第二十話 真相

「シスター、それは一体どういうことだ?!」

 血相を変えた露木が声を荒げながら詰め寄ると、シスターは小さく身を跳ねらせる。

「十兵衛だぞ?! この孤児院で3年も一緒に過ごした十兵衛だぞ?! あんたが知らないわけないだろうが! 何をとぼけてやがるんだ!!」

 恐ろしいまでの露木の剣幕に圧倒されてか、シスターは後ずさる。

「きゃっ……!」

 勢い余って壁に背中をぶつけたシスターが短い悲鳴を上げる。

 刹那、シスターが手にしていた本が、ばさりと床に落下した。

「ちょ、ちょっと、ギンジ、やりすぎよ!」

 本が床に衝突した物音で我に返ったのか、天宮が非難の声をあげる。

 おれも、その声につられるようにして身体が動いた。

 視線が弧を描いて床の方に向けられる。

 落下の衝撃でページが開かれた本を見て、おれは目を丸くした。

「写真……」

 開かれた本から飛び出したのか、床には数枚の写真が散らばっていた。

 その時、初めてわかった。シスターが持っていたのは本ではなく、アルバムだったということに。

「ご、ごめんなさい……、すぐに拾うから……」

 シスターは謝罪すると同時に身をかがめ、床にばらまかれた写真を慌てて拾い集める。

「おれも、手伝います」

「あ、あたしも!」

「微力ながら、ぼくも力になります」

 天宮と呂久郎も、おれの行動にならい、床に散らばった写真を掻き集めはじめた。

 露木だけが、ひとり、怒りに身を任せるかのように、わなわなと肩を震わせながら立ち尽くしていた。

 フローリング仕立ての床の上に散らばる、無数の写真。

 おれは、そのうちの1枚を拾い上げる。

「…………!」

 誘い込まれるかのように注がれた視線。

 絶句した。

 孤児院の子供たちが一堂に会した集合写真。おれの目は、そこに写ったひとりの少年の姿に釘付けとなった。

 列の中央付近、無邪気に笑う子供たちに囲まれながら、笑顔で佇む少年……。

 ――そんな、馬鹿な。

 写真を持つ手が震える。

 胃の奥が締め付けられ、おれはたちまち吐き気を催す。

 信じられなかった。

 ありえなかった。

 こいつは……、この、少年は……。

 見覚えがあった。

 いや、見覚えがあるなんてものじゃない。

 だって……、こいつは……。

 震える手と、定まらない視線。無作為で不確定な動きは、写真に写る少年に焦点を合わなくさせる。

 まるで、現実から目を逸らすかのように。

 だが、おれは見てしまった。この目ではっきりと。余すところなく。彼の、その姿を……。

 アルバムから抜け落ちた写真に写っていた、ひとりの少年……。

 そいつは、紛れもない、『』その人だった。

 つまり、だった。

 写真の隅には、1961年7月撮影と書いてある。

 奇しくも、おれが最後に尾前町に来た年だった。

 じゃあ、あいつは……、夢の中で少女と約束を交わした少年は……。

(おれでは……ない?)

 そうとしか考えられない。

 おれは、この孤児院のことなんて知らない。

 知らないはずなんだ。

 そうでなければおかしい。

 おかしい……。

 ありえない……。

(……では……、あの夢で見た光景は……?)

 おれの……、昔の記憶では……、ない?

(……とすると……、やはり、この、写真に写った少年の……?)

 馬鹿な。それこそおかしな話だ。赤の他人の出来事や記憶を夢で見るなど、聞いたことがない。

(わからない……、わからない……)

 酷い頭痛が襲って来た。

 まるで、おれではないもうひとりのおれが、記憶の底から這い出ようと激しくもがいているかのような……。

「……シスター」

 おれは声を絞り出す。震えたそれは、しかし、声のていをなしていなかった。

「この……、この、写真に写っている少年は……」

 恐る恐る写真を差し出し、少年を指さす。

「え、なに? どうしたの?」

 おれの言っていることがわからないのか、シスターは目を白黒させて尋ね返す。

「だから、この少年は……」

 言葉が上手く出せない。

 自分が何を言っているのかさえもわからない。

「……この、男の子のこと?」

 戸惑いつつもおれの言わんとするところを汲んだのか、写真に顔を寄せる。

 心臓が強く脈打つ。

 喉はカラカラに乾いていた。

「……ごめんなさい、わたし、ちょうど5年前の秋にこの孤児院に来たから、写真の時期の頃についてはあまり知らないの」

「……っ」

 シスターの謝罪は聞こえない。

 ただ、『わからない』という語句だけが、嫌に頭に響いた。

「……露木、露木はどうだ?」

 続いて、怒り心頭の様子で立ち尽くす露木に写真を見せる。

「この少年に見覚えはないか? お前なら、お前なら知っているはずだ」

 露木は不愛想な顔付きで写真を見るが、その反応は芳しくなかった。

「……確かに、見覚えがある気がするが……」

 露木は唸る。

「5年前……」

 額を指で押さえ、記憶を絞り出すようにつぶやく。

「5年前……?」

 答えを導き出すはずの思考は、やがて疑問符に変わる。

「……駄目だ、どうしても思い出せない」

 そして、最終的には考えることを放棄してしまった。

 全身から力が抜ける。

「じゃあ、じゃあ……」

 おれはわらにもすがる思いで周囲に視線を這わす。

「そうだ……、呂久郎……」

 まだ希望はあった。

 すべての写真を拾い終えたのか、神妙な表情で立つ呂久郎に目を付ける。

 よろめきながら、彼に写真を見せる。

「……残念ながら」

 彼はゆっくりと首を振るう。

「ぼくも、5年前は病床にせていたので、詳しいことは、何も……」

 言葉少なの否定は、しかし、おれを絶望の淵に沈めるのには充分だった。

 おれは自分の目の前が真っ白になるのを感じた。

 誰だ……。

 誰なんだ……。

 この……、写真に写る少年は……。

「……ヒトシ」

 急激に視界がひらける感覚。

 不意に届いた誰かの声が、おれが直面する大きくそびえ立った壁を壊した。

 おれは反射的に声の主を探した。

「……その子は、ヒトシ」

 天宮だ。彼女が、なぜか、写真に写る少年の名をつぶやく。

「間違いないわ、ヒトシよ」

 写真を見て、きっぱりと断言する。

「ヒトシだと……? ……そういえば、昔……」

 誰かの名前を何度も連呼する天宮に呼応するように、露木もまた、その名をつぶやく。

 ヒトシ? ヒトシ……?

 誰だ、そいつは。

 まったく聞き覚えがない。

 そもそもの話、なぜ、天宮が、孤児院で暮らしていた少年の名前を知っているのか。

 それも、露木でさえもよく覚えていないようなことを……。

 ますますわけがわからない。

 またしても目の前が激しく明滅めいめつする。

 白と黒の世界が交互に現れては、消え、現れては、消え……、おれは見当識を失いかける。

 少年……。

 写真に写るおれが、おれでないのなら……。

 あるいは、写真に写るおれこそが、おれならば……。

 ……今、ここにいるおれは、一体、誰なんだ……?


