第15話社会人には「気配り」が必要です。Part1
「えっ…修学旅行の自由行動、神崎と同じグループなの?」
「そうだよ?だって、柊君いなかったんだから何処のグループになっても文句言えないでしょ?」
「うっ、確かにそうだ。」
「よろしい。」
そこには勝ち誇った顔の
教室に戻ってみるといきなりそんな言葉を告げられた。
そんな戸惑ってる俺を教室の隅でふんぞり返ってほくそ笑んでいる担任に少し苛立ちを感じてしまう。
しかし、彼女と同じグループになるというのは
彼女の周りには、いつも人がいる。
鼻にかけない優等生ぶりは誰から見ても憧れの的なのだろう。誰しも憧れには近づきたいものだ。
「男子の方はジャンケンで、あなたと服部君、穂波君になったんだけど。でも、ちょっと困ったことになっててるのよ。」
「ちょっと待て…
「うちのクラスに、その君以外に君はいないわ。」
「うぉおおおおお。」
「ちょっと、うるさいわね。」
俺は大きな雄叫びと共にガッツポーズをしてしまった。
俺みたいな日陰者にも優しい。そして可愛い。
そんな穂波と同じグループになるなんて、2回目の高校生活も悪くない。(1回目は面倒くさくてそもそも行かなかった。)
俺は、いきなり叫んだことが急に恥ずかしくなり、わざとらしい咳払いをしてみせた。
「ゴホンッ…話を戻そう。それで困ったことって。」
「男の方は私と一緒になりたいグループは公平にジャンケンして決まったみたいなんだけど、肝心な私のグループが決まらないのよ。」
「は?グループ決まってないのに男のくっ付くグループはもう決まってるの?と言うより、神崎のグループが決まらないって?」
「3人ペアで作らなきゃいけないんだけど、私と一緒になりたい子が4人いるの。それで揉めちゃっててね。収拾がつかないのよ。」
そう言う彼女は、心底困ったような顔をしている。しかし、別に誰とでも良いじゃないか。社会人になれば嫌いな奴と出張とか全然あるしな。今から経験させるのも悪いことじゃない。
まあ、彼女には手っ取り早い解決方法を提示してみるか。
「神崎が決めたらいいんじゃないのか?」
「1人選ぶだけなら私が他に移動しちゃえばいいけど、2人選ぶって結局誰かを弾くことになるからね。今後の関係性考えると難しいのよ。」
来年失踪するやつが今後の関係性の不安を述べんのかよ。まあ、今の時期から失踪しようなんて考えてないのかもな。
でも、自分が悪者になりきれないことを考えた上での色々困っているのだろう。
しょうがないここは奥の手を使うか。
俺は大きく挙手をした。
「
「んー、よかろう。」
彼女は、かったるそうにオズオズとこちらへ来る。
俺は彼女に諸々の説明をした。彼女は全て聞き終わると口を開いた。
「なるほど。で、私にどうしろと?」
この発言で理解した。彼女がこの問題に取り合うつもりがないことが。けれど、話したからにはダメ元でも会話を続けねばならない。商談だって成立しなくても、商談はある程度続けなければいけない。
社会人を思い出して、背中に汗をかいてシャツが張り付く。
「このままじゃ決まらないんで、先生に決めて貰おうと思ったのですが。」
「柊、お前はいなくて聞いていなかったかもしれないが、私はホームルームの始めに『グループを各自作って、出来たら報告しろ。』と言った。グループを作るまではお前達の仕事だろ?」
ぐうの音も出ない。17歳への対応として厳しいものかもしれないが、そういう方針なのだから仕方ない。(マジで有能かもしれないけど、上司にしたくない。)
仕方ない、アプローチを変えるしかない。
「先生はグループが決まればどんな解決方法でもいいんですか?」
彼女は見透かしたような薄笑いを浮べる。
「問題にならない程度なら私はどんなでも構わないよ。でも、
そう言うと、彼女は教室の端で気まずそうに孤独に立っている桜井かのじょに目をやる。 俺もその視線に釣られて
誰からも誘われず、誰かを誘おうという勇気もなかったのだろう。俯いている姿は泣いているようにも見えていたたまれない。
確かに、このままだと彼女とペアになった女子達は彼女をハズレくじ扱いをしてしまうだろう。
彼女に罪はない。
絶対に彼女が傷つくことだけはあってはいけない
。
俺の近くで盗み聞きしている問題の4人組は「は?」という意味がわからない顔をしている。
きっと、こういうことは社会人になっても分からない人には分からないことなんだろうと思う。(先生、マジ有能!こういう人の下で働きたいわ。)
俺は少しため息を吐いた。そして、しっかりと意志を込めて返事をした。
「はい。任せてください。
「よろしい。」
彼女の綻んだ顔を見て、きっとこれから俺がだす結論が正当なのだと教えてくれている気がした。
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