてみれば、タケ、お前が悪い連中とつるんでいることがわかった。ここまで話せば、わしが何を言わんとしているかが理解できるじゃろう?

 ……そうじゃ、そんな非生産的な活動からは身を引け。国に逆らおうなど、夢にも思わないことじゃ。現に、風祭宗吾は、着々と土地の収用を進めておる。明道銀行の飼い慣らす木田組までも使ってな。他の頭の固い老いぼれどもは、例外なく始末されたか、あるいは金で買収された。わしが新国際空港の有用性に気付き、条件派にいち早く舵を切ったことは、正解だったわけじゃ。おかげで、金もたんまり手に入ったことだしのお」

「…………」

「……なに? タケ、それは本気で言うとるんか? ……っか、まだまだ若僧のクセして一端いっぱしの口を利くようだがの、わしたちが生き残るには、ああするほかなかったんじゃ!」

 議論に熱が入り、じーさんが声を荒げる。

(……しかし、何の話をしているんだ?)

 情報が断片的過ぎて、文脈が読み取れない。

「鈴蘭は……必要な犠牲だったんじゃ……、あの時は、ああするしか……、そんなことくらい、お前もよくわかっておるじゃろう……?!」

 ……鈴蘭?

(鈴蘭が、犠牲になった? ……何を言っているんだ?)

 どうにも解せない。

 彼が、じーさんが、武彦とどんな話をしているのか、憶測すら立てられない。

「仮に、再び我が一族に神の呪いが降り掛かろうとも、まだ、奥の手が残っておる……。……そうじゃ、お前も知っての通り、万一に備え、このためだけに生かしておいた生贄がのう……」

(……生贄……)

 じーさんが口にした不穏な言葉に、思わず、息を飲む。

「なに? ……タケ、お前はそれを本気で言うとるんか?! ――馬鹿者!! 我が家の跡取りがそんな体たらくだから、このような不測の事態に陥ったんじゃろうが!」

 薄暗い廊下にじーさんの怒号が響く。

「……ふん、勝手にせい!! お前がそこまで聞き分けのないドラ息子だとは思わなんだ! あとになって泣きついて来ても、もう遅いぞ?! ――そうじゃ、きっと、後悔することになる!! せいぜい、覚悟しておくことじゃな!!」

 力任せに受話器を置いたのか、ガチャリと大きな音が立つ。

 おれの心臓も跳ね上がる。

 しばしの沈黙。

「……確かに、わしが神を売ったのは事実じゃ。それはタケの言う通り、否定はできん。だから鈴蘭が、愛娘があんなことになった。……だが、それも仕方のないこと。まさか、本当に、町の伝承にあるような祟りが起こると、どうして思えよう? ……そうじゃ、わしは正しい。現に、今はまだ、犠牲は少ない……。だが、国に逆らっていたら、こうでは済まなかったはずじゃ……。あの戦争の時のように、非国民として扱われ、挙句、一族を路頭に迷わせるわけには……」

 何か、恨み言のようなことをつぶやきながら、じーさんは、おれの潜む場所とは反対方向に歩いていった。

(……鈴蘭……)

 先ほどの会話の中で槍玉にあげられた彼女のことを思う。無邪気で、純粋で、心から自然を愛する少女。

 鈴蘭の身に、何かあったのだろうか?

 ……それにしては、あまり変わった点は見受けられなかったが。

(……っち、頭痛がひどいな……)

 側頭部を押さえる。

 気になることは多いが、あいにく、今のおれに、考えをまとめるだけの余力は残されていない。

 そのまま台所まで歩いていき、一杯の水を飲んだ後、再び、自室へと戻る。

 頭痛は、悪化する一方だった。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。


 夢を見ていた。

 夢の中に、少女はいた。『イイヅナ様』と呼ばれる、銀髪の少女が……そこにいた。

「きみの目的はなんだ?」

 だしぬけに言った。

「どうしてきみはおれをここに呼ぶんだ? 町の伝承にあるように、おれを捕らえて食らうためか? それとも、約束を果たせないおれを裏切り者と罵り、軽蔑し、唾棄だきするためか?」

「いいえ、違います」

 はっきりと断言する。

 それでも、おれの気は収まらなかった。

「だったらなんだ? 他にどんな意図があるというんだ? まさか、高御座たかみくらに座すあの西洋の神々のように、苦しみ惑うおれを安全な場所から静観し、嘲笑するためじゃないだろう? もしそうなら、どうぞ盛大に笑ってくれ。お前は誰も救えない大馬鹿者だと。――そうとも、おれは愚か者だ。国にいいように利用され、奴らの手のひらで踊らされ続ける、哀れな道化だよ。まったく、笑える話じゃないか」