『約束……』


 彼女の声。

 写真の少年が、夢の中の少女と交わした約束。

(おれは……、おれは……)

 ヒトシと言う名の少年では……ない。

 それでも……写真に写る少年は、おれの少年の頃と瓜二つ……。

 どういうことだ? おれと少年の、この不可解な共通点が、一体、何を意味するというのか?

(おれは……おれは……)

 今の今まで一度も考えたことがないような恐ろしい思考が湧き上がる。

 ヒトシと言う名の少年と、おれとの間に残された、たったひとつの可能性……。

 おれは……。

 おれは……。

 ……

(つまり……おれは……)

 かつて孤児院で暮らしていた……ヒトシと言う名の、少年……?

(嘘だ……)

 信じられるはずがない。

 だが、そうとしか考えられない。

 おれが、ヒトシと言う名の少年でないのなら……、あの夢が……、彼女と交わした約束が……すべて虚偽と化す。こっちの方がありえない。あってはならない。

 しかし、いずれにせよ、どちらの可能性も否定できない。現時点では、何も、断言はできない。

(おれがヒトシなのか……、おれがヒトシであるということが嘘なのか……)

 5年前……。

 5年前、おれに、一体、何があったのか……。

「ぐ、うぐぐぐぐ……」

 頭痛はいよいよピークに達する。

 5年前……、孤児院……、ヒトシと言う名の少年……、天狗攫い……、イイヅナ様……。

 断片的な情報が次々と浮かび上がっては、泡沫うたかたのように儚く消え去る。

 かつて見たことのある景色、未だ見覚えのない光景……、息つく暇もなく、記憶は障壁を失った激流のようにほとばしり、蛇のように大きくうねっては、のた打つ。

 まるで、おれの中に居る、もうひとりのおれが暴れ回るかのように……。

 封じられていた記憶の糸が、今、この時をもって、一気に綻び出す――。

 おれは……。

 おれの、本当の名前は……。

 ここで、おれの意識は不意に途切れた――。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。

 

 ――『周平』。


 違う。


 ――『周平』。


 違うんだ。

 は――の名前は……。

 遠く、彼方にある、懐かしい記憶。

 とうの昔に消し去ったはずの過去が脳裏にちらつき、邪魔をする。

 ――周平。

 他の奴らがその名を口にするたびに、の心は乱れ、決意が揺らぐ。

「……

 吐き捨てるように言う。

 奴は……、おれではない。

 沸々ふつふつと怒りが込み上がる。

 その名は、とっくに捨て去った。

 今のおれには、偉大なる指導者ドゥーチェ『A』より授かった別の名前と、司令塔ハンドラーという地位がある。

 だからこそ、おれは今日まで生き長らえたのだ。

 愚劣な周囲の人間の手によって存在を抹消されたおれが、今も、こうして……存在していられるのだ。

「……今さら、何を迷うことがある?」

 最大公約数的な感情など、何の役にも立たない。

 おれには、約束がある。

 彼女と交わした約束が……おれの中に、今も残り続けている。

「おれは、奴とは違う」

 強く、自分に言い聞かせる。

 都合良く記憶を塗り替え、過去を捏造するような奴とは……違うのだ。

 おれが素性を偽ってまで存在する理由。

 それは、他でもない、彼女との約束を果たすため。

 それが証拠に、順調に事が運んでいる。計画に支障を来たしかねない邪魔者は排除し、可能な限り障害を取り除いた。

 3年。

 3年もの間、計画を実行する機会を虎視眈々と伺い、息を潜めて待ち続けたのだ。

 そして、今、ようやく時期が整いつつある。

 これは言うなれば、『おれの過去を取り戻す』ための復讐計画。

 入念に下準備し、布石も整えた。

 もう、遠慮する必要はない。

 懸念すべきは、やはり、あの男の存在だったが……。

 現時点であの場所に到達できていない事実を鑑みると、未だ真相には辿り着けていないらしい。

 であれば、少々、買い被り過ぎだったということになるが……。

(実際、奴は今頃、自らが繋いだ因縁に惑わされている頃だろう)

 まったく、世話の焼ける男だ。

 そんなことだから、誰も救えないのだ。彼女を……守りきることが出来ないのだ。

 結局、おれが動く羽目になる。

 自分を見失いつつある、奴の代わりに……。

「…………」

 影が、本体に成り変わる、か。

 面白い。

 せいぜい、苦しむがいい。

 おれは、あんたの数倍は苦しんだ。

 今は、まだ、大人しくしていることだな。

 暗い、暗い……記憶の檻の底で。

 おれは笑わずにはいられなかった。

 あの頃とは立場が逆転したわけだ。

 ……いや、この際、元の鞘に収まったと表現する方が適切か。

 なんにせよ、事態を静観する時間は終わった。

 もう、指をくわえて屈辱に甘んじる必要はない。

 おれは、あの時のような純粋無垢な小僧ではないのだ。

 ゆっくりと目を閉じる。

 視界は黒に染まる。

 柄にもなく、昔のことを思い出していた。

 もう、随分と前の話だ。

 おれは幼い頃から動植物が好きだった。父の施す徹底した帝王学と、窮屈な圧迫感にまみれた詰め込み式の生活によって荒んだ気持ちを落ち着かせ、嫌な現実を忘れさせてくれたからだ。

 おれは、年に数度訪れるこの町と、自然が、好きだった。

 皮肉にも、おれ自身がどこか牧歌的な性質を持っていたがゆえに、あの悲劇は起こった。

 ガキだったおれは、鈴蘭と一緒に大天山の中腹に赴き、そこで傷付いたキツネを見つけ、介抱したことがあった。

 それが、どういうわけか風祭宗吾の逆鱗に触れた。

『殺せ』

 奴は冷酷にそう告げた。

 信じられなかった。全身に鳥肌が立つ思いがした。

 泣いてキツネを殺すことを拒むおれの顔を無感動に眺めるあの男の冷たい表情を、おれは今でも克明に覚えている。

 汚物を見るかのような蔑みの視線。

 嫌だ、嫌だと駄々をこねるおれの頬を、風祭宗吾は問答無用とばかりに殴りつけた。

 容赦ない平手打ちにおれの身体は無様に吹っ飛び、そのまま固い地面の上に投げ出される。

『お前が殺さないのなら、こうして代わりに痛めつけられるだけの話だ』

 血も涙もない、一方的で無慈悲な宣告。

 それは何も、口先だけの脅し文句ではなかった。

 父は、昔から、不出来のおれが気に入らないようだった。どれだけ努力しても成績が中の上程度でしかないおれを事あるごとに罵倒し、体罰と言う名の暴力を振るった。

 母は何も言わなかった。息子であるおれに殴る蹴るの暴行を繰り返す父を咎めようともせず、むしろ、ゴミでも見るような冷ややかな視線をおれに送るだけだった。

 無力だった。おれも、母も、家庭内のみならず国家にさえ絶大な権力を誇る父に、逆らえるはずなどなかった。

 もっとも、だからといって、父が行う惨たらしい仕打ちに耐え忍ぶしかないおれを黙殺するという卑怯極まりない行為が許されるわけではないが。

 あの時だってそうだ。キツネを殺したくないと土下座し、泣いて許しを請うおれを、母はひどくつまらなさそうに鼻で笑った。

『お父さんの言うことを聞きなさい』

 彼女はいつもそう言っていた。

 父の操り人形。意思のない道具。強者にこびを売る弱者。

 要するに母は、父に負けず劣らずのくずだということだ。

 父の要求を拒否するおれは足蹴にされ、ボールか何かのように何度も蹴りつけられた。

『家畜の分際で弱者に同情するなど、愚劣の極みだ。身の程を知れ』

 蹴られる、蹴られる。

 胃液が込み上げ、体中の骨が軋む音に気が遠くなる。

 だが、背中と腹部に走る、焼けるような激痛が、たびたび意識を飛ばしかけるおれに我を取り戻させる。

 まさに地獄だった。

『どうした? このままではお前が死ぬことになるぞ?』

 冷酷な言葉が矢のように降り注ぐ。その間も、暴力はやまない。

 命が奪われる。

 ガキだったおれが、容赦なく降り注がれる暴力の雨に抗えるはずがなかった。

『わ、わかりました……』

 内臓がひっかき回されるような激しい痛みに耐えかねるあまり、本能的な逃避行動から来る懇願が口をついて出た。

『あの子を……、キツネを、殺します……』

 泣きながら言う。

 それは権力に屈した何よりの証であり、おれがおれ自身に敗北した忌まわしい瞬間でもあった。

 父は満足げな笑みを浮かべてこう言った。

『よろしい。ならば、私がお前をこうして踏みつけたように、そのキツネを踏み殺してやれ』

 もはや悪魔の所業としか言いようがない命令に背筋が震え、総毛立つ。

 残虐非道な父はもとより、奴の言うことに従うしかないおれの無力さに吐き気を催した。

 ふらふらと立ち上がる。

 おれは操り人形がするようなおぼつかない足取りで、キツネを介抱した場所まで向かった。

 弱ったキツネが、体を丸めて木の根元で休んでいた。

 嗚咽を漏らしながら近付くおれの存在には気が付かない。

 一歩、また一歩、おれは距離を詰めていく。

 足はがくがくと震え、視界は涙で滲んではっきりしない。

 ぼんやりと見えるのは、すやすやと寝息を立てるキツネ。黄金色の毛並みが、どこまでも美しい。

 反面、おれは汚い存在だった。醜く、哀れで、愚かな、見るに堪えない汚濁しきった生物だった。

 そんな蛆虫うじむし以下のおれが、この愛らしい生物を殺さなければならないのだ。自らの意志で、踏みつけなければならないのだ。

 自分が苦しみたくないからという、あまりにも身勝手な理由で。

 だが、やらなければいけない。

 そうしなければ、結局、おれが死ぬ。

 なんというエゴ。なんという矛盾。

 殺したくないのに、殺す。生きる価値がないのに、死にたくない。

 これほどの不条理があるだろうか。これほどの理不尽があるだろうか。

 頭が痛い。割れそうだ。ガーン、ガーンと耳鳴りがする。黙れ。おれの心を惑わすな。

 脳から発せられる危険信号は、やがて、おれを獣のように突き動かす合図となった。

 胸の内側をのたうち回る衝動に任せ、おれは、キツネを思い切り踏みつけた。

 キツネは小さくその身を跳ねらせ、驚いた様子でおれを見た。

 おびえた仕草で向けられる、無垢な瞳。

 おれの心臓はありえないくらいに飛び跳ね、それと同時に冷や汗と涙が一斉に噴き出た。

 ――なんてことをしているんだ、おれは!

 不意に我に返るが、もはや手遅れだった。

 湯水のように湧き出る後悔を振り払うように、再び、悪魔的な怒りの感情に火をつける。

 ――この火を絶やすな! 燃料をくべろ!

 そうでないなら、おれは二度と、誰かに対して暴力を振るうことはできない――。

 それは、政府高官の息子として生きるおれにとっては、死も同然だった。

 殺せ。

 殺せ。

 殺すんだ。

 呪詛のように繰り返し、自分に言い聞かせる。

 おれは躊躇なく足を振り下ろした。

 何度も、何度も、無抵抗のキツネを踏みつけた。

 足元に伝わる妙に柔らかな感触を、おれは忘れることはできないだろう。

 小さな悲鳴を上げてもだえるキツネの姿を直視できず、おれは胃の内容物をまき散らした。

 命を奪うという感覚。

 高揚感はない。

 一切の感情が失われていく。

 気が付けば、キツネは動かなくなっていた。

 おそらく、内臓が破裂でもしたのだろう。

 死んだ。

 死んだのだ。

 おれが殺した。

 殺してしまった。

 遅れて自覚し、また吐いた。

 ひどい頭痛が、おれを襲った。

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 いつの間にか、おれは父のところに戻っていた。

 しばらく記憶が飛んでいた。

『殺したのか』

 朦朧とする意識の中、そう確認を取る父の言葉をやけにはっきりと覚えている。

『よろしい』

 おれの様子が尋常でないことから、何が起きたのかを察したのだろう。

 奴は不気味な薄笑いを口元に貼り付け、深く頷いた。

『これで、お前も少しは理解したか。弱者にかける哀れみになど、何の価値もないことを』

 奴が何を言っているのか、とても理解できなかった。

『善と悪。富と貧。清と濁。あるいは有産階級ブルジョアジー無産階級プロレタリアート。なるほど、確かに、あらゆる分野においてヒエラルキーは存在する。上位層と下位層という、にべもない区別がな。しかし、そういった分類を超越するのが生と死という絶対的な不可能性だ。そこに強弱の関係性はない。生は不条理に与えられ、また、不条理に奪われる。どちらも選ばないという選択はできない。必ず、そのどちらかを選ばなければならない。生きるか、死ぬか。中庸ちゅうようはありえない。選択権の放棄もまた、ありえない。例えば、自死は、生という選択の放棄ではない。逆に、死の獲得なのだ。我々に与えられた唯一の自由は、選択することにある。私は選ぶ。生を。だから、殺す。生きるということは、殺すということだ。自然界も人間社会も、根底にあるのはその二点のみ。この二つは不可分だ。ただ、弱者が強者に呑まれるという法則があるのみ。弱者は食らわれ、強者は食らう。その繰り返し。生と死の果てしない流転るてん。我々が望む、望まないにかかわらず、常に、抜け出すことはおろか、抗うことさえ叶わない、生と死の永遠の流れの渦中に放り込まれている。支配されたくなければ、支配しろ。さもなくば、醜く地を這う獣のように、永遠に堕ちるまでだ』