 もはや自棄やけだった。

「もう、おれは疲れたんだ。そっとしておいてくれ」

 顔を背ける。

 少女は何も言わない。

「おれは、おれは……」

 唇を噛み、手を固く握りしめる。

「おれは、一体誰なんだ……」

 わからなかった。ヒトシと名乗るおれの記憶と、周平を名乗る今のおれ。どちらが本当のおれなのか、まるでわからない。

 何が本当で、何が虚偽なのか。どんな行動を取るのが一番正しいのか。おれには、判断がつかない。

 だから、おれは、神を捨てて、自らの目的を――。

「何も、迷うことはありません」

 少女を愚弄ぐろうし、あまつさえ突っぱねるようなことを言ったのにもかかわらず、少女は子供をあやす母親を思わせる優しい声で告げる。

「あなたは、あなたが正しいと思った道を進む、ただ、それだけでいいのです」

 おれは顔を上げる。まっさらに澄んだ、彼女の綺麗な目を見る。

「……そうは言うが、おれにはその正しい道がわからない。おれの取りうる行動のすべてが裏目に出ている気がして……、怖いんだ。自分でも情けないとは思う。でも、それが本音だ。今となっては、もう、おれがどうしてこの道を選んだのかもわからなくなる始末だ」

 少女の無垢な瞳の輝きが、黒く濁ったおれの胸中とまるで対照的に映り、たまらず、顔を伏せた。

 おれを、責め立てているような気がした。

「いいえ、そんなことはありません」

「なぜ、そう言い切れる?」

「すべては、あなたが選んだのですから」

「おれが、選んだ、だと……?」

「そうです。あなたは、自分がヒトシであることよりも、周平であることを望んだのです」

 脳裏に走る、強い衝撃。

 にわかには信じがたかった。

「……嘘じゃ、ないんだな?」

「わたしが嘘をついていないことは、あなた自身がよくわかっているはずです」

 少女がそう言って確信した。やはりおれは『ヒトシ』なのだと。

 認めたくはなかった。信じたくなかった。おれの記憶が、ヒトシという少年の記憶などと、どうして理解できるだろう? そんな馬鹿げた話、納得はおろか、許容できるはずもない。

 しかし、これが事実だ。薄々わかっていたことだが、おれは風祭周平である以前に、ヒトシなのだ。孤児院で暮らしていた、あの敬虔けいけんで慎み深い、心優しき少年だったのだ……。

 皮肉なことに、今となっては、もう、神に対する畏敬の念は微塵も残っていない。あるのは、自分の身に降りかかった理不尽に対するいきどおりと、やり場のない激情だけだ。

 だが、わからないのは、なぜおれはヒトシではなく、風祭周平になったのかということ。これを明らかにしなければ、おれは前に進めない。

 そんな気がした。

 もちろん、恐怖はある。恐れがないわけがない。

 それでも……、手が触れそうなほどに迫った真実から目を逸らすなんていう卑劣な真似はできなかった。芥川の奴がおれに忠告したように、もう、逃げたくなかった。

 意を決して顔を上げ、彼女の目を見据える。

「教えてくれ……、どうしておれは、ヒトシではなく、風祭周平を名乗るようになったんだ? 父……風祭宗吾に引き取られたからか? しかし、なぜ、父はおれを……」

「その理由は、あなたが一番ご存知のはずです」

 少女の透明な瞳は、おれの迷いを容易く見透かす。

「あなたの前には、二つの道があります。目に見えるものすべてを覆い隠した末に行き着く秘匿ひとくの道と、すべてを知ろうと視線を向けた果てに辿り着く真理の道の両道が」

「二つの道……」

「かつてのあなたは、後者を選びました。たとえ何が起ころうとも決して意識を途絶えさせてはいけない真理の道を。確かにその道は過酷です。歩みを進めるのは生半可ではありません。だからこそ、あなたはこうして戸惑い、足踏みしています。ですが、その迷いこそが真理に至る道の証。なぜなら、だからです。そして、隠されているものを発見するには、途方もない労力を必要とします。あなたが道を見失ってしまうのは当然のこと。何も、間違ってなどいないのです」