 法則。それは絶対に覆せないもの。父にそう教わった。

『お前は弱者を殺すことで生き残った。なぜなら、お前は、キツネをその手で始末しなければ、私という強者に殺されていたからだ。よって、この法則は正しい』

 ふざけるな。どうしてお前のような悪党が死なないのだ。くそったれ。そんな法則など、おれの知ったことか。

『すべてのものは死ぬ。ならば、弱者に対する同情や哀れみには何の意味も価値もない。

 見ろ。現にキツネは死んだ。無力な存在は生きていても仕方ない。むしろ邪魔だ。ゆえに食らうのだ。

 排除しろ。それができないのなら、お前はいずれ、弱者に与えた情けによって寝首を掻かれることになる』

 なら、お前が死ね。

『だが、これですべてが終わったわけではない。むしろ、始まりに過ぎないのだ』

 殺意が芽生え、憎しみに奥歯を噛み締める中、父はさらに続ける。

『私が、そして、お前がこれからやろうとしていることは、たかだか一匹の獣を殺すのとは比較にならないほどに残酷で、世間で言われるような慈悲や寛容とは遠くかけ離れたものだ』

 これは、暗に、新国際空港開発計画のことを指して言っていたのだろうが、ガキだったおれにはそんなことがわかるはずもなく、よしんばわかったとして、とても受け入れられるはずもなかった。

 ただ、おれの大事なものを平気で踏みにじる目の前の男が、憎かった。

 奴は、風祭宗吾は、いつだっておれを試していた。国家の忠実な奴隷となる資質が、おれにあるのかどうかを。

 権威者としての威厳と風格、それを手にするために必要不可欠である理不尽で過酷な現実を、あの男は容赦なく突きつけた。ある時は暴力によって体に覚えこませ、またある時は絶望によって、頭の中に刻み付けたわけだ。

 だからだろう、この時の出来事を境に、おれは他者など気に留めなくなった。

 邪魔者は排除する。例外はない。

 自分が勝ち上がるためには、手段など選んでいられない。

 殺すか、殺されるか。食うか、食われるか。

 ならば、生き残るためには、殺す。

 それだけの話だ。

 世の中の仕組みは、非常にわかりやすい。

 だからこそ、おれは――。

 いつか、あの男を――風祭宗吾を、殺してやる。

 あの時、無垢で愛らしいキツネを殺したのと同じように奴の身体を思い切り踏みつけ、なぶり殺してやる。

 許しを請うても駄目だ。泣いて謝ろうが絶対に力は緩めない。

 簡単には殺さない。たっぷりと時間をかけて、ゆっくりと苦しめてから、殺す。

 それがおれの復讐。

 思えば、この頃からだった。おれの頭痛が慢性化し始めたのは。

 父に、国に、そして何より、大事なものを守れなかった無力なおれ自身に対して憎悪が燃えるとき、その頭痛は痛みのピークを迎える。

 まるで、おれがおれでなくなるような、そんな病的な感覚。

 ある意味、それは事実なのかもしれない。

 なぜなら、今のおれは――。

「……偉大なる指導者ドゥーチェよ。おれはもう、無力なガキではありませんよ」

 あの日を境に、おれの人格は矯正不可能なまでに歪み切った。

 国を憎み、権力を敵視するおれを、『A』が拾い上げ、反国主義者として鍛え上げるのは、半ば必然だったと言えるだろう。

 おれは、おれの復讐を果たす、

 そうでなければ、あの時に殺したキツネが浮かばれない。

 彼女は――『イイヅナ様』は救われない。

 この手を無垢なる血で染め上げたおれの、せめてもの罪滅ぼしだ。

「だからこそ、憎き風祭宗吾の手駒は、おれの手で粛清してやらなければならない」

 必ず。

 ゆっくりと目を開ける。

 窓に、恐ろしい形相の人物が映し出される。目つきは鋭く研ぎ澄まされ、この世のすべてを敵視するかのような視線を送っている。

 それは紛れもない、だった。

 さて。

 すべての準備が整った。

 誰にも気付かれないように、名前も素性も変えて……孤独に生き抜いてきた。

 誰にも邪魔はさせない。

 は、今度こそ……。

 彼女を……。


『高山の 草葉の陰に 在りし日の 姫百合ひめゆりついばみ 堕つ閑古鳥かんこどり


 おれには、この短歌の意味がわかる。あの男には、わからない。

 そこが、おれと、あの男との間に生じた、絶対的な差だった。

 問題は、奴が、これからどう動くかだが……。

「……もう少し、面倒を見てやるとするか」

 あの男はまだまだ頼りない。

 今まで通り泳がせておくのもいいが、自由に遊ばせるあまり計画が頓挫してしまっては本末転倒だ。しかるべき時を待って誘導するのが吉だろう。

 なに、奴ではあるまいし、今さら、へまはしないさ……。

 おれは1枚の写真を手に取る。

 角が擦り切れ、至るところに折れ目が生じた古ぼけた写真。そこには、ひとりの少女が写っている。

 花も恥じらう可憐な笑顔を浮かべ、カメラに向かって目線を送る少女。

 この写真を眺めるたび、おれの胸がギュッと締め付けられる。

 おれは、彼女との約束を果たさなければいけない。

 たとえ、どんな手段を使ってでも……。

 絶対に……。

「…………」

 これまで、5年も騙し続けて来たのだ。

 彼女を救うために、おれは、おれ自身を騙しているのだ。

 だから、これからも、ずっと、おれは……。

 他でもない、おれ自身を、欺き続ける……。

「――すべては、イデアの影に過ぎない」

 目に見えているものが真実とは限らない。

 誰も、の正体を知らない。

 以外を除いて……、誰も……。

「……もうすぐ、真実が明らかになる」

 その時まで、せいぜい、抗うことだな。

 ――

 映る視界は黒一色。

 何もない世界。存在するのは『無』のみ。

 存在しないはずのは、『無』である世界と同化する。

 は存在しなくなる――。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。

 

 気付けば、おれは、自分の部屋にいた。

 どうやって孤児院から家に帰ったのか、よく覚えていない。

 ただ、自分がひたすら何かを考えていることだけを知っていた。

 何を考えていたのかはわからない。

 それでも、おれは、知っていた。

 頭の中に雑多に散らばる無数の情報を整理し、どうにかひとつに纏め上げようと苦心しているのだと、知っていた。

 まるで、閉じ込められた檻の中から、注意深く外の様子を窺うように……。

 そう、おれは……。

「…………」

(……馬鹿な話だ、くだらん比喩ひゆだ……)

 即刻、自分の心理状態を否定する。

 今は、そんな幻想に惑わされている場合ではない。現実に目を向け直すべきだ。

 時刻は夜。すでに日は落ち切り、激動の一日が終わりを迎えようとしている。

 おれは部屋を出た。

 静まり返った長い廊下。

 沈黙を湛える黒電話に手を伸ばす。

 いつものように、父に報告した。

『……浅間一家が無理心中か』

 父は冷淡におれからの報告を繰り返した。

『私の方にも情報は入っている。この事実を公表すれば、業界は騒ぎになるだろう』

 おれは、浅間家の人間が自殺したことを世間に発表するのかと尋ねた。

『無論だ』

 まるで当然とでも言うように短く答えた。

『彼らが自殺したということは、息子らが巻き込まれた例の失踪騒ぎとは何も関係がないと公言しているも同然だからな』

 どこか嬉々とした声色。

 浅間兄妹が自殺する寸前に行方をくらませたという事実を隠蔽する魂胆なのは明白だった。

『お前の考えは杞憂だったというわけだ』

 おれは、父が言わんとしているところをすぐに汲んだ。

『浅間一家は工場の資金繰りに困窮した挙句、自らの保有する倉庫内で練炭自殺による無理心中を図った。だ。尾前町に伝わる神など、初めから何の関連性もなかったのだよ』

「そうですね」

 胸の奥から湧き上がる激しい感情を押し殺しながら言った。

 死人に口なしと言うが、浅間家の人々の場合、昨今の不況のあおりを受けた業績不振による一家心中だと、雄弁に語っていた。状況的に、そうとしか考えられなかった。

 ただ、ひとつ、浅間兄妹の遺したとされる遺書を除いては。

『まったく、それにしても迷惑な話だ。国家の進退に関わる重要な時期に、たかだか弱小企業の一家ごときが要らぬ問題を引き起こし、我々に余計な手間を掛けさせるなど……。危うく計画が暗礁あんしょうに乗り上げるところだったではないか』

 この人は、他人の不幸を何とも思っていない。むしろ、好機と捉えている。

 事実、政府にとって、一個人に端を発する一企業の損失など大した痛手ではない。

 すべては使い捨ての駒であり、取り換え可能な歯車なのだ。

 そして、おれも、有限な人的資本のひとつに過ぎない。

『なんにせよ、迷信深い愚民どもが口を揃えてのたまう祟りなどは、今回の計画に際して一切無関係だとわかった以上、我々が遠慮する必要は微塵もない。当初の予定通り、残った土地の買収を進め、少なくとも半年以内には全面的な工事に移行する。お前も、その心構えで事に臨め』

「承知しました」

 心を凍り付かせる。

『引き続き、現地調査及び町人に対する徹底した動向監視を頼む。反対勢力の好きにはさせるな。問題の早期発見と迅速な対応に努めろ。新国際空港開発計画を無事に終わらせられるかどうかは、特派員であるお前の手に掛かっていると言っても過言ではない。くれぐれも、そのことを忘れるんじゃないぞ』

「はい」

 そこで通話は終わった。

 静寂が広がる。

 いつもは騒がしいカエルの大合唱も聞こえない。

 おれの耳には何も届かない。

 もう、何も感じない。

 おれはそのまま自室に戻る。

 電気もつけず、真っ暗な部屋で、今までと、そして、これからのことを考える。

 父は、計画を完遂させるつもりでいる。もう、その心が揺らぐことはないだろう。

 報告の際、浅間と同じく、失踪した十兵衛のことも伝えようと思ったが、彼の場合、孤児院で暮らしているだけの、何の特徴もない少年だ。父にとっては、まさに道端に転がる石ころ同然、もはや彼が実際に存在しているともみなさないだろう。

 それだけじゃない、十兵衛は、のだ。父が、尾前町の住人を始めとした弱者の存在を頑なに認めようとしないように、孤児院と教会堂の大人たちが、卑劣にもそうしたように。人々の記憶から……、歴史から、跡形もなく抹消されたのだ。。これが多くの人間の共通見解だ。それは過去を改ざんするのと同様だった。

 そして、おれたちも、いずれ忘れる、時間が経過するにつれて、十兵衛のことなど徐々に重要ではなくなっていく。次第に頭の片隅に追いやられる。最終的に、完全に忘却する。

 そういう意味では、おれも同罪だった。

 現に、おれは、十兵衛について何も思っちゃいない。

 露木や呂久郎は違うだろうが、少なくとも、おれに、彼らほど十兵衛に肩入れできる理由や動機があるはずもない。

 結局のところ、彼は赤の他人だ。それも、計画に支障を来たしかねない邪魔物だ。おれにとって十兵衛という存在は、その程度の価値しかない。

 おれは、初めから、彼らを利用する、ただそれだけのために動いていたのではなかったか。

 何を、今さら、感傷的になろうとしているのだ。

 それは弱さだ。

 感情など捨て去るべきだ。

 父の警告は正しかった。

 現地住民と必要以上に親しくなって、一体、何の意味があるというのか。

 露木はおれを冷たい合理主義者だと評したが、なるほど、確かにその通りだ。

 おれは他人を利害得失の基準でしか判断しない。自分の役に立つとみなせば利用し、その逆であれば容赦なく切り捨てる。

 そうでなければ、おれは、この町の腐った因習の前に、あえなく飲まれていただろう。

「……おれは、自分の目的のために行動するだけだ」

 虚空に向かってつぶやいたその言葉は、おれに対して言っているのか、それとも……。

 ……いや、余計なことは考えるな。

 思考を乱してはならない。

 おれはいずれ政府高官となり、父に代わって日本を動かす立場となる男だ。その未来を実現する、ただそれだけのために動いていればいいのだ。

 そうすれば、おれは……。

 今度こそ、彼女を……。

「………」

 おれが政治家を目指す理由。

 それは、一体、なんのためか。

 

『約束……』


 ――そうだ。

 彼女との約束を果たすためではなかったか。

「………………」

 彼女との……約束?

 その時、おれの思考は停止した。突然、別の考えが降って湧いたかのように思い付いたからだ。

 ……あの巫女の少女を救うために、政府高官になる、だって?

 おかしい。

 おれが国家の犬になって、どうして彼女を救えるんだ?

 矛盾している。論理が破綻している。

 どうして、おれは、父の跡を継ぐのか……?

 それは……。

  

『約束……』


「……っち」

 やはり頭痛が酷い。側頭部が割れるように痛み、正常な思考を妨げる。

(これ以上……おれの邪魔をするのは許さんぞ……)

 もはや、何に対して敵意を向けているのかもわからない。


『約束……』


 またしても声が響く。

 意識を根こそぎ奪い去る頭痛と幻聴を、おれは無理やり抑え込んだ。

 そう……、すべてはまやかし……。理不尽で非現実的な出来事に幾度となく遭遇し、迷妄に陥ったおれが生み出した虚像に過ぎない。

 ……ここまで色々と考えた結果、おれは、あるひとつの結論に達した。

 おれは、今まで、壮大な勘違いをしていたのかもしれない。

『イイヅナ様』……、この地に古くから伝わる神様……。

 何のことはない。おれは騙されていたのだ。初めから、神の手のひらの上で踊らされていた。

 おかしいと思っていた。6日前、この町に来てから、何もかもが変だった。

 話は、まず、おれが尾前町の駅に降りて、果てしなく続く田舎道を歩いていた時にまで遡る。

 なぜかは知らないが、おれは、特に道に迷ったわけでもないのに、延々と、似たような道を歩かされた。まるで、おれを目的地に辿り着かせなくさせるように。

 途中で助け舟を出してくれた南条のおっさん――ただし、中島氏殺害における重要参考人――は、『キツネに化かされた』とうそぶいていたが、この、事実無根の、それこそ冗談にも似た表現が、じつは、的を射ていたとしたら?

 もしも――これも充分ありえない話だが――おれが、例の『イイヅナ様』に、化かされていたとしたら、どうだ?