「迷いこそが、真理に至る道……」

 それでも、おれは納得できなかった。

「……仮におれの選んだ道が間違いじゃないとしても、きみの言う真理とは何だ? おれは一体、何を知ろうとしてたというんだ?」

「あなたが存在する意味です」

「おれが、存在する意味?」

 予想だにしない返答。これまた大きな疑問符が浮上する。

「なんだ、それは? おれが、そんな抽象的な問題の答えを追い求めていたというのか?」

「そうです。なぜなら、からです」

 急に、何を言い出すのか。呆気に取られたおれは反論できず、立ち尽くす。

「あなたは、存在しません。だからこそ、あなたは自分自身を探し、いまだに追い求め続けているのです」

「馬鹿な。それはありえない。現に、おれは、こうして存在しているじゃないか」

「存在しないからこそ、あなたは存在しているのです」

「それはおかしい。矛盾している。存在しないものが存在するなんて理屈は通用しない。そんなのは、死人が生きていると言っているようなものだ」

「いいえ、そうではありません」

 強い断言口調に、一瞬、たじろぐ。

「あなたという存在は、あなた自身によって無化むかされているのです」

「無化……?」

 理解しがたかった。

「きみの言っていることが、まったくわからない」

「では、表現方法を変えましょう。あなたは、『無』というかたちで『在る』のです」

「無というかたちで、在る?」

「そうです。さながらそれは空間に開いたひとつの点――空乏くうぼう――のように、あなたは存在の中に生じた否定者――非存在者なのです。しかし、それだからこそ、あなたは『在る』ことが可能なのです。なぜなら、可能存在とは、あらかじめ不可能性をはらんでいるのですから」

「……それでも、うまく飲み込めない」

 えらく哲学的な話を前に混乱していると、少女はゆっくりと目を閉じ、とつとつと話し始める。

「あなたは初め、何者でもありませんでした。無垢な赤子としてこの世界に生まれ落ちた時、あなたはまさに世界の同一者として存在したのです。つまり、他の動植物と何ら変わらない、自然そのもの。だからこそ、あなたは自分を何者かにする必要がありました。自分自身を、世界と切り離した別の存在――すなわち無――として存在させるために。それはたとえば、高山ヒトシという固有な存在であり、そして、風祭周平という別の存在でもありました。あなたはあなたでありながら、同時に、あなたではありません。あなたは存在と非存在のあいだを絶えず浮動し続けています。それは揺らぎ。自分が何者でもないという不安との絶えざる戦い。ですが、胸の奥から生じる得体の知れないその感覚――不安――こそが、自分が無であるという何よりの証拠。こうして確かに存在していながら、じつは存在者としては何者でもない事実に気付くことこそが、不安の正体だからです」

「待ってくれ。高山ヒトシだと? それがおれの名前なのか?」

「はい、そうです。あなたは高山ヒトシとして生を受けました。今から17年前の夏の日……、わたしの愛する尾前町で産まれたのです」

「高山、ヒトシ……」

 忘れていたおれの本名。かつて幼少期に名乗っていた名前……。

「不安から目を背けてはいけません。あなたはあなた自身を見つめるのです。あなたが追い求めるべき真理の道。それは他でもない、あなた自身を発見するということ。常に目の前にあって、それだからこそ見えないあなた自身を見つけること。あなたは、あなたを取り戻さなければならないのです。――目の前にある自分自身を飛び越えて、常に現前げんぜんする自分をその中に取り戻さなければならないのです」

「……自分自身の、取り戻し……」

「目の前にある自分を取り戻す……、それは超越ちょうえつと呼ばれます。自己の超越は、そのまま自己の時間化を意味します。時間とは、有から無への絶えざる移行だからです。あなたは存在から非存在へ、非存在から存在へ、進行と逆行を循環的に繰り返します。それがあなたという存在です。あなたの時間は、あなたにしかありません。あなたの過去を知るのはあなたを置いて他に何も存在せず、また、あなたという時間は、あなた以外に存在しません。あなたはあなたというひとつの世界であり、世界の中に生じた世界――世界の中の存在者なのです。あなたは自分の世界を見つめ、本当の自分を発見し、有と無の間隙かんげきを飛び越え、その手で取り戻す、そのために産まれたのです」

「きみは、きみは……、イイヅナ様とは、一体、何なんだ?」

 頭の中に注ぎ込まれる知識の奔流ほんりゅうに耐え切れず、感極まって問いかけると、少女はゆっくりと微笑んだ。

「わたしは、この町――尾前町――そのもの。あなたがあなたの世界を持つように、わたしもわたしの世界を持っています。そして、尾前町で産まれたあなたは、わたしの可愛い赤ん坊のようなもの。だからどうか、くじけないで、その目で世界を見つめて、本当の自分を――時間を、取り戻して……」 

「イイヅナ様――……」

 少女を呼ぶ声は、儚くかき消される。

 夢の世界は溢れんばかりの光に包まれ、おれは全身を突き刺し貫くような光波に飲み込まれる。

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