 根拠ならある。

 おれが、『過去に、イイヅナ様と、この地を守る約束を交わした』と錯覚させることで、政府主導の新国際空港開発計画を遅れさせる、あるいは中止させようと企んだ。……それが、理由だ。

 自らが長きにわたって守護してきた土地を、どこの馬の骨ともわからない奴らが奪い、我が物顔で支配する。尾前町の守り神にとっては、まさに身を切られる思いに違いない。

 だから、おれを利用した。あたかも『イイヅナ様』と縁があるように騙し、誤魔化し、欺き、操った。

『イイヅナ様』の目論見は的中した。見事、おれは騙されたわけだ。

 担がれたんだ。見目の良い女にたぶらかされたのと同じで、おれは、神にまんまとめられたのだ。

 ようやく目が覚めた。

 今まで自覚していなかったが、客観的に見れば、おれは、女にうつつを抜かしていた間抜けな男だというのが嫌でもわかった。

 まったく、我ながら情けない。人の上に立つべき人間であるおれが、このような手口に引っ掛かるとは!

 もはや呆れを通り越し、怒りを覚える始末だ。

 色恋沙汰に傾注する連中の根底にある心理というのは、所詮は自己満足の類。そのような行動原理は盲目的且つ排他的で、正当性はおろか、合理性の欠片もない。あるのは、極めて利己的で独善的な、本能的な動きのみ。

 おれは、そんな愚鈍で低俗な奴らと同じ状態に陥っていた。恥ずかしい話だが、そういうことだった。

 すべては……あの時から始まっていたのだ。おれが、この地に足を踏み入れた時から……。

 5年前のことなど、関係ない。

 それこそ、『イイヅナ様』が用意した、おれを欺くための設定だ。

 くだらない。

 何が……、何が、約束だ。

 すべては夢。

 夢だ。

 そこに、何の信憑性も持たせることはできない。

(もしも……こうした超常現象的な仮説を立てることが許されるとしたら……)

 何もかも、『イイヅナ様』の仕業。そう考えるのが妥当だ。

 他に、どんな可能性がある?

 おれは、だ。

 断じて、『ヒトシ』などという人物ではない。

(まったく、馬鹿馬鹿しい。どうしておれが、こんなことでいちいち頭を悩まさなければいけないのか……)

 一連の思考に終止符を打つ。

 明日もまた、やるべきことがある。

 可能な限り不安要素を排除し、無事に新国際空港開発計画を遂行させる。

 特派員としてのおれがすることは、ただ、それだけだ。

 早々に寝る支度を済ませ、横になる。

『――我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺きたまひしか』

 ふと、小説の『舞姫』の一節が思い浮かんだが、これを慌てて振り払った。

 エリスは、自分を置いて単身日本に帰郷する豊太郎を責め、非難した挙句、精神を狂わせた。

 この時、すでに彼女は子供を身ごもっていたにもかかわらず、豊太郎は……。

「…………」

 おれは……おれは違う。

 断じて……。

 学問と恋愛の両立。

 おれには、関係のない話だ。

 一生、縁のない話だ……。

 やがて、意識は闇に溶けていった。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。


『ねえ、あなたはこの先どうするつもりなの?』

 深夜。恒例の情報交換も終盤に差し掛かった頃、不意に彼女ヒューミントが尋ねた。

「お前は私語をいちいち挟まないと仕事が遂行できないのか?」

『別にいいでしょ。もうすぐ例の計画も終わるんだし』

「ずいぶんと気が早いな。そんなことでは、お前も彼のように致命的な失態を演じかねないぞ?」

 あの男の末路を引き合いに出すと、さすがの彼女ヒューミントも押し黙る。

 おれの今後の予定は、すべて決まっていた。

 神田製鉄は倒産。浅間一家は全滅。孤児院の十兵衛は失踪。そして、浅間と十兵衛の両者ともに、警察の捜査の目を欺くように遺書を拵えさせた。

 特に十兵衛の場合、『天狗攫い』などというくだらん因習に周囲が惑わされ、迷信に過ぎない神の祟りを恐れるあまり、率先して彼の存在自体を隠蔽し、事件性すら匂わせないまま、究極的には行方不明という事実さえも揉み消すことだろう。

 前者である浅間一家の無理心中に比べ、後者が及ぼすであろう世間への影響は微々たるものだが、地元民の動揺や、それこそ奴の迷いを誘発させられれば、それだけで儲けもの。

 現に、奴は、自分が歩むべき道に惑っている始末ではないか。

 例の、失態を犯した男への処罰も済んだ。

 すべてはおれの目論見通り。

 彼女ヒューミントから聞いた『A』の情報によると、地元民の政府に対する反感は、すでに相当な規模にまで膨れ上がっているらしい。

 いくら情報統制を布いていたとしても、ここ数年にわたる政策への不信感だけは封じ込むことは不可能だ。

 こうなれば、もう、奴ごときの力ではどうにもなるまい。

 時期が整いつつある。

 あとは、おれ自身の目的に邪魔な人物を始末し、おれの知りたい情報を手に入れるだけ。

『……ねえ、聞いてる?』

 電話口から届いた彼女ヒューミントの声で、不意に現実に立ち返る。

 どうやら、先ほどからずっと呼びかけていたようだ。

「大丈夫だ、ちゃんと聞いている」

 頭を軽く振って答えると、あからさまな疑問の声が上がった。

『ホント~? あなたって、たま~に反応が鈍くなる時があるからさ~。普段が機械並みに応答が速いのもあって、なんだか不気味なのよね~』

「問題ない。ただ、頭痛が酷いだけだ」

『頭痛? 何それ、なんだからしくないわね』

「おれも普通の人間だ。頭痛ぐらいはあるさ」

『まあ、それはわかったけど、ちょっと拍子抜けね。あなたのような完全無欠の完璧超人が、まさか頭が痛いって弱音を吐くなんて。ちょびっとだけ親近感が湧いたわ』

「体調のことはいい。それよりも、お前はおれに聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

『……じゃあ、お言葉に甘えて聞きますけど、あなたは、今回の計画が無事に済んだら、この先どうするつもり?』

 さっきと同じ質問。よほどおれの行く末に興味があるらしい。

 探りを入れているのか、それとも、純粋な好奇心によるものか。

 迷わず、前者と仮定した。

「別に、どうもしない。おれはおれの道を貫くだけだ」

『ヒュー、クールね。惚れ惚れしちゃうわ~』

 彼女ヒューミントは茶化すが、これがおれの本心だった。

 元より、おれは、自分の目的を達成させること以外に何の興味もない。

 今はまだ組織に属しているとはいえ、特派員としての役割もある。

 ひとまず、『亜細亜八月同盟AAA』からは足を洗うだろう。

 ここでやることは終わった。

 何も未練はない。

『ひょっとして、組織を抜けるつもり?』

「さあ、どうかな」

 ごねられると面倒なので、濁しておく。

『もったいないわね、あなたほどの実力があれば、本部にもスカウトされそうなものだけど』

 だが、文脈からおれが脱退することを察したのか、彼女ヒューミントはおれを引き留めるようなことを言う。

「まさか、おれにそこまでの影響力はない」

『またまた~、謙遜しちゃって~、自信過剰のあなたらしくないわよ~?』

「謙遜も何も、事実だ。組織は『A』さえいれば上手く回る。今までがそうだったようにな」

『うーん、わたしはそうは思わないけどね』

 ……っち。

 おれに続投の意志はないにもかかわらず、彼女ヒューミントはしつこく尋ねてきた。

「おれが組織を離れたら不都合な点でもあるのか?」

 いい加減、付き合い切れないので、口調を強めて詰問した。

 しかし、彼女ヒューミントは怯んだ様子も見せずにこう答えた。

『正直な話、弱体化は免れないでしょうね。組織へのあなたの貢献度は群を抜いているもの。そんな有力な人材がいなくなったとなれば、最悪、上層部が瓦解がかいしかねないわ』

「そんなことはおれの知ったことではない」

『彼……『A』が言っていたわよ。あなたは素晴らしい才能の持ち主だって』

「策略家としてのか? 笑えないジョークだ」

 周囲の称賛を一笑に付す。

 おれは、敵を罠にはめるために頭脳を用いているつもりは毛頭ない。目的を果たすための手段として、結果的に敵をおとしめているだけ。

「おれは人間に対する興味関心はこれっぽっちもない。組織の忠誠度とか精神論的な考えはまっぴら御免だ。そっちで勝手にやってくれ」

『もう、相変わらず素っ気ないんだから』

「合理的と解釈してくれると助かるんだが」

『それにしても、ホント、不思議な人ね、あなたは』

「どういう意味だ、それは」

『変な意味じゃないわよ? ただ、あなたは他の人たちとはまったく違う気がするから』

「違うって、どう違うと言うんだ?」

『なんて言うの? いつもは冷静沈着、それこそ怖いぐらい冷酷に事を進める反面、根底にあるのは鬼気迫る凄まじい執念というか……、ちょっと伝わり辛いだろうけど、要するに、静と動、互いに相反する感情が見事に同居してるって感じで、末恐ろしさを抱かずにはいられないのよ』

 ……そんなことか。

 おれは小さく溜め息をついた。

「さあ、実際のところはどうだろうな。案外、おれも、その他大勢の人間と同じで、取るに足らない詰まらぬ人間かもしれないぞ?」

『そうやって余裕たっぷりに返すところが、常人とはまず大きく異なっているんだけれどね』

「ふん……」

『ねえ、あなたの本当の目的は……なに?』

「……」

 埒が明かないので話を打ち切ろうかと思った矢先、彼女ヒューミントが突然そんなことを尋ねる。

『他のメンバーは、愛国心だったりとか、それこそ自然をこよなく愛しているからこそ、今の日本のやり方に不満を抱き、反抗しているわけだけど、あなたはそのどれにも当てはまらない。これまでの言動からして、そうとしか思えない。それなのに、どうして組織に加担するの?』

 彼女ヒューミントの鋭い洞察力を前に、少々、呆気に取られたおれは、その質問の意図を汲むのに時間を要した。

「……目的、か」

 おれは自分の役割を今一度見つめ直す。

「そんなことは、お前もよくわかっているはずだ」

 すげなく答えると、重たい沈黙が返ってきた。

「おれは日本が憎い。今の政府が憎い。理由なんて、それで充分じゃないか?」

 これは嘘だった。

 そのことを知ってか知らずか、彼女ヒューミントは尚も無反応だった。

 おれはともかく、少なくとも、彼女ヒューミントはこの国を嫌悪していたはずだ。

 

 逆に、彼女ヒューミントの方は、今までの口ぶりから察するに、おれの正体を未だに把握しかねているようだ。

 あるいは、おれにそう思わせるための演技なのか。

 いずれにせよ、工作員スパイ同士は互いの素性を知ってはならないという暗黙のルールがある。万が一、敵対組織や国家権力に捕まった際、拷問などによって味方の口が割られると、そこから組織の内情が敵に知られることになり、一気に瓦解する恐れがあるからだ。

 もっとも、現地で工作員スパイ協力者エージェントをスカウト、使役する立場にある司令塔ハンドラーのおれは例外とも言えるが。

「それよりも、木田組の連中の買収は順調に進んでいるんだろうな?」

『……ええ、問題ないわ』

「ならば、いい」

 無機質な彼女ヒューミントの返答に満足する。

 仁義を重んじるあまり、いまだに非合理的なやり方を推進する、大田原会長を筆頭とする暁光会の重鎮たち。徐々に台頭しつつあるのは、新国際空港開発にも寛容的な若い衆だが、時代の変化に対応できず、古い体制にしがみつく者も数多くいる。

 ヤクザというのはメンツを異様に気にする。ならば、おれは、その特性を逆手に取るまでだ。

 そのために、のだからな。

 もうじき、約束は果たされる。

「話は終わりだ。もう切るぞ」

 返事を待たずして受話器を置く。

 約束。

 約束を果たすこと。

 おれの願いは、ただ、それだけだった。

「……ふん」

 彼女ヒューミントとの通話を終え、ひと息つく。

 すぐに、電話が鳴った。

 何か言い忘れたことでもあるのか――おれはすぐに受話器を取った。

「こちら『亜細亜八月同盟AAA』尾前町支部、用件は何か?」

『……私だ』

 ――!

 豪壮な寺社を支える大黒柱を思わせる、重厚な声の響き。

 瞬時に、背筋が張った。

「これはこれは、偉大なる我らが指導者ドゥーチェ。ご無沙汰しております」

 電話の主に対して、思い切りへりくだる。

「まさか、あなたの方からご一報をくださるとは思ってもいませんでしたよ」

『だろうな……』

 重々しく答える。

 彼の紡ぐ言葉の一言一句が、順調に任務を遂行するおれの気持ちを否が応でも引き締まらせる。

 そう、彼こそが『A』。『亜細亜八月同盟AAA』尾前町支部のリーダーにして、共産圏の国々と太いパイプを持つ凄腕の工作員。噂では『国家保安委員会KGB』と通じているとも目されているが、真偽のほどは定かではない。

『首尾はどうだ?』

「僕の方は順調です。具体的には、あの例の一家を無理心中を始末し、ターゲットのひとりである孤児院の少年についても同様に、手筈通り、身柄を確保しました」

 世間話でもするように報告を済ませる。

「それで、交渉の方はいかがでしたか?」

 おれの話もそこそこに、早速、本題に入る。

『A』は、来たるべき計画、その決行のための最終準備として、暁光会の太田原会長と何度もスケジュールを確認し合っていた。

 おそらく、今回、こうして彼から連絡を入れたのも、その成否を伝えるためだろう。

 おれは全身を耳にして『A』の言葉を待った。

『……話は纏まった。彼らは我々に快く協力してくれるそうだ』

「それは願ってもない話です」

 にやりとほくそ笑む。

 暁光会は、特別、左派というわけではないが、国にこびへつらう木田組が気に入らないようで、源流を同じくしていながら分裂状態にある。

 まったく、愚かというほかない軋轢あつれきを生じさせている奴らの不和を利用し、おれたちは両者の抗争意欲を煽り、扇動していた。

 これは、計画成就のためには是非とも必要なことだった。

 なぜなら――。

「では、例の作戦の決行は……」

『予定通り、脅迫状に記述した日程通りに行う』

「左様ですか」

 ――これで、尾前町の運命は決まった。

 売国奴である町長と同等の権力を誇る暁光会を味方につけたとなれば、町の行く末を左右する手綱を握ったも同然。

 胸のつかえが取れた気分だ。ひとまずの懸念は払拭されたと言っていい。

 だが、おれにはもうひとつ、どうしても解決すべき問題があった。

「偉大なる指導者ドゥーチェよ、ひとつ、お尋ねしたいのですが」

『質問を許可する』

「どうして、彼を殺さなかったのですか?」

 責めるように言うと、沈黙が返ってきた。

「僕は、あなたの指示にあったように彼を捕らえ、小屋に拉致しました。これ以上、我々の計画に深入りさせないために」

 だからこそ、おれは、奴が罠に掛かるように誘導していた。

「我々の計画に横槍を入れるような邪魔者を排除するには、その反乱分子を殺すのが一番手っ取り早い。死人に口なしと言いますからね」

 墓場の下にいる人間が、生きた人間を妨害することはできない。

「だから僕は、不思議でたまらなかったんです。あなたのような完全無欠なお方が、どうしてみすみす獲物を逃すような真似をしたのか」

 知らないとは言わせない。彼女ヒューミントから、そのような報告を受けたばかりなのだから。

「まさか、情けをかけた、などとは申し上げませんよね? 目標達成率99パーセントを超えるあなたほどの工作員が私情を挟むなど、あってはならないことですからね」

『もちろんだ……、私の方に不備はない。敵に対する一切の妥協も、哀れみも、あるはずがなかろう』

 言葉は強いが、起伏に乏しい声色。

 相変わらず、読めない男だ。

「それにしては、いささか詰めが甘かったのではないかと、僕はそう思いますがね」

 だが、おれは知っている。『A』の弱点を。

 なぜなら、おれが拉致したあの男は、『A』と旧知の仲にあるからだ。

 つまり、温情によって釈放した可能性がある。

 いくら『A』ほどの人間とは言え、任務に私情を挟むなど、許されることではない。

「確かに、彼は、我々の計画の成就に欠かせないある重要な秘密を握っています。すぐに殺す、というのは芸がない。これはわかります、充分に納得できる理由と言えましょう。しかし、だからこそ、我々にとって必要な情報を吐かせるために徹底的に拷問し、それを聞き出したうえで始末すればよかったのです。そうすれば、すべては丸く収まります。目障りな敵対者は消え、組織の存在が露見する心配はなくなり、目的は達成される。我々の独り勝ちというわけです」

 これしきのことで、奴が尾前町の調査を諦めるとは思えない。

 そこで、『A』は重たい口を開いた。

『お前の言いたいことはわかる。私としても、お前の言うような目論見がなかったわけではない。だが、実際にそれを行動に移したところで、上手く事が運んだとは、到底、思えない』

「と、言いますと?」

『ターゲットである彼は若いが、しかし、なかなかの曲者だ。一筋縄でいかないのは目に見えている。現に、すでに町の人間に対して大なり小なりコネを作っている。わずか数日間という少ない期間にもかかわらず、順調に外堀を埋めている。これが意味するところは、お前にならわかるはずだ』

「つまり、いつ自分に危害が及んでもいいように保険を用意していたと?」

『いかにも。連中も馬鹿ではない、我々『亜細亜八月同盟AAA』の尻尾ぐらいは掴んでいる、それは間違いないだろう。そんな時に、彼が必要以上に傷付き、前線から退いたらどうなる?』

 ……さすが、わかっているじゃないか。

『A』の考えを聞き、おれは満足した。

「なるほど、負傷した彼に代わって、情報収集に長けた手慣れが出て来たら、かなり厄介なことになりますね」

 もっとも、今のおれなら、相手が誰であろうが出し抜く自信があるが。

『奴らも、我々がどのような手を打つかわかっていないからこそ、大々的な調査に乗り出すことができず、こうした水面下での動きに甘んじているのだ』

「彼をあえて泳がせているからこそ、僕たちの身の安全が保障されていると」

『いかにも』

「さすがですね……、敵を欺くにはまず味方からと、そういうわけですか」

『滅多なことを言うな。切れ者のお前のことだ、わざわざ私の考えなど聞かずとも、最初からお見通しだったのだろう?』

「まさか……」

 まったくもってその通りだ。

『あの男は使える。只で死なすのには惜しい逸材だ』

「へえ……」

 他人を滅多に褒めない『A』にしては、なかなかの高評価。

 なんだかけてしまうな。

「しかし、あなたのたぐいまれなる頭脳が導き出す崇高な考えにあえて異を唱えさせてもらうなら、それこそ、彼が有能のゆえに、僕たちの計画が水泡すいほうに帰す可能性も高まってしまうのでは?」

 現に、奴は真相に近付きつつある。

 もっとも、おれが故意におびき寄せている節もあるのだが、万一というのがある。

『A』は、そうしたおれの懸念が杞憂だとでも言うように小さく息を吐いた。

『心配は無用だ。確かに彼は、お前に負けず劣らず切れ者だが、私たちもまた、自ら墓穴を掘るほど愚かではない。なにせ、我らが『亜細亜八月同盟AAA』には、有能なブレーンである司令塔ハンドラー……、お前がいるのだからな』

「またまた、空世辞を……」

 皮肉には皮肉で応える。

「それにしても、あなたは随分と、彼を買っているようですね」

『お前も、本当は、彼を殺そうなどとは微塵も思っていないのだろう?』

「……ふ」

 鋭いな。

「なぜ、そう思うのですか?」

『簡単な話だ。お前もまた、彼を買っているからだ』

「その根拠は?」

『お前が彼に執着しているのを見れば、事実は自ずと明らかだ』

「執着? 僕が? 他人などに?」

『とぼけても無駄だ。お前は、彼に一目置いている。だから、彼を始末しようなどとうそぶく。本当に興味がなければ、特に関心を抱くこともせずにそのまま捨て置くはずだ。彼が生きようが死のうが、自分の関知するところではないと言ってな。普段のお前の思考回路からすれば、当然の帰結だ』

「なるほど」

 おれは笑わずにはいられなかった。

「そこまでお見通しとは、さすがですね」

 やはり鋭い。

 確かに『A』の言う通り、おれはあの男には死んで欲しくない。少なくとも、今はまだ。

「いずれにせよ、彼には計画のいしずえになってもらわないと困りますね」

 そのために、あえて生かしておいているのだからな。

『うむ……、彼の生殺与奪権は我々にあるというわけだ』

 まさにまな板の鯉。

 奴は常におれたちの手のひらの上。

「では……、来たるべき革命の日に備え、しばしの相談を……」

『よかろう』

 その後、おれと『A』は、計画の細かい予定を組むために色々と話し合った。

 頭痛は、もうない。

 おれは、完全に、おれを確立しつつあった。

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